トリップ編
(占星術士の全国行脚)
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さくさくさく。街道から少し外れた山道を行く。何故自ら険しい道を進むのか。素直に街道を行きゃいいものを。
それというのも答えは簡単。近道をしようと考えたからである。この峠を越えりゃあっという間に堺。早く着くに越したこたぁない。それに人の多い所のほうが路銀を稼ぎやすい。色々な噂話も耳に入ってくるし。松永にも多少金子を与えられた事だしちょいとばかしなら酒も飲めよう。

その時を想像したのか口元が緩む。おっと危ない。これが町中であったならまず間違いなく不審者だ。一人だからと気を抜いてはいかん。この気の緩みが尾を引きやがる。己の居た時代よりも此処のほうがそういう者への当たりは強い。旅人だから平気だろうが。村八分のような状況に陥るのは。
ふぅと溜め息。疲れたのかはたまたそれを思い描いたのか。彼女にしか分からぬ。

木の幹や枝を手摺のように扱って登りゆく。歩いたとしてこんな風に道なき道や一日に何町も。無い無い。あったとして運動を専門に行う人間ぐらいだ。己はそんなんではない。最初の頃に比べて大分歩き回るのも慣れたもんだが。

『もっと事前準備としてジムでも行っときゃよかったか…。』

普段の仕事は座りっぱ。運動と言えば自宅から仕事場までの。要は通勤に歩くぐらい。しかも途中電車を使うから運動とも言えぬ。崖っぷちではあるが十代だというのに。この体たらく。
だがふと思う。この仕事が終わってまた帰ったなら。結構筋肉付いてるんじゃなかろうかと。この調子なら足がムキムキになりそうな。…駄目だ。駄目だ止めてくれ。仕事着として露出の多い衣装やらを着るのだ。すらりと伸びる手足がムキムキだったらもう。占い師は副業ですか?と思われそうだ。
頭を振りながら目前の藪を左右に掻き分けた。

『マジでか』
「ピィーッ!」

草むらに埋もれる煤竹色。蜜色の瞳が力強く此方を睨んでいる。そして甲高く鳴き、警戒と敵意を表した。
俗に言う鷹という生物を生まれて初めてこんな間近で見た。おお、デカい。ばさばさと羽を広げとるがそれが姿をより大きく感じさせ。人を持てるんじゃないかとすら思えてしまう。それにしても。なあんでコイツは地面になどおるのか。お前は空の王者だろうに。高い木の上から地を眺めるんだろうに。

どうしたんだと鷹全体を眺めて。ああと納得。動物用の罠に足が絡め取られとる。こりゃ飛びたくとも飛べんわな。この辺りを縄張りにしとる猟師が仕掛けたものだろう。鹿や猪を狙ったか。よもや鳥が掛かるとは思わんかったろうて。恐らくは獲物を取ろうとして滑空してきたところを誤って。ほれ、其処に絶命した野うさぎがおる。
初めの一刀で命を刈り取るとは。お見事。



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