羽ばたきと甲高い音が耳に触れる。どちらも人にゃ出せん音。来たか。くるり。振り返りゃ案の定。手摺に爪を食い込ませ。、折り畳まんとする津々四の姿が。背を確認すると今日もあの筒を背負っとった。良し、返事はありそうだ。これで中身が空っぽときたら泣いてしまう。しないけども。 柔和な笑みを携えて津々四に近付く。そぅっと手を伸ばし。嘴を撫ぜようと試みりゃ。がぶり。噛まれてしまった。相変わらずつれない。こうして顔を合わせんのはこれで六度目。そろそろ慣れても良かろうに。その身を許すのは主だけ、という事か。その忠義を足軽たちにも見習わせたいくらいだ。
威嚇程度の噛み付きなので血は出ない。ぱかりと外れた手で背負っていた筒を取った。開けてみればやはり其所には丸められた紙。未だ見ぬ津々四の主から文の返事。ゆるり。口角を上げて摘まむように文を引っ張り出す。 半兵衛が初めに出した文から、数えて三度目の返事。津々四が主の元に我らを導かぬと言うのなら。こうして文のやり取りをして懐柔してやろうという算段だった。腹黒い?失敬な。計算高いと言ってくれ。
先日の礼から世間話。そしてやんわりとしかし分かり易く顔を拝見したいという旨。会ってみなけりゃどんな人物か分からん。が、会ってしまえばこっちのもん。どういう人となりかを考えてそれに適した対応を取りゃ。手中に収めんのは難しくはない。最悪、武器を向けて脅せばいい。乱暴だなんてそんな。こちとら現役の戦国武将だぞ。武力行使の一つや二つ。何のその。 するすると巻かれた文を広げ癖の無い字の羅列を目で追った。
「…思ったより、早かったな。」
他にもつらつらと何事かが綴られとったが重要ではない部分などに用は。丸められていたからか離せばくるんと元の形に戻る。それを握り潰す真似はせんけども。津々四の手前いうんもある。 かたり。小さな音を立てて文机の引き出しを開け。真っさらな半紙。それを小さく小さく切り。手早く筆と硯、そして墨を整えて。紙に短く。本当に短ぁく了承の旨を紙に染み込ませた。
さて、これで相手はどう出るか。このやり取り、駆け引きがやや楽しい。
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