トリップ編
(占星術士の全国行脚)
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大和を出立し、冬の気配を感じながらも足を進める。生憎気配なんぞ読めはせん。ので、あの梟が忍を放っているかも分からんかった。
悪い事は何一つしとらん。しかし不可解な人物を易々と見逃しはせんだろう。己で言うのも何だけど。職業と名。それと少しの能力。明確な出身も何も分からない。身分を証明出来るものが何一つ無いのだ。下手をしたら間者と疑われても仕方ない。探る為に忍び込み、陥れる為に呪術を掛け。あながち間違いじゃないので何とも言えん。そんなわきゃ無いけども。

大和と河内とを隔てる山。その中腹辺りで一休み。そこいらの木の上に腰を降ろす。煙管を取り出しゃ初っぱなを思い出す。あの時も今も面倒くささは変わらん。まぁ、何とかなろう。
久秀が追ってくるならそれで。勘でしかないがあれはそういう事はしなさそうだし。ただ引っ掛かるのがそういう気になったならば。あの男は完全に気分屋だから。何時何をしやるか分からん。やれやれ。煙と溜め息を吐き出す。荷の中から四つ折りの紙を取り出した。かさり。葉の音に混じってそれを広げる。

『さぁてお次はっと…。』

広げた紙は日本地図。
人差し指を当てる。場所は大和。其処からつつつと指を滑らし関西、西日本を撫で。豊後辺りでぴたりと止まる。ううむ、そうかそうか。此処にあるか。
念の為。荷から八角形の板のようなものを手に取る。この頃は唐と呼ばれる国の、占いの道具。羅盤。今はタロットよりも此方の方が良い。我ながら節操がない。一つの方法に拘らないとは。まあまあ、こういう人間が一人くらい居ても良かろ。己を己で擁護だ。

さてそれはさておき。早速羅盤を使うて視てみる。ふむふむ。ほほう。なぁるほど。よぅく分かった。やはり求めているものは其処にある。次の目的地は決まった。西国ならば雪も多くは降らなかろう。後は出来るだけ山中を進まんようにすれば。


地図を畳み羅盤と共に荷に仕舞う。後もう少しだけ一休みにしようと煙管に口を付ける。そして思い起こすのは此処に来るよりも前の事。六月一日にとっての現代。二十一世紀、平成の世。夢幻の世界にて、現実では会えよう筈もない御方と御会いして。頼まれたのはこの世界、この時代に来て探し物をする事。断る理由も無い。というよりは断れん。何せこんな風に頼み事を言える人間は限られてしまっておる。己が断れば次は僧侶か巫女か。
失礼かもしれんがその方らが上手く立ち回れるとも思えぬ。その分自分ならば反則技に近い力がある。言わずと知れた占いだ。それを使えば。

楽しやがって。そう言われるかもしれない。それがどうした。必要以上に苦労する事は避けたかろう。

『…うし。じゃあ行きゃぁっすか』

次なる目的地は九州は豊後。
道程は全て徒歩な為どれぐらい掛かるか分からんが。まあ一つ。気長にお付き合い下さいよ。



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