トリップ編
(占星術士の全国行脚)
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そうしている内にいつしか略奪者と名が知れた訳だが。

「何も変わらないだろうね。偽っていようと本質を出そうとも。」

衣擦れが耳を擽る。其所で漸く紅葉から視線を久秀へ。ぱんぱん。乾いた音。手を叩いていた。さすれば、たちまちに女中が何かを抱えやって来る。ふぅむ控えさせていたらしい。こちとらしがない占い師。気配なぞ読めよう筈も無かろうて。期待しないで頂きたい。
はてさて何をしやるのか。口は挟まず事の成り行きを見守ってみる。女中が久秀の傍らで膝を付けば。ごとり。何やら重たげな音。なんだなんだ。武器か?やめておくれ、笑えやせん。

「さて、話は変わるが。六月一日、卿は花の心得はあるかね」
『たしなみ程度ではございますが』
「重畳重畳。では此れに見事花を生けて見たまえ」

此れ。と言って差し出すのは重厚な造りの水盆。黒地に一筋。銀が巻きつく。流石収集家。立派な品をお持ちで。真っ当な手段で手に入れたかは知らんが。そらと渡され受け取る。どっしりと重い。
花。花とな。出来るっちゃ出来るが。本当にたしなむ程度。久秀を納得させられるかと言えばそうでもない。現代じゃたしなめるだけ大したものだもの。

更に女中に言いつけ花や鋏の支度をさせる。ほぅ、どうやら最初からこれが目的であったらしい。回りくどいお人だ。言い換えるなら、やはり面倒。どうしたものか。ふと、庭の紅葉が目に入る。嗚呼、うん、そうしよう。

『松永様。』
「どうかしたかね。」
『手前の本質をご覧になりたいと仰いましたね?』
「おや、見せる気になったかね?」
『えぇ。ですので、ちょいとお手を拝借。』

盆を抱えたまま立ち上がる。相変わらずのあの笑顔。差し伸べられた手に手を重ねれば緩く引かれ。まるで女役じゃあないか。遊郭やら何やらで自分が女相手にした事はあれど。された事は今に至るまで無かった。先日の憑き物と言い、また貴重な体験をしたものだ。
さぁ何処へ連れて行こうと言うのか。期待しておればなんて事はない。彼女を泊まらせておる部屋だ。何だ、と少ぅしつまらなくなる。

しかしそれにしても彼女は何と言うか。そう、男らしい。手を差し伸べる事もそうだが両手が塞がった状態で如何にして障子を開けるのかと思えば。驚くなかれ。躊躇なく足で開けおったのだ!女中がぽかんと口を開けてしまっておる。
はしたない。そう叱られても仕方のない事。なんせ太ももが見えてしまった。良いものを見た。魅力的な凹凸の少ない彼女だが、足は誉めても言いかもしれない。

さて、それでどうするのか。女が男を部屋に招き入れるなんて。はしたない。二回目。何をされても文句は言えんぞ。そちらがその気ならこちらもそうするが。女の折角の誘いを無下にする程不躾ではない。やや楽しくなりながら女の動向を伺っていれば。するり。手を離される。おやもう御仕舞いか。
ごとん。盆を出窓の下に置く。

『さぁ篤とご覧じろ。花じゃありゃせんが負けず劣らずのもん生けてやんよ!』

窓の障子に手を掛け、一気に横に引く。
丸く切り抜かれたその先には色鮮やかな紅葉。手前に置かれた水盆にこれはお見事。これ程に美しい生け花は見たことがない。
耐えきれず、久秀は吹き出した。



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