トリップ編
(占星術士の全国行脚)
bsrトリップ編 | ナノ


椿に牡丹。山茶花に南天。
冬は多くの植物が眠りにつく。けれど。冬にこそ咲き。実を結ぶ植物も少なかない。だとして。これはこの季節には居らんなぁ。と膝辺りで風に揺れるそれを見やる。

濃い緑色の茎。葉。目にも鮮やかな六角状の萼。橙。鬼灯が茂みにひっそりと。だが決して無視出来ないような存在感を放ち。そこにおった。
さてはて。鬼灯の時期は夏と記憶しとったが。狂い咲くにしたって些か度を越しておる。
強制的に衣更えする羽目になった。外套から手を出し。さすり。顎を一撫で。こいつぁ面倒…いやいや大事だなぁ。えぇうんうん大丈夫。見なかったふりなどしませんとも。己が何もしなければ。人命が失われてしまう。流石にそりゃあ夢見が悪い。

彼女は別に。視える全てを助けようたぁ思ぅとらん。んな事すりゃ。この身が滅ぶのはあっちゅう間。己はこの世に一人だけ。あっちに行きゃこっちで起きて。こっちに行こうとすりゃ。そっちで起きる。そうして間に合わず助けられず。心が崩れちまうならば。最初から助けねぇほうがいいのさ。まあ。折れる心なんざ持ち合わせてないけどね。
然れどそんな彼女でも。目の前で何かあるようならば話は別。我関せずを貫けるほど。人でなしでもなし。面倒だとか億劫だとか思うぐらいは。許してほしい。

後ろを振り返る。見れば遠くの山陰に日が沈んで行くところ。冬は夜が長い。そりゃあつまり。人ならざるもんの時間が長うなること。其処らの雑魚に。遅れはとらんけどね。

『やれやれ…。まーた酒が飲めなくなんなぁ。』

此処で立ち止まらなければ。もうちょっとで宿に着けそうだったんに。またもや酒が遠退いちまった。ちくしょう。
悪態くらい許しとくれ。ちゃんと行動すんだから。やれやれ。小さく呟きながら腰を折り。季節外れすぎる鬼灯を手折る。ひぃふぅみぃ…。全部で五つの膨らみ。うん、十分かな。何が、と問うものは居らん。そもそも口に出しとらん。彼女は一人に慣れちゃいるが。独り言には慣れていない。まだそんなに寂しくありませんて。まぁ、まだ。なんだけど
。これからどうなっかは彼女のみぞ視る。

『津々四や。』

呼びゃあすぐさま飛んでくる。羽ばたいて勢い殺し。柔らかに腕に止まる。眼も爪も鋭いが優しい温厚な子だ。御主人さまは嬉しいぜ。その優しさも。ただし主人に限るっつーやつだが。
時間にして数十分。しかし体感は途方もない。そんな。感覚を狂わせる場所に。今から向かおうとしとる。当然の如く。津々四にゃ加護を付けてある。妙なもんはちょっかいも出せん。付いてくる事も同じく。あとは。精神的なもんだが。そればかりはどうにも出来ぬ。鳥に催眠術が効くとも思えんしなぁ。

どうにかなる。する。静かに決意しつつ道を外れ。藪の中へ。端から見りゃ。宛もなく進んどるよう。しかし彼女はちゃあんと目的地を見つめながら。足を進めとった。
がさがさがさ。
枝を踏みつけ。葉を掻き分け。彼女は歩く。一体何処へ。何時まで。と考えていたが案外早く終わりが来よる。季節柄。枯れ葉や何かが目立つっちゅーのに。
じわりじわり。
緑が濃くなっていく。新緑の鮮やかな。それではなく。深く濃い緑。まこと静かな色合いよ。段々と。多くなってゆく緑。に疑問も抱かん。そして怯みもせん。勇猛ではあるが。可愛いげはない。誰も見てねぇのに
。可愛げ見せてどうするってんだ。全くもってその通り。男の目があっても。何も変わらないんですけどね。

そうしてやっとこさ。その緑の発生源に辿り着いた。そこにゃ小さな穴のような。周りより一段と深い緑に覆われた。茂みがあった。
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