トリップ編
(占星術士の全国行脚)
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静かな旅立ちだった。
表の、参拝者用の鳥居とは違って。裏門の鳥居は実にひっそりと。其処に佇んでおった。木々に覆われ隠されるように。人が二人。行き違えるぐらいの高さに横幅。大方目立ってはならん時に使うのだろう。どういう場合か。想像に易い。

散りゆく紅葉の中。それに引けを取らん朱塗りの鳥居。相反するような真っ青な出で立ちの女に。朱の袴の少女。その後ろにゃ更に数人居るが。女の見送りじゃないことは明白。鶴姫の護衛だろう。だって先程の優男がいるもの。
本当、好かれちまって困らぁ。勿論悪い意味でね。

『わざわざ見送りありがとうね。』
「いいえ、引き留めたのは私ですもの。…寂しくなりますね。」
『えぇ、本当に。久しぶりにゆっくりと休めたかんね。助かったよ。』
「大した事ではありません。沢山お話出来て楽しかったです!」

知らない事を山程教えてもらった。楽しい事も聞かせてくれたが。恐ろしい事も悲しい事も同じくらいに。外は色々な出来事が毎日起こっている。広い社。狭い世界。そこで起きる事と言やぁ些細なもんで。絵物語しか知らなかった鶴姫に。六月一日が現実を見せた。余りにも衝撃的で呼吸が苦しくなったんを覚えている

涙が流れ、もう聞きたくないと耳を塞いじまいたかった。然れどそれは許されぬ。逃げるこたぁ出来んのだ。己にゃ力も権力立場もあんのだ。それを民の為に使うのが義務。
彼女を真っ直ぐに見つめる鶴姫の目にゃ。迷いはなかった。力強い意志と決意が宿っとる。良い目だ。結局、後ろの優男の危惧しとった通りになんだろう。切っ掛けを与えてしまったかもしれない。けどやはり。最終的に決めんのは鶴姫自身だ。彼女は決意しとる。社を出ると。なれば次に腹を括るのはお前らだ。

「姉様。どうかこれをお受け取り下さいな。」
『これは…?』
「餞別、というものです!きっと姉様のお役に立ちます。」
『そう…。ありがとう、大事にすんよ。』
「はい。…お達者で。」
『此方もご武運お祈り申し上げております。』

風呂敷に包まれた何かを頂戴する。
これが正式な場であれば桐や漆塗りの箱に入れるのだが。しかし今は見送りの場。そんな嵩張るもん。荷物にしかならん。故に風呂敷。だが受け取ったそれの手触りは随分と良い。それだけで上質なもんと分かった。路銀に困ったらこれを売っちまうか。なんて罰当たりな事が。頭を過った。口にゃ出しませんよ。

風呂敷越しの感触からして。中身は布。何か、なんて。こちとら分かっとるから改めはせぬ。どうせ間もなく使うことになんのだ。その時を楽しみにしよう。贈られたそれを抱え一礼。顔を上げ最後にと鶴姫とじっと見つめ合う。そしてゆっくりと六月一日は後ろを向き。歩き出した。
もう二度と。会うこたぁ無いだろう。正しく今生の別れ。似通った二人。然れど決して同じにゃなりえん二人。寂しかぁない。津々浦々で。鶴姫の武勇伝を聞けっから。

空が、高いなぁ。



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