まるで罪人にでもなった気分だ。口に出すことなく彼女は思った。前後左右を人に囲まれ。刺すように見られておれば誰でもそう思うわな。
お里の村を出、山を下り。死に憑きを祓った六月一日を待っとったのは仰々しい連中であった。腰には刀。体には鎧を着た一見物腰柔らかそうな優男と他数名。待ち伏せされとるんは当然のように知っておった。此方の意思もなく連れていかれるのも。お迎えに、なんつった癖になぁ。乱暴にされるでも。ましてやあの竹中半兵衛の差し金でもない事は。承知の上。だからまぁ大人しゅう来てやった訳だけども。気分は良くない。嫌なら連れて来なけりゃよいものを。
忠実なのは結構。然れどこっちはいい迷惑だ。これから御会いするお方にゃ。悪意など欠片もないから進言することも憚られる。 こんな手合いは珍しくもなし。己が我慢しときゃあ。波風も立たぬ。大して気にすることでも無いしね。
「占術士殿。申し訳ありませんが今暫くこの部屋でお待ち下さい。」 『承知致しました。』 「では御前失礼致します。」
一人になるからとて妙な動きはするなよ。と目に見えぬ圧力を感じ彼女は肩を竦めた。分かりゃせんが恐らく天井には忍の者も居ろう。不信感を煽る真似もすまい。通された客室。其処の壁に適当にもたれ掛かった。
疲れた。本当に。早足で山を下って物の怪一匹退治して。あれよあれよという間に連れて来られて。此処に来るまでの合間に一度休憩は挟んだが。体力が底を突きかけとる。 男女の体力の差もさることながら現代っ子と武士の体力の差もちったぁ考慮してくれりゃあいいのに。己の身分が経歴不詳の占い師等ではなくて。何の変哲もない町娘だったなら。いや、そうであればこの様に連れてく事すりゃ無えだろう。
彼の御人が。甚く彼女に興味が湧いたから。自分と似た境遇の人間。それが遠方であるならば諦めようもあろうが。これ幸いなことに自ら近寄ってきおった。なれば会わぬ理由は無いだろう。 まぁ。六月一日も会うてみたいと思っとった訳だし。問題無いっちゃ問題無いが。
あぁ。もうどれぐらい煙管を吸っとらんだろうか。少ぅしばかり苛々してきおった。如何なあこんな若い身空に。なぁんて考えていたら。ぱたぱた。廊下を駆ける音がしやる。閉じとった瞼を持ち上げて。正座をし、姿勢を正す。顔を上げた所ですぱん!と小気味良く襖が開いた。
「まあ!まあまあ本当にいらして下さったんですね!私とっても嬉しいですっ」 「姫御前、なんてはしたない…!」 「もうっ ちょっとぐらい良いじゃないですか!今すごくドキドキしてるんですものっ」 「しかし…っ」 「初めまして!私伊予・河野の隠し巫女鶴姫と申します!」 『これは御丁寧に。手前はしがない占い師をしとります六月一日と申しますれば。』 「知ってます!御使いさまですねっ」
ちょっとこの子とは話し合う必要があるなぁ
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