トリップ編
(占星術士の全国行脚)
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「ありがとうございました。」
『いやぁ、気にせんとって。偶々通りがかっただけだしね。』
「それでも、ほんと、助かりました。」

深々と頭を下げて。礼を言うお里に苦笑い。 何度も思うが出来た子だ。これなら村を出て。どこぞで奉公したとてやって行けるだろう。赤くなっちまった目元を親指でそっと撫でて。ぽん。肩を叩く。そうして背を向け彼女は歩き出す。お里から一晩泊まってってくれ。という大変嬉しい申し出はあったが。あんま余所者が長居すんのは良くなかろ。其処彼処から此方を伺う視線を感じる。はいはい今出ていきますよ。

お里から一歩二歩三歩。どんどん離れてゆく。ささやかながら作られた道を途中まで進み。一度振り返りゃ。大きく手を振るお里の両脇に。見覚えのある男女が二人。微かに透けた体。を折り曲げてお辞儀した。ほんと、大した事はしてねぇよ。

返すように手を振って。今度こそ振り返らずに行っちまう。もう随分日が傾いてきた。早よう進んで。野宿に差し支えない所を見つけんと。汚れたから湯にも浸かりてぇが。残念ながら今宵は無理そうだ。
前と同じ手法で探しゃいいって?ごもっとも。されどそういう問題じゃねーんだよな。常よりも格段に足を速めて。お里の村から遠退く。途中休憩を挟む余裕はない。日が落ちる前に麓へと着きたいのだ。急ぐ理由が迫ってきておる。

人の気配にゃ疎いが。そういうものの気配には敏い。村を出る前から気付いとった。だから読経をし、一帯に結界を。そうなれば手出し出来んのは六月一日だけ。折角埋めた亡骸をほっくり返されちゃ堪らんわ。それ以外にも被害が出るだろうから。自分へ向かうように仕向けた。何、心配は要らん。そっち方面にゃ無双だぜ。

麓が目に入った。後少し。自ずと足もやや走る。そして漸く片足が麓へと入ったその刹那。太陽が沈む。獣の爪が彼女の背を抉る。青い衣が散る。

それを確かに想像したのに。驚く事に無傷。襲い掛かった相手…。今にも腐り落ちそうな死肉を孕む熊の体。それに憑く死に憑きは怠い動きで前を見やった。ひらりと。彼女が身を翻しとって。その手には札が一枚。己が死を悟った。

『御仏の元へ。と言ってやりてぇがお前さんはちと殺し過ぎた。んなら地獄が妥当だわな。』

理を変えた罪を償え。そう言って手から札が放たれる。額に貼り付いたかと思や。忽ち熊の体は崩れ。煙のような何かが舞い上がって消えた。
ふぅ。一息吐きゃあ。ぱちぱちぱち。拍手の音。振り向けば数人の兵とそれを率いる男。鎧と腰に差した刀が目につく。

「いやぁお見事。鮮やかな手際でした。」
『…どちら様で御座いましょうか。』
「おっと失礼致しました。我らは伊予は河野軍の者。お迎えに上がりましたよ、占術士殿。」




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