袖に金木犀でネイル
2015/06/28 18:08

彼女の爪はいつも色づいている。

大半は青だが時折赤だったり黒だったり。仕事着の衣装に合わせて塗り替えているらしい。よくやるなぁ、とはコラソンの内なる言葉。そんないちいち衣装に合わせて爪なんぞ塗り替えていられん。これは男と女だからか。それとも性格的なものか。
そうして今日も、彼女は爪を彩る。

「今日は何色にするんだ?」
『今日は白にする。んで、金色のラインストーンを散りばめる予定』
「…よくやるな」
『結構楽しいかんね』

内に留めておいた言葉が思わず出てしまった。呆れが少しばかり混じったセリフだったが、彼女は気にも止めず作業に取り掛かった。

回転式の座椅子に座ってまずは足のマニキュアから落としていく。膝を立ててそれをする様はまぁなんと言うか。行儀が悪い。しかし何故か似合っている。女らしい仕草も勿論しているし身に染み付いた感じはするが、こういう行儀が悪い。いや、男らしい仕草か。も、様になっている。
これをそのまま口にしても彼女は怒らないだろう。どころか笑う。そういう人だ。

それにどれだけ甘えてしまっているか。こんな、年下の女に。

コットンに染み込んだ除光液が水色に染まっていた彼女の爪を本来の状態へと戻してゆく。普段は色を塗るだけだが月に1回くらいは随分と細やかな装飾で爪を飾っている。聞けばネイルアートと言うものらしく。友人に割安でやってもらっていると語った彼女の爪は人魚の鱗のようにキラキラとしていて。キレイだな、と素直に思った。
彼女は爪も手も、とても大切に扱っている。冬以外でもハンドクリームは欠かさないし、気がつけば甘皮を削ったりマッサージをしたり。顔以外にも手先を見られる仕事だからと言っていた。運命を左右するカード。それを弄ぶ手。そこに注目するのも仕方ないだろう。

そっと彼女の指を盗み見る。何の色も塗っていない爪。こうして素爪にお目にかかれるのはそうあることではない。厚化粧よりも素顔が一番。という男も多い。コラソンもごてごてと塗りたくっているよりナチュラルな方が好ましいと思う。爪だって、正直そこまで興味はないが彼女は。彼女の爪は、彩られていた方が“らしい”。

「なぁ」
『んー?』
「それ、俺にやらせてくれないか」
『えぇ?どしたん急に』
「いや…。何となく、やりたくなって。ダメか?」
『ダメじゃねーけど…。んじゃぁお願いしますわ』
「あぁ任せろ!」

何も塗られていない彼女の爪。そこへ近付き座り込むと胡座を掻いた膝の上に彼女の足を乗せる。以外に小さく、そして白い。日本人女性の平均身長から少しばかり大きめな彼女だから足もそれに見合うと思っていたが。
言ってしまえば彼女の足のサイズは24cm。普通だ。2m近いコラソンだからこそ小さく見えてしまうのだとは誰もいない。言う者がいない。

形の整えられた爪に恐る恐るまずはベースコートを塗ってゆく。丁寧すぎるほど丁寧に。慎重に。最近は落ち着いてきたとは言え、自分は盛大なドジっ子だ。気を付けていても転んだりライターの火が己に引火したりともうちょっとした事故だ。

この場合マニキュアを倒したりあらぬ方向に飛ばしたりか…。そこまで考えていいや!と内心首を振る。悪い想像ばかりするからいけないんだと。良い方向に考えていれば自然とそうなる。はず。
気の持ちようと言うではないか。と1人勝手に納得し、ベースコートが乾いたのを確認してから用意されていた白いマニキュアを手に持つ。陽に照らされた砂浜のような白さ。そこを2人で歩けたら楽しいんだろうなぁ。彼女の持っている、青いマキシ丈のワンピース。を着た彼女と何をするでもなくのんびりと歩いて。砂浜には2人分の足跡。自分は海には入れないから、波打ち際で遊ぶ彼女を眩しそうに眺めて……

『ロシーくんロシーくん』
「!!!な、なんだ!?」
『マニキュア、指まで塗らんくていいんだよ』
「あっ!わ、悪い…!」
『いんやぁ。でもくすぐってぇから控えてね』

気を付けてもドジっ子なのだから考え事をしながらだったらどうなるか。目に見えていた結果だった。





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