占星術士と鬼灯
2014/05/21 13:51

連載にしようかどうか考えて書いては見たものの諦めたやつ。貧乏性なのでここで公開しときます!






はた、と目を瞬く。視界いっぱいに広がるのは群 青の空に、浮かぶ大きな大きな惑星。地球や月が 軌道など関係なくゆるゆると動いていた。一目で これが夢だと判断出来る。足元には膝丈まで茂る 草。草原。風が吹けば極彩色に波打った。確かに 青々としているのに、である。 夢だと理解しているが美しくとあまりにも幻想的 なので目を奪われた。 しかし、と首を傾げる。己はこんな壮大で荘厳な 夢を見る性質だっただろうか。見ない訳ではな い。が、それでもこんなに現実離れしたものは見 たことがなかった。疲れているのか? 捨てきれな い可能性に頭が痛くなる。

『おやぁ、お客さんとは珍し』

ぼんやりと手が届きそうなほど間近にある惑星た ちを見上げていれば女の声が響く。風に乗って鬼 灯の元にやってきたそれに振り向けば真っ青な衣 に身を包んだ女の姿。エキゾチックな衣装は金色 の装飾品で彩られ異国を感じさせた。風が吹いて いるこの場所でそんな風に腹を出していて冷えな いのか。そんな考えが過る。 己の夢に女が出てくるなぞ。欲求不満の現れだと でも? あの神獣でもあるまいし。

ひらひらと風が彼女の衣装を、髪を、装飾品を舞 わせた。薄暗い草原。だのに彼女の身に付けるア クセサリがきらきらと輝いて。僅かに光る月の仕 業か。

「…お客はそちらでしょう。ここは私の夢と思い ますが」
『いんや。これは私の夢だよ。お兄さんはこんな ん見ないっしょ?』
「まぁ、そうですね」
『ほぅら』

同意だろうと言うように女は笑うと傍らにあった 岩に腰掛ける。…そんな所に岩なんぞあっただろ うか。辺り一面草ばかりで何もない野原だと思っ ていたのに。気が付けば岩のみならず木や花。鳥 も飛んでいる。

…ああ、そうか。彼女がこの夢の真実の主。現れ てあらゆるモノが表れたと。自分の夢ではないと いうなかなかにショッキングな事実よりも納得の ほうが勝った。柔らかくなった風が鬼灯の着物の 袖をそぅっと撫でる。冷えたように感じていたの に。今では暖かさを覚えた。空を見上げれば惑星 はより近く、淡く輝いている。こんなにも変わる ものか。 先程は温度をまるで感じなかった。けれど今は。 成程今仕方までのは冷徹と呼ばれる己にぴったり であった。何時の間に出したのやら、煙管を吹か す女に目線を戻す。

「すみません、お邪魔してしまって」
『構いやせん。以前にも侵入してきたヤツはいた かんね』
「私もそれだと?」
『いんや。お兄さん違うよ。無理くり入られた感 覚は無かったもん。今回は偶々波長が合ったか、 他に何ぞ起因があったか』
「例えば?」
『んー、色々あっけど…。本体が死にかけてて幽 体のみが引き寄せられてとか。誰かがお兄さんを 送り込んだか』
「…私は操られてるつもりありませんが」
『それを自覚させる程度のヤツが、私の夢ん中に 人を放り込めるワケねーよ』

随分と自信過剰で。言ってやりたかったが言葉は 出なかった。この世界を見て腑に落ちたのか何な のか。 しかし、ならば。自分は出ていったほうがいいの だろう。此処は自分の夢ではないのだ。他人の夢 に入り込んでしまったというのは大変貴重な経験 ではあるが、入られた方は不快この上ない筈。少 なくとも自分はそうだ。あるならば金棒で殴って 追い出すだろう。乱暴? 獄卒相手に何を言う。

吸い口から唇を離し、煙を吐き出している女に向 き合う。

「お邪魔してしまってすみません。すぐ出ていき ます」
『ええ?別に出てかなくてもいいのに。どうせ夢 なんだ。ゆっくりしてきなよ』
「お嫌では?」
『なんで』
「…自分の夢に他人が居るのですよ」
『平気。私のことをあれこれ詮索しに来たヤツな ら追い出すけどね。お兄さんはそうじゃないっ しょ』

詮索されるような人間なのか。これも飲み込む。 そういった質問をする事こそが詮索に他ならな い。この世界の支配者はあちら。勝手は許されな い。それに少し苛立つが理とはそういうものだ。

夢の主に居続けることを許された。ならば目が夢 が醒めるまで居させてもらおう。此処はとても美 しく幻想的。地獄でも天国でも勿論現世でもこん な情景はお目に掛かれない。 普通こんな風に宇宙に晒されていれば空気が無く て死んでしまう。そういった苦しみを味わわずに 済むのだから。

「歩き回っても?」
『どーぞ。あ、なんだったら一緒してもいい?話 し相手がいんなら話したいしー』
「私に断る権限はないでしょう」

冷たく言ったと思ったが女はへらりと笑うだけ。 怯まないとは珍しい。意図したワケではないが対 峙する相手… 特に女性は自分を怖がる傾向にある から。怖がらない人もいるがそれは極僅か。彼女 はそれに入るらしい。 大物なのか無知なのか。知る術はない。


▼追記
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