夢の続きは続かない4
2014/03/09 23:30

源外に頼まれた物を全て買い終え、家路につく。それ以外にもやはり誌面で見ていた世界ということもありフラフラと見て歩いてしまって。今は陽も沈みかけている。

濃密な橙がビルの向こうに消えようとしている。早く帰らねば心配するだろうか。己の強さを知っている癖にやたと過保護な面があるから、あのじいさんは。父も、そうだった。
小言を言われるのは勘弁願いたい。そう思いながら荷物を抱え直し近道の路地裏にするりと入る。昔からこういう路地裏には素行の悪い輩や追われる身の上の人間が身を潜めてたりするが、助かることに今日はいないようだ。

自分もこういった日の当たらない場所をよく使うため何とも言えないが…。何故そういう奴等は路地裏に集まるのか。その心理を問いたいものだ。己に聞くのが一番か。と薄笑いを浮かべて路地裏を進む火月。しかし、ふとその足が止まった。

『(誰かいる…。)』

少し先にある、曲がり角を見つめる。その先から複数の気配。探ってみるがどうやら待ち伏せて物取りという訳では無さそうだ。足音も気配もさせずにそこに近付いていけば何やら物音と人の声。
言い争っているのようだ。触らぬ神に祟りなし。余計なことをして巻き込まれるのは勘弁。素通りしようと我関せずを決め込みその前を横切ろうとする。

だがしかしその火月の前に誰かが吹っ飛んできた。地面を滑り火月の爪先辺りで止まる。なんて嫌なタイミング。
やはり自分は一級フラグ建築士なのだろうか。いや!そんなハズはない!…と信じたい。

転がってきた男を一瞥し、顔を横に向ける。嫌だけど仕方ない。ここで見てみぬフリをするほうが後々面倒になりそうだ。そう思い視線を向けたその先には倒れる数人の男と、一人だけ立っている鮮やかな着物の男。皆見事に急所を斬られ絶命している。腕は立つようだがこれは暗殺には不向きだなと思った。
そんなことを考えている場合じゃないのに。

『(わーぉ、早くも高杉晋介とご対面とかマジふざけんな)』

蝶の舞う鮮やかな着物を着た男は左目に包帯を巻いていて。その特徴だけで誰だか分かってしまう。あぁ本当に面倒な。
帰るのが遅くなったら源外に怒られるのに。まだ間に合う。サッと立ち去ってしまおう。体の向きを変えれば刀の切っ先がこちらに飛んできた。
ので、その刀身を手で掴み遠慮なくへし折った。

ばきんっ
「なっ」
『てめぇオイコラ廚二野郎いきなり何してくれんだ。着物が汚れたらどうしてくれる!』

折角じじいに買ってもらった物を。絶対に今誰か確認もせず斬りかかってきた。人を斬ってテンションが上がってるんだか知らないが一般人(ではないが)相手に何してくれるんだ。残りの目も傷付けて両目とも包帯巻いてやろうかと念を送りながら睨み付ける。

それが伝わったのかぱっと見は幼気な少女に高杉は怯んだ。ほんの半歩ではあるがじり、と後退る。折られた刀身が地面に突き刺さり血の赤を反射させた。見慣れた色に最早何の感慨も浮かばない。

「てめぇ、何者だ…? コイツらみてぇに役人って訳でもあるめぇ」
『お使い帰りの町娘だよ人斬り。人が急いでるっつーのに通り道で余計な事しやがって』
「くくっ、そいつぁ悪いことをしたな。…だが、ただの町娘ってーのにゃ納得しねぇなぁ。刀折る町娘が何処にいやがる。」
『あんたの世界が狭いだけで案外いるもんだぜ?珍しくもない。』

どこぞの道場の娘やチャイナ娘。他にも強い女は山程といる。会ったことも見たことも無いけれど。
この世界でか弱いのは名も無き演者。つまりはモブ。背景の一つ。それらなら絵に描いたような町娘であるだろう。されど生憎自分はそんなではない。被害が己や源外に及ぶのなら全力で歯向かうし暗躍してやる。

相手が指名手配犯だろうと関係ない。
やるなら殺るぞ、と冷えた目で薄く殺気を飛ばした。汚れないようにターゲットを殺すことなど火月には造作もない事だった。

「…殺気を出せる町娘が居て堪るか」
『何度も言わせんなよ。そっちの視野が狭いだけだろ』

切っ先の折れた刀。それでもまだ武器にはなる。晋介はそれを手放さずギリ、と力を込めた。戦争を経験した身。故に相手との力量の差が簡単に分かってしまう。目の前の自称町娘は、自分よりも強いと。
それでも刀を仕舞うような真似をしないのはプライドか、自己防衛の為か。その様子を見て火月は鼻で笑った。獣のようでいて実に人間らしいじゃないか。一度荷物を抱え直す。

『悪いけどもう行くよ。お使いの途中でね』
「…見逃すと思ってんのかぁ?」
『へぇ、死にたがりとは思わなかったな。あんたとっくにオレの間合いに入ってんのに』
「……………。」
『どっちが見逃されるのか分からない程馬鹿じゃあないだろう』

ちきりと晋介が刀を下ろすのを見て、いよいよ先を急ぐべく火月はその場を後にした。少し走るか。背後からの視線など気にも留めずに。



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