夢の続きは続かない3
2013/09/02 02:08

さて、それから数日が経った。
以前にも異世界へ飛ばされた事があるからか勝手が分からない、何てことはなく悠々自適に火月は過ごしていた。過去の経験がこんな所で役に立つとは。喜ばしいとは思わない。

スクラップの山と大差ない今の住み処。文句を言うつもりは無いがこれを良いとも。せめて生活圏だけはと躍起になって掃除をした記憶はまだ新しい。お陰で源外の清潔レベルが上がった。
介護をしてる気分だったことはもちろん源外には内緒だ。


少し狭く、自分が元居たところには決してない空に浮かぶ宇宙船を見上げる。
余程凝った設定の世界でなければ空の蒼さは皆同じか。前に行ったあの懐かしく灰色の世界も空は蒼く澄んでいた。瞬きの間に過ぎ去ったあの世界。思い出すのはいつだって、自分に愛を伝えた少女。
会えるなら会いたい。
けれどそれはあってはならない。あればそれは。

『(また世界が破滅へと向かう切っ掛けになる)』

火月にはリナリーしかなくてもリナリーには火月以外にも沢山大切で守りたいものがある。
好きな人とはいえ、たった一人の為に世界を捨てれるほど彼女は非情ではない。それで、いい。

にゃあん。足元に白い猫が擦り寄る。元の世界で拾ったあの日の子猫。今ではすっかり大きくなり。それでも中身はまだまだ子供だからこうして火月によく甘えてくる。それがまた可愛い。
人間と違って計算や下心など無く純粋に己の本能に従ってこうして寄ってくる。しゃがんで頭を撫でてやれば満足そうに鳴いた。

「おーい火月。ちょっくらお使い頼まれてくれや」

声の方を見れば現在世話になっている平賀源外が何やら紙切れ片手に立っていた。そこに書いてあるものを買ってこいということか。手も空いてるし、いいか。

ーこうして少し前を思い出しても酷く不思議な気持ちになる。どうしてあの時源外の誘いを受けたのか。
いつもの自分、少なくともD:graymanの世界に飛んだ頃の自分だったならばそんな声を冷徹に断り一人闇の世界に飛び出して生きたものを。ここでも勿論そうして生き抜く自信はある。ここなら仕事は尽きないだろうし。人の多いところ程、怨み辛みは蔓延するのだ。

そう分かっているのに、何故。

正直火月自身にも分からなかった。気がつけば口がそう動いていた。また良からぬ者の力でも働いたかと考えたがそうではないと感じる。己の中に残る悪魔の欠片が反応しないから。

『分かった。どこまで?』
「歌舞伎町のほうの電器店まで頼むわ。…いいか?ちゃんと女らしい格好すんだぞ」
『はいはい』

女らしいとは。元男に無茶を言う。まぁ仕事の一環で女装したりもざらにあったが。
どうにも火月は源外のこの行動が解せなかった。こんな得体もしれない少女(大変遺憾ではあるが)に着物や簪を買い与え身なりを整えさせたがるのか。これが金持ちの爺ならまだ分かるが正直源外は江戸一の発明家とは言えそこまで裕福ではない。こうして着物一式揃えるのも一苦労だろうに。

店兼自宅の源外の家に入り出掛ける支度をする。オイルで汚れたつなぎを脱いで襦袢を着、その上に着物を重ねる。
色素の薄い火月に映えるよう、濃い目の色使い。黒の総絞りに真っ赤な格子柄の帯。少しレトロな風合いが気に入っていた。それに合わせて髪型も変える自分もいるのだからなかなかに女子力が高くなっている。恐ろしい。いや、プロ意識故と思っておこう。

軽く化粧もすれば町行く人が皆振り返るほどの美少女が出来上がっていた。
それを見て源外が言う。

「…ナンパには気を付けろよ」
『大丈夫。腕掴まれたら急所蹴り上げっから』
「二度と使いもんにならなくしてやれ!」

やれやれ。どうにも自分の保護者になる奴は過保護で困る。
さあ、買い物に行こうか。




懲りずに続きやがった^p^

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