夢の続きは続かない2
2013/05/09 01:35

足場の悪いスクラップの山をひたすらに歩く。遺産である、今は亡き我が父悪魔・フェンリルの能力を使って空を飛べば楽なのだが誰に見られるか分からない。
目立つのは控えたほうがいいだろうと徒歩でこの辺りから離脱しようと火月は考えた。

ガシャガシャと辺りで一番高いスクラップの山へ登り周りを見渡す。

少し離れてはいるが街が見えた。ヒトマズハあの街に身を潜めよう。木を隠すには森。やたらと人里を離れるよりか人の多いところにいたほうが悪目立ちはしまい。接触など最低限でいい。
…そういえば前回もそんなことを考えて、なんだかんだ最低限以上関わっていた気がする。と立ち止まり思い出した。どうせならまたあの世界ならよかったのに、


いや


『(リナリーが、新たな恋をしてるのみたら泣くかも)』


何も知らぬ無垢な子供ではない。離ればなれのままいつまでもこの恋が続くなんて思ってやしない。
自分にとって輝かしく大切で宝石のようなこの想い。記憶がある限りの、初恋。人間というもの事態が憎悪と嫌悪の象徴であった火月が誰かにこんな感情を抱くことそのものが奇跡であった。

人は日々進歩する生き物。
特に彼女は前向きでひた向きで眩しいぐらいに命を生きていた。そんな彼女がいつまでも自分を想っていてくれるとは思えない。
それが当然だ。それでいいのだ。見てしまえばショックを受けて少し泣いてしまうかもしれないが、きっとどこかで安堵する。あぁ、リナリーの足手まといにはなっていない。

でもきっとどこかで静かに自分を想っていると。同じように自分もリナリーを想っていると。見えないどこかで結ばれた絆。
他人には理解し難いだろう。


『(つーか会えたとしてもオレ今女の子だしなぁ)』


精神的NLで肉体的百合って複雑すぎる。
数十分前まではなかった膨らみを見下ろしてため息を漏らした。


『(一人称変えたほうがいい感じ?)』


なんて些細なことを考えていれば聞き覚えのある音が耳に触れた。人を殴る音だ。
パッと音源のほうを見、足音を立てないようにそちらへ移動する。一緒に歩いていた愛猫のトゥリアは懐に。金物は音が出やすいから好きではなかった。ヘマするつもりはないが。


金物や家具などが乱雑している物陰に身を隠す。
そっと様子を伺えば3人ほどの男が1人の男を取り囲んでいた。囲まれた男は口端から血を流している。頬も腫れていることから先ほどの音はこれかと把握出来た。いや、それにしても


『(早速キャラと遭遇するとか、どんだけー…)』


取り囲まれる人物… それは銀魂という漫画に出てくる“平賀源外”その人。周りの男たちは見覚えがないからキャラではないのだろう。風体から街のごろつきか。
運悪く絡まれたというところか。そこに自分が居合わせた。

自分の中に一級フラグ建築士の素質がある気がしてならない。物凄く嬉しくないが。


「おいおいじーさんよぉ、この辺のもん勝手に持ってかれんの困るんだよなぁ。オレらの宝の山でもあるんだからさ」

「へっ、オメーらみてぇなチンピラがこんなごみ溜めに何の用があるってんだ」

「色々あるぜ?見た目まだ使えそうなのを見繕って気の弱そうな奴に高値で売りつけるとかよ」

「労せず金が手に入る。正に宝の山だぜ!」

「ギャハハハハ!」

「…最悪だな近頃のクソガキは。んなことしてる暇があったら母ちゃんに育て直してもらえや」


冷静にしかし確かに憤る源外の言葉、挑発とも取れる台詞に男たちは表情を一変させる。
皆一様に怒りを浮かべ源外を睨み付けたかと思えば一番近くにいた男が源外の胸ぐらを掴んだ。その動きに連動するように腕を振り上げた。まったく、最近の若者はキレやすくて困る。


「クソジジィ!!」

『はいそこまで』

「 ! 」


降り下ろされ、源外に当たる直前の腕を掴み勢いを殺さず後ろへ捻ればポーンと軽い音を出しながら男は投げられた。
着地点には大量のスクラップ。ガシャァン!と派手な音がする。男は埋もれたまま起きてこない。


「なっ、ヒロシいいいい!?」

「テメッよくもヒロシを!遊郭に売り飛ばされてぇか!?」

『うっせー三下。弱きにしかデカく出れねーくせに大口叩いてんじゃねーぞ』

「…っのアマァ!」

『(あ、やっぱ見た目でも女って分かっちゃうんだ)』


元から女顔ではあったが女そのものに間違われることはなかったのに。男として生きてきたこれまでが瓦解していく気がしてげんなりした。
そのことについてため息を吐いたのだが、如何せん状況が状況。益々ごろつきは激昂し。懐に隠し持っていた短刀を取り出し構える。

廃刀令はどうした廃刀令は。
これだから税金ドロボウなどと言われるんだと、会ったこともない真選組に悪態をつく。もっとちゃんと取り締まれ。
訓練されたワケでもない、急所やどこかを狙ってというでもなく切りつけてくる男の短刀をさらりとかわし男の喉に肘を入れる。

一気に膝をつく男を蹴飛ばし、声を上げて襲い掛かってくる残りの1人を巴投げでスクラップの山へ送った。大した運動にもなりゃしないと服についた汚れを手で払いながら立ち上がる。危険だからと避難させておいたトゥリアが足に擦りよった。


『じーさん無事?』

「あ、あぁ…。どうにかな、助かったぜ。…しっかしお前さんンな別嬪なのに随分とお転婆なんだな」

『ま、ね』

「こんな所で何してたんだ?俺が言うのもなんだがこの辺はがらくたしかねーだろ」

『あー… ちょっとした迷子。帰る場所探して歩き回ってる感じ?』

「おま、その歳で迷子って…。」

『おいジジィそのグラサン割るぞ』


ギロ、と睨んでくる火月に源外は冷や汗を流しながら閉口する。火月の実力は今しがた目の当たりにした。不用意に刺激するのは控えたほうが身のためだ。

湧いた苛立ちを散らすように長く深く息を吐き出す火月を見ながらふと思ったことを口にした。


「お前さん、もしかして帰る場所ねーのか?」

『…あるけど遠くて。帰り方が分かんない』

「そうか…。なら、俺んとこ来ねぇか。ジジィの老後にちょっくら花添えてくれや」


源外自身何故自分がこんな事を口にしたのか分からなかった。気が付いたら口から出ていた。そんな感じだ。
しかし後悔はしていない。どうしてかこの鮮烈な少女を庇護してやらねばと思ったのだ。

華奢な体から滲む儚さや危うさに気付いたのだろうか。

さぁ、返事を。じっと見ていれば珍しく火月から視線を逸らした。少し頬が赤い。


『…猫付きで、いいのなら』


条件にもならないようなものだった。


end.

またやらかした(^o^) そしてまだ続く!

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