くちゅりと、密かな水音をたてて静寂の中で身体が飛び跳ねる。
夜陰の誰もいない空間に充葉の堪え忍ぶようなか細い嬌声が響き渡った。


「ジルっ」


出張中の恋人を求める声色が漏れる。普段の充葉を知る人間ならば聞いたことがない声だ。ジルだけが聞くことを許された声が夜に沈んでいく。


「んっ……ひゃ」


左手で口元を抑える。嬌声を我慢するのは充葉の癖だ。右手をスラックスの中へ突っ込んでいる。直接触れると抑えが効かなくなるからだ。別に自分でアナルを直接いじくっても良いのだが、無駄に勘が冴えるジル相手に浮気したのかと疑われたくない。以前も、彼が出張中の時に、我慢出来ず自慰をしたのだが、帰宅したジルに押し倒され後孔の間隔が違うと叱咤されたものだ。浮気ぃ、ハルと寝たのぉん、オレはぁん、どうでも良いのぉ、などと言われ手首を切られながら脅迫された時の恐怖は未だに拭えない。直後、拷問にも等しい行為を受けながら、罪人が真実を吐露するように、自慰したことを丁寧に説明するという恥辱が待っていた。自慰する権利さえないのか、わかったよ、もう、やらないから! と当日は威勢よく言い放ったものの、いざ、ジルが長期間いなくなると、下半身へ自然と手は伸びた。


「んっ……くっぁ、ちくしょっ」


悔しいという気持ちが交じりあった喘ぎ声が響く。元々、性的なことに淡白であったのに知らない間に長い時間を費やして身体を変えられている。

「ひっあっ……ん」

直接触れられないもどかしい、淫乱に変えられた身体に興奮を与える。
自慰に没頭するため瞼を閉じて想像すると、自分の陰茎を弄る手はあの爪が凶器かと思うくらい長く、その癖、気持ち良さだけを注ぐジルの手へと変わる。
いつだって自分勝手な癖に枯渇してしまう手に。


「んっ……はぁ、ジル」


熱い吐息が漏れる。あぁっもっと弄ってと、双眸からは涙が溢れてきた。後孔か疼く。腰を不自然に揺らしてしまう。熱の固まりをぶち込んで痛みを恵んで欲しい。火傷するくらいの痛みでいい。曖昧な刺激なんかはいらない。煙草の火を押しつけるように、黒沼充葉という人物がお前という人間の所有物だという跡を残してくれ。そして対価として、ジルという人間が黒沼充葉の所有物だと認めて欲しい。


「ジッル……」

気持ち良いのに、心が痛む。どうして傍にいないんだと充葉はジルを叱咤したい気持ちでいっぱいになった。触れ合っていなくても、こんなに自分の身体を蹂躙しているくせに。










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