(佐治と飯沼)




緑樹の影を遮って、太陽の光が降り注ぐ。飯沼は科学準備室のソファーに腰掛けながら、珈琲をのみ、いつもと変わらない光景を眺めていた。たまに木々が揺れ、グランドで体育をする生徒の姿が見える。そういえば柴田くんはこの時間、体育だったっけ、と彼に懐いている男子生徒が体育に張り切る姿を想像して笑みを洩らした。飯沼と柴田の出会いは必ずしも、良いと数えられるものではなかったが、こうして、今は良いもの、へと形を変えることができた。飯沼はそのことが嬉しくて、やはり話し合い積み重ねることにより人間関係の形は変化出来ることが出来るのだと、懐かしい思い出に浸った。
珈琲を窓辺に起き、換気しようかと立ち上がる。すると、その時、科学準備室をノックする音が聞こえた。生徒にあまり好かれていない自覚があるので、尋ねてくるのは柴田くらいだが、彼は体育の筈だ。またサボっているのだろうか。
しょうがないなぁ、叱らないと。けれど珈琲くらいご馳走しようか、と甘い考えで立ち上がり、扉をあける。


「柴田くっ!」


鈍い錆びた音が響き、柴田だと思い込んでいた飯沼が招き入れたのはまったくの別人だった。誰だかは分からない。なぜなら、開けた瞬間、眼鏡を割られ、目隠しをされてしまったからだ。

「誰、なんだ」

震えを隠す為に気丈に振る舞うが相手にはお見通しのようで嘲笑うような声が聞こえてきた。


「目的を話なさっ」

喋っていると、黙れという主張が聞こえるように、胸板を足で蹴られた。勢いで倒れこみ、頭を床にぶつけ、後頭部が痛い。気管支があまり丈夫ではない飯沼は咳き込みながら、胸に舞う痛みに耐えようとこぶしを握ったが、ネクタイを外され、頭上で一まとめにされてしまった。


「なにをっするんですか!」
「なにって別にセンセーと遊ぶだけですよ」
「遊ぶって君」
「寝転がってたらおわるから、精々、泣き叫べよ」


残虐非道な言葉を投げ掛けると、ナイフの先端がシャツ越しに皮膚にあたる。じわりと血液が湧き出て、白の仕事着が汚れる。


「ひっ」


思わず出てしまった声を押さえるような口を塞ごうとしたが拘束された両腕は動かず身体を震わす。
飯沼を襲うナイフの持ち主はそんな飯沼を笑いながら、ナイフを引き抜いた。シャツと皮膚を同時に切り裂くナイフに血が纏う。



「――ッヤメ、ろぉぉ!」


痛みで叫ぶが相手は喜ぶばかりで効果は微塵も感じられない。ふと、飯沼の頭に高校時代のことや柴田に初めて犯された時のことが脳裏を過る。あの時とは違う。今回、自分を今からまさに犯そうとしている人物が抱いているのは純粋な楽しさのみだ。そのことが、怖く、思考回路を遮断したくなる。



「意外と綺麗だねぇ。センセーのここ」


ズボンも破られ、鞭を打たれたように真っ赤なお尻の孔を眺めながら、囁かれる。潤滑油をつけられていない指先で、収縮を繰り返す孔にこじいれるように突き刺す。


「ひっ……ぐっ……ふ」

「あ、痛い? 無理矢理すると痛いよなぁ」


ハハハという乾いた笑い声が鼓膜に届く。飯沼は笑い事じゃないぞ、と内心、騒いでやりたい気持ちでいっぱいだったが、乾いた舌がそれを許さない。


「せっかくだから、楽しませてやるか」


だったら、この状態をなんとかしろ、と飯沼は暴れながら訴えたが、相手は苦もないようだった。ポケットから、小瓶に入った液体を取出し、後孔に塗り付ける。


「ひっあっ、なにっぁがっ」


冷たい液体が身体に染み込んでいく。だが、次の瞬間、液体が通った隙間から、燃えるように熱くなっていく。


「な、なにをっした!」
「なにもしてねぇよ。なに、どうかしたのセンセー」「うるさ、あっがっひゃっ、なんだ、これ、痒いっっ」


熱が猛烈な痒みを持ち始める。なんでも良いから後孔の内壁を掻いてほしい気持ちでいっぱいになった。
先程まで、様々な感情が飯沼の中で交錯していたのに、今は痒さしか考えられない。支配される感覚だ。



「かゆっかゆいっ、てめぇ、覚えてろ」
「ハイハイ。そういう言葉はウザイからいらなーい」
「ひっあっあぐ、ひゃ、かゆっ」
「触ってほしいだろ。なぁ」


弄ぶように後孔の窄まりを突く。突かれるたびに飯沼の身体は期待に震えた。


「そんなっ……わけっあ、あがっひゃっ、いだっいだいっ」
「素直になれって、ハハハ」


飯沼の反論と共にナイフの先端が皮膚をえぐる。先程の皮膚だけが切れるのではなく、人肉を引き裂かれる激痛が飯沼を襲った。


「ペニスは勃起してるしぃ」
「お前の薬のせいっ、ひゃあぁぁぁ、あぐ!」
「もっと叫べよ、なぁ」


発狂するように、飯沼は声をあげる。ペニスを握り潰されたのだ。だが、身体を蝕む薬のせいで、強制的に快楽を引き起こす。


「ふっあっぁぐ、あっ、っ……ふぁぐっがっ」


びくん、びくんと体を痙攣させながら、飯沼は射精する。飯沼を犯す相手は射精したことを飯沼に知らしめるように、吐き出された精液を指ですくい上げ、口に含ませた。


「んっ……――! んっふぁっ」
「味わえよ。てめえの精液だぜ」


咥内に擦りつけるように飲まされる。飯沼は入ってきた指を噛み切ろうとしたが、達したばかりの朦朧とした体は力を持たず噛む前に指を咥内から出され、頬を強打されてしまった。

「ふぇっぐっぐ」
「あーあー泣きだしちゃった。いい大人が恥ずかしいなぁ」
「ふぁ」


飯沼の胸ぐらをつかんで、ネクタイに染み込んだ涙を吸う。舌で眼球を押し出してやろうか、なんて狂気めいたことを囁きながら。
とまらない涙を笑いながら、飯沼を犯す相手は後孔に自身のペニスをあてる。



「ひっ!!」
「痒かったんだろう。突っ込んでやるよ」

腰を上にあげさせられ、十分に慣らさせていない後孔に肉棒を突き刺される。皮を裂くように侵入する異物を拒絶しようと筋肉は収縮するが、気にすることなく、寧ろ快楽の一つだと覚えろと命じるように肉棒は突き進む。


「ひゃぁぁっあぐぁっふぁぁっ、そこっ、あっ、がいてぇ、かいてぇぇっ」
「糞野郎が。なぁ、この豚野郎。感じてんのかよ」
「ひゃわぁっあが、あぐっかゆっ、かいて、いやぁぁ」
「てめぇから腰、動かせ」
「む、無理っっあっ動かして、かいて、がいて」
「とか、言いながら腰動かしてんな、苛つく」


理不尽な理由で飯沼は再び殴られる。両頬は晴れ上がっているだろう。
室内にはズチュズチュと体液が交じり合う不気味な音が響き合う。肌と肌が叩きあう。相手のことを微塵も考えていない勝手な動きで、しかも腰をつかむのが面倒になったのか、髪の毛をつかみながら、身体を揺らされた。



「っ、いく」
「ふぁっあっあぐぁぁぁっあ――!!!」



白濁が体内に吐き出される。飯沼を犯した犯人はすっきりした、と声をあげ、わずかに意識を失っていない飯沼の腹に拳を打ち込み気絶させた。




「飯沼も気持ち良かったでしょ」


先程までセンセーと呼んでいた口で告げる。飲みかけの珈琲を手に取り、飯沼の白衣に溢した。極めつけに、陶器を落としてみせた。


「俺は楽しかったよ。やっぱり処女じゃなかったし。やるなー柴田」


にっこり笑いながら、佐治明は親友の名を呟いた。この光景みたときに親友が見せる顔を想像して、頬を引き上げる。今頃、体育に勤しみ、六時間目に待ち構える科学の授業を心待ちにしている親友の表情が消え犯人探しに躍起になる姿を想像するだけで楽しめる。ぜひ、その絶望に満ちた顔を自分にも見せてほしいものだ。



「じゃあね、ばいばい、センセー」







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