咳き込む音が部屋中に児玉する。げほげほ。器官に異物が入り込み中々、とまらない。 咳の持ち主は飯沼だ。その飯沼の背中を撫でるのは恋人である柴田である。二人とも裸で事後、もしくは行為中だということがわかる。 「和人、大丈夫」 「大丈夫っぁっごほっひっ」 「和人、その、ごめん」 柴田が謝罪するのは訳がある。飯沼がむせ返っているのは、柴田が吐き出した精液が原因だからだ。夕飯時からの下らない争いが原因で、どちらが、フェラが上手か、という争いになった。セックスのテクニックで言えば、当たり前だが柴田の方が上だ。だが、陰茎を銜えてきた数でいうと圧倒的に飯沼の方が多く勝敗は明らかだった。しかし、問題はそこではない。勝敗が決まり、飯沼は柴田が吐き出した精液を飲み干そうとしている時だった。勢いよく立ち上がった柴田は認めないとばかりに飯沼を怒鳴り付けたのだ。呆れて言葉を詰まらせた飯沼だが黙っていると柴田は調子に乗り、喋りたてた。さすがの飯沼も言い換えそうと口を開いたのだが、咥内に入った精液が器官にはいり、現在に至る。 「もういいよ。柴田くん」 「けど」 「いいから、早く続きしようよ」 萎れて可愛らしくなってしまった若々しい恋人の頭を撫でながら飯沼は眼鏡をベッドの脇に置く。めずらしく自身から柴田の後頭部を手のひらで引き寄せ、口付けた。 「んっふぁ」 舌を絡ませあいながら、熱を求める。油断をすれば、歯茎を柴田の舌により舐めずり回され、舌を歯で甘噛みされる。 とろんとなってしまった、飯沼の表情を確認するように唇を離すと柴田は楽しそうに笑った。 「気持ち良かった」 「うん」 「そっか。なんか、そうしてると可愛いのになぁ、和人」 「君は一言、余計だよ」 はぁとため息を吐き出す飯沼を黙らせるように柴田は再び、口付けをした。そのまま、ゆっくりとベッドへ押し倒すと、顕わになっている陰茎へと手をのばす。 「んっ――! んんっ」 僅かに勃起さている陰茎に触ると飯沼は身悶えするように足を絡ませた。 つめ先を立てるように尿道をぐりぐりいじくる。 飯沼と付き合う前までは信じがたい行為だが、今となっては抵抗など微塵もない。 「和人、気持ちよい」 「ふぁっんぐ、ぁっひ」 「色気ねぇ喘ぎ声」 「うるさっあっあっぐあっ」 「けど、俺はこれで興奮するから良いんだよ」 裏筋を撫でながら、精巣を揉むように、包み込んでやると飯沼は呆気なく達した。相変わらず、射精するのが早い。だからこそ、フェラでの勝負で負けたのが悔しかったのかも知れない。 「はぁっはぁっんっちょっと、柴田くん暫く休憩させてよ」 「俺が限界だから無理」 「そんなっ」 達したばかりの力がこもらない貧弱な腕で柴田の胸板を押し返すがびくともしない。飯沼の抵抗を鼻で笑うように、柴田は寝台の上にある、ローションを取出し、後孔に擦りつける。収縮を繰り返す襞は柴田の指先にあらがうが、多少の強引さをもって、突き進められた。 「ふっあっぁぐ、し、柴田くっ」 「和人は浅いとこ、弄られるのも好きだよなぁ」 「あっくっひぁぐ、す、好き」 第一間接を折り曲げて、吸い付いてくる内壁を押し返すように、浅いところにある前立腺を刺激してやると、面白いくらい、反応をしめした。 「もう、二本目増やしても大丈夫、だよねぇ」 「ひゃぁぁっふぁ、あぐ」 二本目を襞を広げながら、侵入させる。きゅうきゅうという締め付けさえ愛しくて柴田は、ふと、こんな瞬間に腹を抱えて笑い転げたくなる。 「柴田、くんっ」 「なに、和人」 「もっいいからっ、きてっ」 瞼を閉じながら柴田を求める。限界なのか身体は震えていて、息切れが激しい。お願いだから、と無意識だが扇状的に誘われると、解していた後孔から指を抜き取り、自身の肉棒をあてがった。 「ひゃぁぁっあぐぁっふぁぁっ、し、柴田くっふぁっぁぐ」 「キッつ、ちょ、和人っチッちょっと強引に動くからな」 「ふぁっ」 腰を上げるように太股を両手で掴みあげると、飯沼の足を自身の肩にかける。赤ちゃんがおしめを変えるような体勢に飯沼をさせると、激しく前後に突き刺すように腰を動かした。 「ひゃぁぁっふぁ、ぐっし、しばたくっ、激しっ」 「涎たらして気持ち良いんだろう、なぁ」 「ふっふっあっひゃっあ、気持ちっりょ、亮平」 「ちょっ、それ反則だって和人」 喘ぎながら柴田の名前を呼ぶ飯沼。男の擦れた声のくせに、妙に色気があって腰にくる。名前なんて、普段、いくら呼んでくれと甘えてみても一蹴されるのに。こんな時にかぎり、叫ぶなんて。反則っていうか。卑怯だと、柴田は幸福に満ちた笑みを浮かべながら、飯沼の唇に口付けた。啄むだけのキスだが、飯沼も柴田を求めるように、口を開く。空気を取り入れるようにキスを繰り返しながら、達した。 翌朝。 目覚めた柴田は寝息をたてる飯沼の顔を見つめながら「」と囁いた。 実は落ちていて、はにかむような笑みを我慢していた飯沼がいたことを柴田は知ることはない。 20110901 |