カドミウムレッドにて愁死







男の陰茎が私の身体に入ってくる。肉棒を突き刺された痛みは真っ赤な血になり消えていった。腹の上で踊る男は「中に出して良い?」と尋ねたので、頷いてやった。一人で善がり狂い馬鹿みたいだ。肉欲だけで人間はここまで愚かになれるのだと、私は冷酷な眼差しを向けていたのに、男は一人で生存行為を施した。「子どもが出来ちゃったら大変だねぇ」とか豚みたいな皺くちゃの笑みが私の子宮を弄ったが、薬を飲んでいるのでそんなことないと答えてやった。楽しみを一つ奪われたような表情をした後に、それが当たり前かと納得した顔をした男は、私に金を支払った。
窮乏な金だが、黙って受け取る。「君、可愛いからもう一度、会ってあげるよ」なんて冗談でも聞きたくない言葉を口に出されたので、どちから上位か判らせるために、ナイフで男の腹を刺した。
ナイフなどどこに隠し持っていたのだ、という驚愕を隠せない男は、尻餅をつきながら、後ずさる。可哀想だから、枕の下という簡素な答えを返してあげると、私は、男の眼球をナイフで抉り出した。ぐちゅりと刳い音が部屋に響き渡る。血液がナイフを伝い垂れてきた。手首を回転させ、男の眼球を摘出する。先端に突き刺さった眼球は男が持つ穢さを表しているようで、すぐにベッドの端っこへと放り投げた。我が目を疑う現実に男はついていけなくなったのか、将又、激痛に負けたのか、気絶していた。情けない、この程度で、と嘆息を吐き出し、陰毛を丁寧に剃ってやった。先ほどまで私の中に入っていた陰茎を切除してしまおうかと考えたが、さすがにばれたら怒られそうな気がして、止めてあげた。母との無用な争いは避けたい。
気絶している男の写真を携帯で撮り、自宅のパソコンへと送信。ホテルの豪勢な椅子に置いてある男の鞄から財布を取り出す。金とカードはすべて奪い、名刺を抜き取る。この程度の男が代表取締という役職についているのだから、世の中は下らない。事前に作っておいた紙を取り出し伝言を残す。簡素なもので、私にやり返すなんて愚かな真似をするのなら、男も含め、家族もすべて消滅しますという文章だ。証拠となる資料もおまけでつけてあげる。随分、優しいなぁ、私。
脱ぎ捨てた他校の制服を着て、携帯電話を取り出し、電話をかける。


終わったわ
そうですか、藍さん。じゃあ、後片付けでも回しますね
そうして
どうでしたか、彼女と同じ存在になった感覚は


通話相手は私に尋ねる。どうもこうもない。やはり、こいつは馬鹿だと思った。行為をしての感想は特にない。疑問は広がったばかりだ。あえていうなら、彼女という存在が再び曖昧になってしまった。どうして、こんな行為をしているのかしら。男なんて気持ち悪いものを咥えこんで、なにが楽しいのかしら。なにが私より劣るというのだろうか。


馬鹿みたいなこと聞かないで、ああ、けど舐めさせてあげてもいいよ
なにをですか? 
処女膜
ああ、いいですね。食べさせて下さい


男の精液付きということを理解しているはずなのに、不快な奴だ。私は制服の金具を止め、ホテルの扉を開いた。白亜の壁が広がる空間を抜け、シャンデリアが輝くホールを抜ける。無駄に広い玄関を潜り、都会の雑踏の中へと混じる。鞄からウォークマンを取り出して、再生マークを押すと変わらない無邪気だった頃の彼女の歌声がきこえてきた。一緒にカラオケに行ったときに録音したものだ。恥ずかしいから録らないで、と可愛らしい融けるような声色で懇願してきたけど、その時のお願いはきかなかった。どんな音楽より貴女の歌が良いの、なんて言葉を告げたところで、理解はされないので、後で消すから、なんて判り易い嘘まで言って、録音した。ねぇ、そういえば、最近カラオケも一緒に行っていないじゃないって言葉が喉元まで浮かび、ひゅっと抑えた。
こんな行為の為に、私との時間を無碍にする彼女が許せなくなった。湧き上がっているのは愛しさに交じった憎しみ。彼女が憎い。彼女を奪った男はもっと憎い。彼女の家族であれど私と彼女の間を邪魔する存在は塵以下の存在であったのに、家族でも、なんでもない男が彼女を攫うのは、許せなかった。また、それを許した彼女も私は許したくない気持ちでいっぱいだった。人間が軽く刺せるくらいに。けれど、それ以上に私は彼女が愛しくて、仕方なかった。一緒にいたかった。同じでありたかった。笑っていて、欲しかった。恥ずかしがり屋で自分に自信がない彼女が、偶に見せる笑顔とか、他愛無い出来事を純粋な眼差しで喋る所とか。私が作り上げた虚像を信仰する綺麗なところとか。かと思えば、しっかり怒ることを知っているところとか、愚かであったり、美しく健全であったり、全部が全部、愛おしい。この憎しみだって、愛しさの一つなのだ。矛盾して相対する感情から、少しは近づきたいとか、理解したいとか様々な思惑で私の処女を捧げたのに、謎は深まるばかりだし、ああ、こんなに彼女が遠くなる日がくるなんて、信じられない! とヒステリックを起こしたかった。私の計画では彼女に処女を貰ってもらい、私も彼女の処女を貰う筈だったのに、塵みたいな男に奪われるなんて。死ね。愁死されされず、干乾びろ。長い睫毛を抜き取り、髪の毛をもぎ取り、ついでに灯油をかけられ燃やされろ。火傷してご自慢の顔が醜く萎み、死んでしまえ。私にはまったく良さがわからない顔だけど。私から彼女を剥奪して、なにより、代用品のように彼女を扱う罰としては、安いものだ。直接殺してしまえれば楽だけど、彼女が悲しむ表情を思い浮かべるだけで、足を止めることが出来る。


ノルちゃん

小さく呟く。
目的地に到着したので、顔をあげ、扉を開く。そこには先ほど電話した男が腰かけていて、処女膜を下さいよ、なんて軽い声で告げたので、制服を脱ぎ捨て、股を開いてやった。


変態
それでいいですよ。藍さんのが貰えるなら
なら、処女をあげたのに
俺はそれが最高ですけど、そうだと、あなたは彼女と一緒になれない。なぜって、あの部屋は初めて彼女が男に抱かれた部屋で、相手の男は彼女の男に関連する人間ではならなかった
そうね
だとしたら俺は条件から外れてしまっている。残念ですけどね。なら、潔き身を引きますよ
そ。ねぇ、今から抱かせてあげようか
珍しいですね、計画外のことをするなんて
別に。ただ、一度、抱かれた程度だから彼女の気持ちを今一つ理解できないのかと思って。だったら、もっと経験を高めるしかないんじゃない
へぇ、それは運がいい。そういうなら、遠慮はしませんよ
なに、リンって童貞じゃないの
残念ですが、童貞じゃありませんよ
貴方もけがらわしい人間の一人なのね
それは藍さんもですよ


処女膜と精液が交じり合った液を味わいながら男は答えた。
どうしたら彼女と一緒になれる、と尋ねようとしたが正解しか男が言わないような気がして口を閉ざす。
私が欲しいのは、結局は慰めであり、彼女から与えられる膨大な愛なのだから。

















20110901

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