生き地獄に似た生暖かい悲鳴





蒼白した顔面を眺めながら、明は笑みを浮かべた。自分で僕のことを殴っておいて、悦に浸るなんて、実に自己愛から育まれる行動である。
殴られた衝撃で、飛び出してしまった、犬歯を眺めながら、現実逃避に明のことを心のなかで侮辱してみた。全然、溜まった鬱憤は晴れなくて、口内に侵略する血液を飲み込んだ。もっと単純に、明から浴びる、理不尽な暴力に嫌悪し、責めたて、罵ることが出来たなら幾分、楽であるのに。出来ない。粗末な頭でどれだけ考えても、飲み込み、消化出来ない。今、僕が置かれている状況とか、明のせいにして逃げれば良いのに。
物事を思慮することから逃げるのが、不得意になったのは、いつからだろう、と、考えていた。
今日、明に殴られている最中の議題であった。現実逃避。でも、していなきゃ、やっていられない。明に対する、割り切れない不可解な感情があるから、責任を押し付けることが出来ないし、どうして、こんな目に僕が合うのか不可解で仕方ないのだけど、怖いっていう現実は変わらない。はじめて、明に殴られた時から、唯一、普遍的な感情であった。漫画やアニメの世界のように、愛しているから、とか、幼なじみだから、とか、自身を犠牲にしなきゃ、とか、簡単に割り切れるものではないのだ。
こんな目にあいながら、明に責任を押し付けられないのも、憎みきれないのも、全部、僕が明を許してしまっているという範疇は、結局の所、明のことが嫌いではないという所から来ている。最近、ようやく理解したことだ。幼子のような表情を浮かべ、僕の上で踊る明の顔が、出会った時から変わらない、泣き顔だと気付いてから。けど、判った所で全部を受けとめてあげられる素質が僕にある筈もない。現実は厳しい。受けとめてあげられたら、良かったのにって稀に思う。殴られていると消滅してしまう感情だけど、さ。
本当に思慮することを止めて逃げてしまえば良いのに。何か、考えごとをしていない時、一番、楽だし。一番、阿呆にはなっているけど。


明が雄弁に語る中、生返事をしていたら、気に入らなかったのか、鳩尾に拳を入れられてしまった。痛い、怖い。いつものこと。慣れないから、辛い。
髪の毛を引っ張られ、俯いていた顔を明の目線にあうよう、引っ張られる。凍てつくような眼差しに映るのは、襤褸のような僕の姿。今、少し、縋るような、仕草が見えた。冷静な自分が、意味ないよ、と耳元で囁く。耳朶にかかった息が現実だよと裏付けていた。けど、僕に寄り掛かってくれて良いんだよ、明という、自分自身も確かに存在して結局の所、どちらもが、消え、再び殴られる。
あ、けど、今回はキスも一緒だったみたいだ。体温が身体を舐める。
殺してくれたら、僕は楽になれるのにってずっと思っていたけど、明が僕を直接、殺すことはないだろう、と与えられる白濁の海を彷徨いながら、確信した。








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