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 小学生の時、ジルはいわゆる普通の子だった。
 顔やその魅力は昔から変わらずだけど、化粧もしていなければ、放課後、すぐに帰ったりしなかった。
 僕とは家が近かったこともあり頻繁遊んだ。
 小学校低学年の遊び相手なんて正直どれだけ家が近くにあるかで決まってくる。野球とかサッカーとかやっている連中は別だけど。とにかく、そんなわけで僕とジルは良く遊んでいた。
 家は隣だし、お金持ちのジルは新しいゲームソフトをいっぱい持っていたので僕も遊んでいて楽しかった。一日何時間までがゲームをしていていいと決められている僕の家庭では友達が遊びに来た時だけ無制限にすることが許可されていたので、帰宅してすぐにどちらかの家へ行きずっとゲームをするのが日常の一部として組み込まれていた。もちろん、他の子が混ざって遊ぶときはある。幼いころからその魅力で他者を誑かしてきたジルと遊びたがる子は大勢いた。
 けれど大抵、二人だった。
 それはきっとジルがあのお母さんを同級生に見せたくなかったからだと思う。

 ジルのお母さんは奇天烈な人だった。髪の毛が不自然に伸びて片目だけ隠れた顔。ほっそりしていて今にも折れてしまいそうな骨と皮だけの身体。
 肌理の細かい青白い肌は人形が動いているようだった。顔の造りはジルの母親ということもあり、良く見ればそれほど整っていないということはないのに、醸し出される雰囲気がそれを見事に隠していた。そんなジルのお母さんはよく真夜中に奇声のようなものを発していた。
 隣家である僕の家にはその声がよく響いてくる。
 一軒家なのに、変だなぁと思っていたら、どうやらお風呂でよく奇声をあげているらしく、小窓が開いているので、そこから響いてしまうらしい。子どもの僕から見ても、精神が安定していないのがよく判った。笑顔でいるときはにこにこしているのに、次の瞬間、泣いていたりする。

 正直な話、気味が悪かった。
 だから、ジルは見せたくなかったんだろう。彼の自由奔放で他人の気持ちなど顧みない性格が出来あがるのは、あの事件の後なので、このときは自分の母親を同級生に見られて拒絶されるのが怖かったんだと思う。
 だから、僕らは二人で良く遊んだ。あの日、ジルが変わってしまった契機になった時間も僕とジルは遊んでいた。
 放課後、新作のゲームソフトが手に入ったので遊びに来いとジルは僕を誘った。僕は、意気揚々と頷いた、のはいいけど、正直な話、ジルの家にはあまり行きたくなかった。彼のお母さんに会うのが嫌だったのだ。僕は小さいころから不気味な雰囲気を醸し出すジルの母親が苦手であった。
 ジルの家は豪華で、代々続く資産家である証のように、立派でジルの父親の趣味である薔薇によって囲まれた屋敷は見るだけで、威厳を保つことができる造りになっていた。隣家である僕の家も父親が一生懸命働いているので、けして豪華でない、というわけではないけど、一代で富を築いた僕の父親と、先祖代々続く家出身のジルの父親とでは、訳が違う。
 因みに僕はジルの父親も好きではない。
 ジルの家と同じように威厳の塊のような気がして、小さいころは会話するのが辛かった。今も正面を向いて会話するのは得意ではない。結局、僕はジルの両親がどちらとも苦手なのだ。
 ジルの妹弟はそうではないのに。
 寧ろ、自分の妹弟と年が近いということもあり、妹弟が増えたみたいに接してきていた。ジルの家も僕の家と同じく四人兄弟だ。長男のジル、長女のノル、次女のネネ、次男のトラという家族構成になっており、皆、美しい顔をしている。僕はその妹弟がみんな可愛い。けど、もしかしたら、一種の負い目から彼らに優しくしているのかも知れないけど。そんなこと、信じたくはなかった。









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テーマ「人外ファンタジー」
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