その幸福論が綻ぶのを待つばかりだ




お前の話は全然面白くねぇんだよって、紀一の話を聞く度に思う。
俺はファミレスのソファー席に座りながら自己主張が激しい黄緑に目をやる。吐き気がする。明るい、色はそれほど好きじゃない。
紀一が話す度に俺はストローを啜る。ドリンクバーで汲んできた、コーラーは舌に絡みついて、甘さがこの場に不釣り合いのように感じた。俺がずっと眉を歪めているのに、気付かず紀一は喋る。てめぇ、そんなに喋る奴だったのかよって思いながら、中学時代の紀一とは違う一面を垣間見る。いや、喋る奴だった、か。俺に理想を押し付けるときは特に、さ。無意識だろうけど。今のそうやって俺に理想を押し付けている最中だったんなら納得できる。こいつの口から語られる、学友の話しは耳障り以外の何物でもなかった。大体なぁ、友達、しかも、こいつと俺は仮にも恋人同士なわけだけど、恋人の友達の話しなんて興味あるかよ。お前は面白いと思って喋っているかも知れねぇけど、大抵、知り合いの知り合いの話なんて面白くないに決まっている。だって、俺はそいつを知らねぇし興味もない。そいつがどんなに面白い奴だって俺には関係ない。だって、興味がないから。上手に構成された話が更に苛立ちを彷彿させる。なぁ、それってどこまでは現実でどこからが脚色されたものなんだよって。脚色された部分、面白いとでも思ってんの。馬鹿じゃねぇか。面白いわけねぇじゃん。独り善がり。もう、口、開くなよ。うぜぇ。

なんて、思っているのに、結局、俺は口を開けず、紀一の話を黙って聞いていた。偶に、どうでもよいふりをしながら、相打ちをする。その繰り返し。ストローで泡を作って、温くなってきたコーラの粘りっけを誤魔化した。


「なぁ、それ、いつ終わるの」
「ふふ、ごめん。もう、終わりだよ健太。聞いてくれてありがとう」
「別に」


ぶくぶく、ストローに息を入れる。
痺れを切らして言葉を吐き出したのに、紀一は謝罪と例を述べ、居心地が悪い。
やっぱり、中学時代とは違う。
あの頃、紀一は自分の話を進んでしなかったし、俺の好きなようにさせていた。それは基本的に今も変わらないのだけど、きっと俺の受け止め方が変わってきたのだろう。
知っている。紀一の話を聞きたくない原因も。俺は知っているから、聞くことに文句をつけて、苛立つ自分の心を納得させているのを。上で思っていることは嘘じゃない。そんな素人の語りを聞くくらいだったら、同じ関心の無さでいえば、テレビを見てプロの仕事に笑いを沸かすって思うし、紀一の話しは巧妙過ぎて苛立つ。高校で知り合った他の奴は紀一の比じゃないくらい苛立ったけど。自分を知って欲しいアピールほど、耳障りなことはない。俺はお前のことなんて興味ないし、家族のことも友人のことも、俺と一緒にいないときのお前の時間なんて。別に話さなくていいから。それを聞くのは面倒だった。ストレスが蓄積されるだけで、はみ出した苛立ちをどう処理するか悩んで、結局、そいつとの友人関係は縁を切るということで終着がついた。
まぁ、それで、紀一のことが好きだって気付いたんだけど。こいつの話しは他の奴ほど、面倒じゃない。イラつくけど、この苛立ちに加えて、別に感情で苛立っているということが、わかってしまうから。


「紀一」
「なに、健太」
「ドリンクバー汲んできて」
「いいよ。紀一さん、汲んできてあげるから」
「うん。珈琲で」
「ジュースじゃないの珍しいねぇ」
「甘いの、嫌な気分なだけだ」

紀一は理解できないといった顔を作ったあと、ドリンクバーが設置してある方に歩いて行った。
ああ、そう言えば、一番、紀一が変わったことがあったっけ。
自分のこと、名前で呼んでいる。しかも「さん」つけ。ダセェ。理由、聞いたけど、俺には到底、理解できないもので、少しだけ寂しかった。
いつか、俺の前だけでも、前みたいに自分のこと呼べばいいって感じたし、命令してやろうかと思ったけど、今は時期じゃないので言ってやらねぇ。きっと、紀一は俺がそう言えば喜ぶんだろう。それも知っている。けど、言ってやらねぇ。
お前が、俺のこの、苛立ちに含まれる理由を、全部、気付くまで。
俺の口からは絶対に言うことないし。その理由。だから、早く、気付けよ。イラつく。



「はい、健太」
「どうも」
「美味しい?」
「苦い」


苦いのは好きじゃない。辛いのは好きだけど。苦さと辛さは違う。甘さもな。むかつくけど。






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