身代わり






誰でも良かったって知ってたの。

甘い砂糖菓子みたいな媚びる声をだして、綺麗に整えた一見きれいな爪を見せびらかして、脱色しすぎて痛みまくりな髪で巻き付くとトラは彼女にしてくれた。あと完璧なのは簡単に股を開くこと。簡単に漏れた淫液に、くぱぁと開いた穴を提供すると、凶器みたいな棒が穴にずかずか入ってくる。気持ちいいとか融けるような快楽を与えてくれるものでは無いけれど淡白とも云える行為が好きだぢた。痛いだけじゃないし。所詮、女なんて好きな相手にはM気がある生物だし。嫌じゃなかった。ただ、これは私がトラの都合が良い雰囲気が好きだったから、かも知れない。特別になれない。トラは特別を欲しがらない。例えば、今、彼女な私も手作りのお弁当とか、何時間もトラのバイトが終わるまで待っていたりとか、そういうことしたら、一発で、はいサヨウナラ。テメェは良い便器だったぜ。じゃあな。で、私たちの関係は終止符を打たれてしまう。
抵当に会話して、その場のノリというもので、全部終わらす。なんて詰まらない。なんて楽なお付き合い。
だから私は今日も股を厭らしく開く。あぁん、て大袈裟に叫んであげる。腰をふって、セックスが終わったら、その場にあったトーストを焼いて、冷蔵庫から適度に飲み物でも出しておいて、と頼む。食べ終わってサヨナラする。たまに遊園地とかも行く。デートと言ったらセックスか遊園地。遊園地は会話に困らなくて楽だもの。買い物は基本的に駄目。気がむいた時は一緒に行ってくれるけど、そこで甘い猫なで声で買ってなんて言うと、はい、サヨナラ。サヨナラは簡単に飛び出す。私はトラと友達だった時間も長かったからサヨナラされる女の子をいっぱい見てきた。女の子は口を揃えて、冗談だよね、とか、トラを引きとめる言葉を吐く。けれど、トラにとってその子はもうアンモニア臭がする使用済み便器でしかなくて、取り付く間もなく、はいサヨナラ。執拗に食い下がるなら、彼、お得意の拳がフェンスを抉る。寸での所で使用済み便器に手を上げないのが彼の精一杯見せる優しさだった。だから私は買い物していても、何もいわない。自分の買い物を済ませる。偶に予算オーバーで諦めていると、彼女になってからはトラが買ってくれたりする。オネダリするのはNGなのに、プレゼントはOkなんだ、変なのって思ったけど、なにも言わないでおいた。
私は彼にしてみれば便器一号だから捨てられないように必死だ。いつか終わりがくると知っているんだけど、出来るだけ長くトラという男の彼女でありたい。都合良い雰囲気が好き、だなんていうのは半分本当で半分嘘。だって、好きじゃなかったら、捨てられること丸判りなんだもん。トラのことどれだけ好きでも、捨てられてきた子なんて山のように見てきたから。好きなだけじゃダメ。犯らせてあげさせるだけでもダメ。トラには距離が必要なの。

なーんて、考えていて、頑張っていたんだけど、あっさり私もはいサヨウナラの対照に入っちゃったみたい。トラの彼女としては半年と言う好成績を収めたんだけど、失言しちゃってその途端、私っていう存在は廃棄処分けってーい! だったらしいよ。
ついうっかり。
私は自分自身が女だってことを忘れてしまったらしい。嫉妬だってする。穏やかでなんて、いられない。無理、無理に決まってるじゃん。
放課後、トラと一緒に帰っていた。トラは頭はそんなに良くないから補修を受けていて(バカだよねー)一緒に帰れるのは久しぶりで(だってトラは待っているような女の子は嫌いだから)少し浮かれていた。それが私に失言を招いた。浮かれるなんてバカがすることだ。後悔しても遅くて、私がソレを告げた瞬間、トラの冷めるような眼差しに、あ、終わった、殺されるって感じちゃった。 
私が言った失言。
トラの幼馴染の悪口。
昇降口で待っている幼馴染(地味で目立たないKくん)の姿を見つけて気まづそうな顔をしたトラへフォローの気持ちで、誰待ってるんだろう、待つ子なんているのかな、あの子、地味で暗いし誰もいなさそうーって言っちゃった。たった、それだけなんだけどさ。もう、ダメ。トラにとって私は不要な存在へと変化した。
待ってって声を張り上げようとしても進む足は止まらなくて。暗転。
なによ、馬鹿っ! て、声を張り上げたかった。あんただっていつも、その子の悪口言ってるじゃない、どうして私はダメなのよって!
けど、叫ぶと惨めになるのは私だって知っていたから、黙っていた。
私の方が早く気付いちゃったじゃないトラの気持ち。じわっとつけ睫毛に涙が滲む。防水加工がしてあるのに、気合いを入れた化粧はぐしゃぐしゃになって、泥みたいな顔へと戻った。








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -