白い監獄





白い監獄に抱き締められている男だと感じた。紀一さんからすれば、懐かしさと虚しさが交互に相対するような場所で、自慰に勤しむ男を眺め、誅戮されたもう一人の自分が顔を出した。声をかけると初な純真が表情に表れ、紀一さんは興味を抱いた。
紀一さんの世界はコサージュされたみたいに切り離した人間がカラフルに動いているのだけど、帝もその一角でしかなかった。嘘で覆われているくせに、嘘をつかない無垢で愚か。聡い人間は愚かだと帝に告げたくなるんだろうなぁと帝がまだコサージュの世界にいた頃は感じていた。
帝に紀一さんもオトコが好きなんだよ、と教えてあげると困惑に眉を曲げ、安堵の息を吐き出した。穴の使い方を教えてあげようか、と尋ねると断った後、知ってると呟いた。

それから、ずっと一緒にいる。白い監獄に囚われ、胸を切り刻む男の隣に。
一緒にいて理解した。
帝は愚か、だけど、愚かを受け入れられる準備も態勢も全部整った愚かさだった。愚か、と言いたくなる人間は多数いる。帝ほどの愚かさは纏っていないけど、優しくなりたい人間だったり、自己犠牲を演じる人間だったり、兎に角、愚か、と感じる人間は山のようにいる。生きている間に愚かさなんて蓄えられて、しまうから、仕方ないものだと思うけどね。紀一さんも含めて。帝の愚かさはその中でも溢れかえっていて、儚く白骨の中に立ちすくむような雰囲気に包まれていた。偽善とか、思い込みとかで、愚かさを蓄えている人間はいっぱいいる。けど、ソレは結局、嘘なんだ。ニセモノ。蓄えたふりをしているの。満足、満足。おめでとう。それが普通なの。
だけど、帝は違う。
帝の愚かさは本物で、どこまでも澄んでいる。よく見れば濁っている部分もあるけれど、帝が抱え込んでいる覚悟で全部、浄化されちゃう。本人は気付いていないみたいだけど。

白い監獄に住んでいる男。帝。覚悟ができた人間は強いなぁと思いながら、嫌がる帝の上に頭を乗せる。小さい。
紀一さんに対して、世間一般が愚痴としてカウントしないことまで、愚痴を告げているのごめんね、と見てくる帝が愛しい。恋愛感情とかとは紙一重で違うものだけど、懐かしさと虚しさが付き纏う。紀一さんが、ずっとずっとずっと好きな、アノコを思い出す。あ、これは帝単体じゃなく、トラクンと一緒にいる帝を見ていると、だけど。幼くて世界のすべてが切り離されていなかった時代が脳裏を霞む。
帝の愚かな恋がずっと白くあって欲しくもあり、黒で塗り潰されてしまったらと思う。傷のナメアイくらいしてくれるかなぁ、なんて淡い期待を抱くと、怒鳴られてしまいそうだけどね。帝に、じゃなくて、紀一さんに。紀一さん、紀一さん、紀一さん。紀一さんはね、紀一のそういう所が大嫌いですよ。

甘い息を口内から吐き出して、帝にあげる。何回も何回も傷ついた顔をして、帝が泣きそうになるたびに、紀一さんも悲しくなった。マスキングテープで、巻かれた過去が剥離する。はじめて他人が羨ましいと思った。










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