哀惜のロ―タス







ロータスを食べたい。
私がそう述べると彼は、君らしいね、と笑った。私は花弁を口に含み、彼へ口付けをしながら、押しつけた。私から湧き出た幸福を貴方に分けてあげると囁くと、彼はそれは本当の幸福ではないよ、と述べた。
私は知っていたけど、それでもロータスを食べたかった。


彼の忠告も聞かず、ロータスを食べながら街へ出掛けると、可愛らしい洋服屋さんを見つけた。薄手のカーディガンが春にぴったりね、と思いながら、購入した。その他も、新しいショートパンツや、純白のミニスカート、ピンクのシャツ、いっぱいいっぱい服を買った。
お金をレジで払うたびにロータスを食べた。お金さえもロータスによって与えられる。
可愛らしい洋服屋さんの隣には質素な洋服屋さんが並んでいた。興味がないので私はその洋服屋さんを飛ばして、美しい靴屋さんに入店した。
色とりどりの様々な靴に目移りしながら、大きな宝石が飾りとしてついた大人っぽいパンプスを購入した。靴は大事だもの。お洒落の基本よね。なにより私を歩かすものだから。レジがちんとなる。お札を財布から取り出して、支払う。
美しい靴を手に入れた私はロータスを食べた。
向い側にはスニーカーばかり並べられた乱雑したお店があった。
興味がないので、素通りして三件先にあった派手でキュートな雑貨屋さんに入った。
アクセサリーを買わなければせっかくのお洋服のよさを引き出せないもの。店内はピンクで彩られていて、私に似合うアクセサリーがいっぱいあった。私はハートのクリアなネックレスを手にとった。お洒落は高さじゃないもの。高い商品を身に付けることだけが美しいとかに値打ちを感じているのは心が貧相な人間だけだわ、と思いながら先程購入した靴と値段だけなら雲泥の差がつくネックレスを購入した。レジへ持っていく最中に香水を見つけた。今の香水が気に入っていなかったので、一吹き吹き掛けた後、購入した。刺激的な香りがして、身体の中心部が熱くなった。お会計をすると、ロータスを食べた。美味しくと身体がとろけてきそうだった。ロータスを食べおえると、私は早速、今まで購入したお洋服やパンプスやネックレスを身につけたくなり、更衣室を借りて、新しい私に生まれ変わった。私は美しかった。吐き気がしてきたので、ロータスを再び食べた。

お店を出ると、斜め前に錆びれた看板を掲げた雑貨屋が目に移った。嘲笑いながら通り過ぎようとしたのに、呼び止められた。


ロータスは今、食べたので最後だったでしょ、藍さん。


彼の声だった。淡々とした声色で、私はしょうがない、と思いながら、古びた雑貨屋へと足を伸ばす。どうしてここにいるのか、というのは私と彼の間には愚問のように感じたので問うことはなかった。
私がロータスを持っているの、と尋ねれば彼は私が欲しいならロータスを渡しても良いと告げた。ロータスを食べないと私の喉は乾いたままだったので、有り難く頂戴した。渡されたロータスを早速食べついでに彼の口へも放り込む。口移しで。唾液が絡んだロータスの味は格別だった。


知ってる、藍さんが俺にキスするのは、今の藍さんになってからなんだよ
知らないわ、そんなの
そうですよね
それより、どう。新しい私の姿は



私は購入したばかりの新品で身を包んだ自身を彼に評価しろと告げた。彼は眉を細目ながら、口にしがたい表情をしたあと、強引に、私の腕を掴み、古びた雑貨屋へと引き摺りこんだ。
当然、こんな雑貨屋に入りたくなった私は激怒した。彼に対して暴言を吐きまくった。辛く当たった。けれど彼は表情一つ変えず口を開く。



本当に藍さんが欲しかったのは、こっちのくせして、酷いねぇ。質素な洋服屋さんや、乱雑した靴屋さん、錆付いた雑貨屋に来たかったくせに。欲しかったくせに。新しい美しい可愛いお洋服より、靴より、アクセサリーより、こっちの古びたお洋服や、靴や、アクセサリーが欲しかったくせに。そう、ロータスより、ね。


彼は嫌味なくらい柔和な顔で微笑んだ後、私の手首を強く握る。罅が入るような音がした。顔が告げたことが本音であるにも関わらず認められなかった私の上に体力の精液が降り注ぐ。購入したばかりの、衣服は台無しになってしまった。生臭い中、それでもロータスを食べた。
本当の幸せじゃないよ。
そんなの私が一番知っているわ。










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