朦朧な好き






人間の言葉がわからない奴だ。僕とあいつの間には異文化という隔たりが存在していて、通じない感情に苛立ちを募らせた。宇宙人と会話しているような気分になり、何度、別れてしまいたいと思ったことだろうか。


リストカットするなって言っているだろう
なんでぇ、充葉ぁ、酷いよぉん
酷くない、とにかく止めろって
ふふ充葉ぁん泣いてくれるんだぁ




あいつとの会話だ。理解不能。嗚咽をもらす自分の体も含めて。涙なんか流してやることないのだ。僕が涙なんか流して必死になるから、あいつは、繰り返す。それがわかっていて、毎回、僕は泣かない、泣かないと、小さな誓いをたてるのに、僕の誓いが書かれた紙くずは、赤く濡れた廊下の前では役に立たない。
必死になって止めて泣いて勝手に傷つく僕はなんて馬鹿なんだろうか。宇宙人、異世界人、違う文化をもっている人、割り切ってしまえば良いものを僕はいつまでも引きずる。割り切れない。ずるずる引きずられてしまう。きっと、割り切れないのは、あいつが醸し出している天性の才能のようなものだ。例えば、町中で迷子になっている少年が泣いている。可哀想だと思うけど面倒だとか、そういう様々な思いがあって、面倒だとかいう感情が勝つからたいていの人は少年を助けてやらない。けど、あいつが迷子になり大声で泣いていたら誰だって「大丈夫」と声をかけにいく。そういう魅力があった。まるで声をかけない方が悪いと言われている気分に陥ってしまう。



ジル、なぁ、止めろよ
ふふ、充葉ぁんは可愛いね
だったら止めてくれ
なに言っているのぉ充葉


お前がな。
やぁ宇宙人。
本当に好きじゃなくなって、全部を放り投げてしまえれば、どれだけ楽だろうか。一層のこと記憶喪失になってしまえれば簡単にあいつのことを忘れることが出来てよいのに。
嫌いになってしまいたい。僕の足元や耳裏に絡まりつく空気とかを振り払って裸足のまま駆け出してしまえれば、どれだけ楽だろう。けれど、無理な話で、既に嫌いだとか、面倒だとか、そんな感情は飲み込まれ、愛しさのなかに、丸め込まれたあとである。本当に記憶喪失になるくらいしか手段が残されていないように感じた。




なぁ、ジル
なぁにぃん充葉ぁん
こっちにおいで。頭を撫でてあげるから



膝のうえに向い入れ、頭を撫でる。撫でていると、ゆっくりと涙がでてきて、どうしようもなくなった。
どうして泣いているのぉと尋ねられても答えられなかった。




泣いているのはお前が生きているからだよ








20110816

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