02





 教室で息を潜めていた。男の血液が付着した掌で扉を開ける。
 鈍い音が響いたのに充葉は寝息を立てている。せっかくオレがお土産を持ってきてあげたのに寝息を立てるなんて、愚者だねぇ、充葉。そういえば、初めて搾取するように穴を埋めた時も充葉は寝ていたね。
 利益も生産性もない行為を繰り返す充葉。必死に悩んで、苦悩して、自分とだけ戦って可哀想な充葉。オレの理解者。
 椅子に腰かけ寝汗を流す充葉の髪に触れる。乾燥していて痛んでいる。無骨な充葉らしい髪ぃ。血液を充葉の髪に擦り付ける。他人の血なんて気持ち悪い、気持ち悪い、嘔吐、吐いてもいいかなぁ。爪、折ってもいいなァ。
 顰蹙するのに充葉は起きない。
 充葉は簡単で、充葉はオレの味方で、ねぇ、充葉はずっと真っ直ぐだねぇ。オレが讃えてあげたいくらい。愚かだと簡単に笑えるくらい。単純でオレしか見えていない。ずっと、オレだけ見ていて楽しいィ。
 こんなにオレは堕落し悪辣で呼吸を憚られ、指をさされ、精子を得、卵子と配合し、呼吸を与えられる権利すら剥奪されたような人間なのにねぇ。充葉ぁ。充葉がオレを見つめる視線は気持ち良いよ。セックス以上かも知れないねぇ。

華奢の充葉の手首に触れる。ふふ、オレに対して言ってくれたよねぇ、泣いてくれたよねぇ。覚えているよ。オレの味方。充葉、充葉、充葉。それなのに、どうして逃げようとするの。オレから遠くなるの。面倒だよ。役割は一つに集中していた方が容易なのに。華奢、折れちゃいそうだね。骨って脆いからさぁ。


「充葉ァ起きてぇ」


 最近、寝てないの知っているよぉ。自分からオレを拒絶したくせに、自分で堕落するなんて馬鹿だんねぇ。充葉ぁん。気丈な態度で振る舞っているけど、アナルが淫靡に蠢いているのも、拒絶したオレを気にしているのも。だから、大丈夫。オレは充葉を許してあげる。お土産まで献上してあげるでしょう。ねぇ、充葉。


「充葉も、オレを許そうねぇ」

 手首に力を込めてやる。激痛が走ったのだろう。充葉は朦朧とし狼狽える顔を見せオレと目線を合わせた。可愛いねぇ。充葉、充葉、充葉。息をするのを忘れているよ。オレの名前を呼ぶのを忘れているよ。ほら、早く、呼びなよぉ。


「ジ、ル」
「ふふ、充葉ぁん。おはよう。もう夕方だけどねぇ。充葉を眺めている間に夕方になっちゃったよぉ。ねぇ、ちゃんとオレが見えている。新調した眼鏡はどう。言ってくれたら買ってあげたのに」
「いら、ないよ」
「戸惑っているの。折角、避けていたのにねぇ」
「気付いていた、のか」
「気付いていないわけがないじゃない」


 蟲の息。脆弱な抵抗。充葉はオレから逃れようと手を引く。
 短絡的な充葉は沈痛と焦燥を隠せないみたいで、眉に皺を寄せる。力じゃオレに敵わないって何度も掘って教えてあげたのに。忘れちゃったのかなぁ。

「ねぇ、充葉ぁん、お土産だよ」

 男の付着する血液を見せびらかす。どうせ披露するんだったら肉でも抉ってやるんだった。肉塊としての役割くらい男であっても果たせる。後日、充葉が男を見たら発狂するくらい喜ぶだろうから、別にいい。


「あの男が充葉に余計なこと言ったんでしょう。ねぇ、充葉ぁん。だから、オレが殴ってあげた。充葉の為だよぉ」
「僕、の」
「そう、充葉の為に俺は働いてあげたの。なぜって、充葉を失いたくなかったからだよぉ。オレはねぇ。充葉が大切だから、ねぇ、充葉ぁん、一度くらいの過ちなら許してあげるから、戻っておいで」


 抵抗の力が弱まった充葉は、机の上に手を置く。本当に単純だねぇ。充葉のそういう所オレは大好きだよぉ。


「けど、どうして……幼馴染はセックス、しない」
「型に拘るのぉ。どうでも良いじゃない。セックスする幼馴染がいても。それに、オレはねぇ、充葉にしか勃たないのぉ。他の人じゃダメなのぉ。だから、ねぇ、充葉ぁ、お願い。他人が何をいってもいいでしょう。オレが良いって言っていて、それとも充葉はオレを見捨てるのぉ」


 充葉がオレを捨てられないことなんて知っているけどね。充葉の中で葛藤が渦巻いている。幸せだよねぇ。オレから欲しい言葉、いっぱい言って貰えたもんねぇ。充葉は幸せの渦で泣いているの。可愛いね。可哀想だね。
 オレは立ち上がって、充葉の顎を掴む。血液が付着して真っ赤に染め上げられた両手が充葉を掴む。唇に優しく甘ったるいキスをあげる。恋人同士がするみたいに。定期的にメンテナンスしてあげなきゃいけない充葉に対して、薬を注入。



「ジ、じる……」
「オレには充葉だけだよぉ」

 そういって、胎内回帰願望に打ち震えるほどに張った自身の欲望を充葉のアナルに擦りつける。蕩け、小さくなっていく充葉。神がオレに与えた唯一の玩具。揺り籠に戻ってきた。お帰り、充葉。
 反射的に形だけ拒絶に形をとり、充葉はオレの胸板を押し戻す。整ったオレの醜い顔に充葉は恍惚の笑みを漏らす。化粧され、偽物の顔なのに、充葉には効果が発揮される。けれども、充葉はオレの素顔が好きなのは、阿鼻叫喚を咽喉が裂けるほど、発し、趣味が可笑しいねぇと慰めてあげたくなるということを知っている。
 ねぇ、充葉。簡単だね。

「充葉ぁ、嫌なら、オレを拒絶するならオレを殴って」

 手首を離し、無防備に構える。殴りつけても良いんだよ、こんな顔くらいぃ。無理だけど。充葉には。

「僕には……できな、い」

 充葉は双眸から雫を流す。勿体ない。涙を舐めてあげる。美味しいね。充葉。



 おかえり、おかえり、おかえり、おかえり、おかえり、おかえり、おかえり、おかえり、おかえり、おかえり、おかえり、おかえり、





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