あいうえお、つよい、よわい、あい






本当は傷つきやすくて、色んなことに弱い人だって知ってるよ。僕を護る為に沢山、嘘をついてくれたことも、その長い手足で大勢の人を殴ってきたことも。けど、嘘はつきたくなかったし、長い手足で人を殴りたくなかった。傷付くことを知っている人だから、相手にそれを無条件に残酷なまでの仕打ちで押し付ける人じゃないってことくらい、すぐに判る。喧嘩をはじめたばかりの頃、殴り終わった手足を眺めながら、溜息。その溜息にどれだけの意味が含まれていたんだろう。楽しかったのも、悲しかったのも、どちらも潜んでいたのかもしれない。けど悲しさの方が多かったよね。
僕のことを真剣に疎ましいと感じたことがあるということも、知っているよ。暢気で無知な僕に対して、傷付けてしまいたいという感情に貴方が襲われていたことも。男が男を好きになるという異常な出来事に嫌悪感を募らせていたことも。僕を怒鳴りつけて、ぼろぼろにしてやりたい、現実を突き立ててやりたいって感じ、隣を歩く僕に苛立ちを抱いていたことも。思われる度に離れていこうとする僕に、違う、お前のせいじゃないって無意識に訴えてくれていたことを。他の人は、それは彼がお前のことを生殺しにしていたんだよ、という。まるで、貴方が全部、悪いみたいに。違うんだ。僕の我儘に彼を長年、付き合わせているだけで、他の人が生殺しと感じる部分は、彼の優しさで、僕はずっとずっと、その優しさに甘えていた。優しさがなくなってしまえば、横を去っていたし、心臓は止まっていたと思う。
貴方は僕が悪かった、又はお互い様だねってことを、全部、引き受けちゃう人だから。傷付いているのに、誤魔化す虚勢を張るところも見てきたよ。僕はほっくりとした、あたたかさが落ちてきて、包まれる感覚にその度になったよ。
貴方は本当に弱くて強い人だね。弱さのうえにある強さを知っていて、知らないね。
心に蓄積する感情で自分が萎んでしまわないように、悲しいことを、切り捨てられるのは強さだし、他にも色んな強さを貴方は持っている。多分、違うって否定するか、だからお前はって言うだろうけど、貴方は僕が知る誰よりも弱くて強くて弱い人だよ。僕の住む世界は小さいけれど、小さい中で長年、見つめてきた人は貴方しかいないけれど、僕にとって貴方以上に素晴らしい人はいません。

ねぇ、けど、僕は貴方が強いとも弱いとも、一言も伝えないよ。僕の勝手な結論で決め付けるのはよくないことだし、考え方は多種多様にあるから。
だけど、伝えられない分、横にいて手を繋ぎ抱き締めることを許してもらった今、寄り添って体温を分け与える人になれるように頑張るね。僕は至らなくて貴方を苛立たせることも多くあるし、逆に貴方が僕なんかを好いていてくれている、僕の素敵な部分は否定しないで、有り難く受け入れようと思う。



僕はトラを愛しているから。




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