鄙の襯衣






(夢精)




畦道を軽やかな足取りで通り抜けようとすると、春泥した泥濘に脚をとられ、転ぶ。皮膚についた泥を払いのけると自然に涙が零れ、ぱらり、ぱらり、と落下する。
潮騒に惹かれ躰を向けると海辺の鄙へ到着し、眩ゆいばかりの輝きに帯びた海が見え、同時に髪が粘りをもち、僕の躰を海に沈める。
頸をあげると、海流が気管へと入り込み、泡を粒となり吐き出す。僕は苦しくて藻掻きながら、泳げない躰であがく。すると、瑠璃色の海は透き通った純粋さを失い、汚水に染まる緑が侵食してきた。
僕は先ほど吐き出した泡が珠になったものを飲み込むことによって、清浄さを保つけど、やがてそれも無へと返り、躰全体が緑で包まれる。
踵を返したいのに、藻に捕まった足首は喘ぐことすら許さない。それなのに、包まれた瞬間、羊水で眠っていたころより、心地が良い、誰かに包まれた感覚を僕に与える。誰かが悦べば良いと単純や誤魔化しで与えられたものではなく、形として存在し、僕の女々しい雄は力を持ち、泡を吐く。
海の緑は白と混じり、塩の色は緑を瑠璃色へと褪色を追いやる。だが、僕には行き場のない憤りと自身へ向けられた憐れみが朦朧とした意識の中へむけられる。
木々の艶やかな背景を背負い、一際輝く異彩を放つ少年が、懐かしい髪色で僕へ笑みと侮蔑を向けた。











目を覚ます。
鳥の囀りが鼓膜へ届き、薄らぼんやりした光が僕の色彩を刺激し、お母さんのスリッパの音、お父さんが慌ただしく家をでる音、お兄ちゃんの声色、竜くんと藍ちゃんが口喧嘩する罵声が、僕の頭へ飛び込んできて、夢を見ていたと気付く。

ねちゃり。

厭な音がして、波立つ心臓を抑えながら、布団を捲ると、白濁がズボンへ染み込んでいた。
現実逃避しようと、左右を見渡したけど、肺から聞こえる呼吸の音や、鼻につくかおりが現実だと訴えてきて、ねちゃり、ねちゃりと肥大した音がする。焦燥とする顔は碧白く鏡に映り、起床が遅い僕の部屋をノックする鈍い音が僕には爆音に聞こえた。







聞き慣れたテノールの声が響く。僕が情景を抱いた人物の融けるように熱が籠もった息遣いが細くをぴくぴく刺激する。鷹揚な指先が僕に触れ、揺れる柳のように、陰茎が窄まりへと入り、産み落とす。





フラッシュバックする肉声の記憶が、僕に罪深さを自覚させ、放恣な心髄が勝手気儘に傲慢な動きを見せる。


好きなんだ。


性的な欲望を抱く相手として。
語気が詰まる。揺れる襯衣に白がつく。
過呼吸となる、喉元に両指を食い込ませた。



20110428









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