深海魚に同情






悪口をいう人が世界に溢れているのは、知っているよ。
自分より能力が低い人間をわざと傍に置いて安堵を得ている人間が溢れているのも、知っているよ。
その逆で、安堵を得ている人間の方が本当は小さな人間だっていうことも、知っているよ。
暴力を射止めなく奮う人間がいることも、欲に忠実な人間も、差別をする人間がいることだって知ってるよ。
嘘を平気でつく人がいるのも、その嘘が相手を護るためだといえ、自分も他人も傷つけるものだというのも、知っているよ。
好意に悪意で返す人がいるのも、僕は知っているんだ。

けど、知っている、だけ。僕はそれらの気持ちを知っているだけ。
僕は出来た人間ではないから、知っているだけ、なんだ。
悪口をいう人の気持ちも。安堵する気持ちも、暴力を奮う気持ちも、差別する気持ちも、僕にはわからない。
ただ、聞いていると涙が、ぽろり、ぽろり流れてきて、痛むのが判る。それが、悪いのか良いのかさえ、僕には理解出来なくて、悲しみを訴える心臓が泣いていた。
僕が例に出した中で解る、のは、嘘をつく気持ち、くらい。
僕は嘘をついている。
いや、正確には嘘じゃないんだ。嘘とは言わない。隠しているだけ。彼への気持ちを。言いたいけど、言えない、僕の罪。僕の罰。言わないのは自分のせいなのに、顔色を疑って、言えないのを彼の為だと擦り付けている。本当に駄目だと思うなら、僕は彼から離れるべきなのに、できない。
判るというのは、なんて辛いんだろうか。
僕は例に出した中のものだけでも、辛さを抱えている人間の素晴らしさに、また涙が出そうになる。僕だったら折れて、溺れてしまう。
一般的に悪い感情と言われているけれど、それらに付き纏う重みを背負うことができるなんて、強い人だと思う。
知っているだけの、燮な僕には無理なこと。



だからね、僕は結局、知っていることしか出来ない、頭でっかちな人間なんだ。

知ってるよ。
僕は。
ちゃんと知った上で、僕は彼が好きなんだ。
例えば、僕は本当に彼に釣り合わない人間だと自負していて、僕から見れば、彼は僕なんかを横に置いてくれる素晴らしい人だけど、彼から見ればそれは、普通、のことで、特別なことじゃない。それが普通だということを。知っている、よ。
彼は僕を庇護する幼子のように可愛がってくれているのも。同じくらい、僕のことが、煩わしく、傍にいることと、傍を離れたい気持ち、どちらも保有していることも。突き放してしまいたい衝動も受け入れてしまいたい情けも。彼がその間で葛藤していることも。僕は全部、全部知ったいるんだ。心のどこかで、ね。瞬きをしている。きらきら、きらきら。僕は目を閉ざす。
彼からしてみれば、僕から向ける感情は邪魔なものでしかないのだと思うと知っている。

けれど、止められない。
僕は。唯一理解出来る、悲しい、悲しい感情に対して、止めることができない。

僕が唯一判っている、悲しい感情。
それを背負うだけで、折れてしまいそうになる。
ごめんなさい、ごめんなさい。
枕元で呟く。

誰に対しての謝罪かわからなくなるくらい、唇は干からびていた。






20110418









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