僕という嫌な奴





冷えた食卓に並ぶ、冷えた料理を口に運ぶ。唾液でくちゃくちゃにされた白米。僕一人では食べきれない量。かと言って、捨てるのも勿体ないから食品冷凍用の袋へ詰め、冷凍室へ入れる。トラが用意してくれた、冷蔵庫は大きくて冷凍室が二つある。上段にはトラが食べるアイスとかが入っていて、下段には僕専用となっている、食べきれなかった料理が入っている。これを三日毎食口へ運ぶと、ようやく消化できる。消化できた時は達成感が湧きだしてくる。惨めを隠すという目的もあるけど。
トラが料理をいらない、という日は女の人と一緒にいる。一対一だったり、大人数だったりするみたいだけど、女の子特有の甘い香水の残り香が僕の鼻腔を擦るのですぐに判ってしまう。一応トラは隠しているみたいだけど、バレても良いという感覚らしく、必死になって隠したりしない。僕が問い詰めれば、だから、と返されてしまうに違いない。
もくもく。
あ、まただ。醜い感情が湧きだしてきた。トラが女の人と、口には出せない行為をするのは仕方ない。僕なんかに付き合ってくれているんだから。貧相で抱き心地が悪い身体を抱き締めるより、柔らかく豊満な身体を抱き締めた方が気持ち良いに決まっているから。本来、僕の身体みたいな男の身体は性交を受けとめるようには出来ていない。吸い付くような締め付けも出来ないから、トラが物足りなくて当たり前なんだ。僕で満足出来ないのなら、女の人相手に性欲を発散させるのは仕方ないことだ。お情けで付き合ってもらっている身だから。トラが女の人と性交するのは寧ろ普通のことだ。早く解放しなくちゃいけないのに、蜘蛛の糸に群がる亡者のようにトラの脚に縋りつく僕。哀れだ。
トラは何一つ悪くない。悪いのは僕のこの身体。トラのことが好きな僕。だから、この、もくもくした気持ちはトラへじゃない。どちらかと言うとトラが満足する相手ができる女の人へ。更に詳しく言うなら、女の人へもくもくする僕に対して、だ。他人へ対して悪感情を抱くなんて、なんて愚かなことだろう。人間失格だ。トラを好きでいる資格なんてないのに、ずっとずっと手放せない。僕の罪。僕の罰。


「なんて嫌な奴なんだろう」

ご飯を食べる。味気なさの正体はトラが目の前にいないこと。涙は出てこないけど、ご飯粒が箸から転げ落ちる。もっと良い人間になりたい。素晴らしい人間へと変化したい。トラの隣に腰掛けていても後ろ指をさされて笑われない人間になりたい。
願って祈って、トラと釣り合う人間になろうとするのに、嫌な感情は消えてくれない。
美しい人間ってなんだろうと考えながら食べたご飯はいつもより機械的な作業だった



20110404









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