女の人の甘美な声が苦手だ。甲高くて、聞いていると耳鳴りが起こる。周囲に無意識に撒き散らす女性特有の色気も、肌膚を通るとぞくりとする。細い、折れそうな肢体も、伸びたまつ毛も、僕には好ましく思えない。ましてや、それに興奮するなんて論外。
どうしてだろう。
疑問に感じて尋ねてみたくなったけど、直感で、ああ、これは尋ねちゃいけない質問なんだなって察することができた。僕は特にそういう女性的な魅力が全面的に押し出されている人を相手にすると、悴んだてのひらを合わせてみせて、震える。できれば、関わりあいたくない。けれど、僕の好きな人が好むのはそういう女性だった。
今も受話器越しに、そういう女性と話している。家が隣同士だから幼いころから身についた習慣で一緒に帰るときもあるけれど、いわゆる、恋人、と名のつく存在があるとき、僕の好きな人は僕の真横でずっと携帯電話を弄っている。止めて欲しい、とか、控えて欲しい、とか、言う度胸と権利が僕にある筈もなく口を閉ざす。また、僕の好きな人がそれで楽しいのなら僕は満足だった。
けど、少しだけ、ずきん、胸の奥で奏でられている。ずきん、ずきん、ずきん。微量な麻酔を必要としたい気持ちに駆られる。
やっぱり僕より恋人が大事だよねってそう告げられているみたいで。無意識のバリヤーが僕をつつく。

「帝?」
「あ、な、なに?」
「わりィんだけど、先帰ってくれねぇ?」

僕の好きな人はそう言って、とんとん、と携帯電話を叩く。恋人からのラブコールらしい。会いたいって素直に甘えられるのは柔らかい女の子の特権だなぁって思いながら、否定する理由もないので、こくん、と頷いておく。僕の好きな人は悪いと言って、駅のホームを逆走する。僕はずっと背中を眺めていた。好きな人からの呼び出しだったら駆け足で行くよね。そうだよね。残されてしまった僕の気持ちなんて顧みず。

かーん、かーん

電車の音が聞こえる。わかっていて、何度かシュミレーションしてみたけど、現実になると慣れないなぁってじんわり瞳にたまった、涙を拭いたくなったけど、涙は乾いてでなかった。
僕の好きな人が幸せなら僕も幸せだけど、やっぱり、悲しい、悲しい、僕を見てって訴える本音は止まなくて、しかたなく今日は一人で電車に乗る。来週は一度でいいから一緒に帰れたらいいなって思いながら。














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