Rの面倒事





愛するのは面倒だ。

例えば、僕の恋人だった人が結婚する。僕が嫌っていた人が脚光をあびる。僕と一番親しかった友人が他に一番親しい人間を作る。僕が何でも知っていると自惚れていた人の知らない部分を見付ける。僕が尊敬していた人の汚点をみつける。指折り数えられるだけで、こんなに沢山、あるじゃないか。人と人が支えあって生きている。なんて、ロマンティックで耽美な響きなんだろうか。けど、現実問題、人間を愛した途端に面倒なことは増える。なぜかって、人間は簡単に裏切るからさ。例外を僕みたいに作ることはとても面倒なことだ。愛するには労力を用要る。大衆として、見ている時は楽で仕方ないのにね。人は薄情だと罵るが、ではお前は面倒だと感じたことはないのか。嫉妬したことは、絶望に類比した感情を錯覚したことは。ほら、お前はないと言いきれない、逆に罵倒してやることでさえ、厭わない。僕の感情は至って常識の範囲内に納まるんだよ。
僕には例外がいる。愛してしまった人間がいてしまった。汚点とも塗り替えられる失態だけど。
僕が愛してしまった人間は直ぐに手首を切断する。女のヴァギナのように、生臭い人体を香ばしく漂わせる。手首からは血液が嘲笑ってしまいたくなるくらい、溢れている。充葉ぁんと肉声が僕の首筋を舐め、慌てる僕の姿。ああ、面倒だ、面倒だとも。けれど、止まらない衝動。人を愛して面倒なときの最高位を与えられる。悲しみや苦しさに包まれ圧迫死する瞬間だ。お察しの通り、僕は錯乱する。僕の血が青になり、顔が涙と涎で、ぐちゃぐちゃになるくらい、お前に止めて欲しいと頼み込む。そうすることで、僕の愛しい人間は笑うのさ。
気付いてはいる。手首をあいつが切るのは、僕に構って欲しいからだ。掻き乱した僕をみて、あいつは自分に降り注ぐ愛がどの程度か見極めているのだ。悪趣味。心配して欲しがりや。なんて鬱陶しい。大丈夫か、大丈夫か、と尋ねるたび。もうやめてくれ、やめてくれ、と懇願するとき。あいつは僕が今まで見てきた中で僅かにしか見たことのない極上の笑みを見せる。まるで、そのまま死んでしまうかのように。成仏してしまう。
僕はあいつが求めるものが、なにか分かっていて、尚且つ僕は望むがままに行動してやる。何も始めから判っていたわけじゃないけどね。何度も繰り返され、全てを見透かすような眼差しに期待を込められ見つめられると、僕でも学習してしまうんだ。心配して、取り乱して欲しいってね。初めてリストカットしたあいつを見た僕はさぞかし無様で滑稽だっただろう。あいつは無意識の内に自分の母親と同じ行為を繰り返したんだから。


そんなわけで、愛する人間を見つけてしまった僕は今日も愛を注ぐんだ。例外は存在するけど。あいつが僕以外と親しくした時。心中に渦巻く感情の処理で必死で気をつかってやる暇さえない。
これだから、誰かを愛するって酷く面倒なんだ。いっそう、殺してしまいたいと願うくらいにね。







20110731

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