エデンの誕生死









Q、一緒に居て辛くなる人っていない?
A いますよ。いつも一緒に居る奴

Q ではなぜ一緒に居るのですか
A なんだかんだで好きだからじゃないですか

Q 意外と簡単に言いきるんですね
A 悩んだ後だからかな。最終的にどうでも良くなった。悩むことが

Q 悩むことが?
A 悩んでも仕方ないと知ったんです。



充葉は雑誌を捲りながら怠慢な時間を潰していた。素直に退屈だといえばいいのに、言葉の差異が彼を苦しめる。捲られた雑誌は数年前に彼が購入したものだ。青と黒で彩られ、見ず知らずのグラビアアイドルが表紙に水着を着て映っていた。充葉はそれを眺めながら下品だと考えたが、よくよく見ると目尻のあたりが自分自身に類似していると気付く。目を酷使して、じっくり眺めていると次第に己の顔へと変化した。男を誘う顔をしている。胸などないのに水着で乳首を隠していて扇情的に映る。誘惑していて、現状に不満がある顔立ちだ。今より、少し幼いのは恐らくこの写真が高校時代のものなのだろう。あの頃の自分の顔は、これほどまでに矮小で愚かであったのか、と充葉は雑誌を投げ捨てる。
充葉は自分に感情を与えるのはジル・トゥ・オーデルシュヴァングという幼馴染以外、存在しないということさえ知っていた。理解したうえで感情の波浪を引き起こす、ジルという少年の傍に付き添っているのだ。得られる対価と引き換えか。いや、黒沼充葉という少年がジルという少年を愛してしまったのが、そもそもの間違いであったのだろう。本人たちは頑なにその可能性を否定するが。確かに、充葉という存在がいなければジルが生きるということは不可能であったし、充葉という少年が学力的にも運動的にも全国上位に君臨することはなかっただろう。しかし、凶悪な犯罪を引き起こしてしまうとなると、二人は会わない方が良かったと言ってしまった方がいい。
充葉は雑誌を投げ捨てた方向へ歩く。捨て去ったことを後悔したのかと思いきや、雑誌をいとも簡単に踏みつけ、扉を開ける。新しい部屋は薔薇で覆い隠され、天蓋からは陽の光が差し込んでいる。その薔薇で囲まれた温室の中で、ジル・トゥ・オーデルシュヴァングは横たわっていた。肌理は艶やかであり、美しいが、生前、醸し出されていた人間らしい一面をすべて閉じ籠めている。そう、ジル・トゥ・オーデルシュヴァングは死んでいた。死ぬ数年も前から防腐剤を微量にジルの体に注入して、室内には冷房が一日中絶えずかけられている。それでも腐り落ちてくる部分があるのだが、充葉は気にせずに、ジルを抱きしめた。愛しさが詰まった。これは僕ものだと自己主張を高らかに宣言するかのように。ジルは僕のである、と口ずさむ。当然ながら、ジルを殺したのは充葉である。それは隠しようのない事実であるし、また、同じように充葉を生きながらにして殺したのもジルであった。
ジルは充葉に殺される前夜、セックスの最中で、お前を殺しても良いだろうかという充葉の否定を望んだ問いかけに、嬉々として首を下げ、充葉に殺してもらうことが、如何に至福であり名誉なことであるかを語って見せた。本人の了承さえ得てしなった充葉は翌日、ジルに注射を撃ち込み、死亡させた。それからは、ずっと二人の世界である。充葉は死体となったジルを愛した。生前に感じた愛の言葉伝えることは恥ずかしくもなんともない行為へとなった。寧ろ、愛を確認できるようで至福であった。こうして、充葉はジルに愛の言葉を囁いた。毎日、気が狂う程。こうして、黒沼充葉という人間も死んでいったのである。
おせっかいな人間や常識人は充葉とジルの奇妙にねじ曲がった関係を当たり前のように否定するだろうが、今更、誰の言葉も充葉には聞こえなかった。当然のようにジルも聞こえていない。二人だけの楽園で、困ることなどなく、暮らしている。充葉が性欲を我慢できなくなれば、ジルのペニスを持ち上げ、形ばかりの奉仕をしたあと、ジルのペニスをアナルへと突き刺した。死人の上で充葉は踊る。しかし、あくまで充葉にとってジルは生きているようで、ジル、ジルと、喘ぎながら充葉はジルを求める。これでは、指をさして笑ってしまっても仕方ないのだが、誰も、そんな二人を笑えなかった。
いずれ、ジルが白骨化してしまえば、充葉も死ぬであろう。彼の美しい顔がとれた姿に、充葉は耐えられぬのだから。ジルの美しい顔も、賢い頭の、充葉が大嫌いな所であり、愛してやまないところなのだ。頭が既に溶けてしまった今、残るは顔しかない。
顔がなくなったとき、充葉はペニスの上で踊りつづけながら、骨に口づけをして、生涯を終えるのだ。






20110530

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