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「すぐに不安になる癖は絶対に変わらないよ」

五十嵐君の友人に言われた。俺は生姜紅茶を飲みながら、そうなんですか、とさもどうでも良いように答えたのを覚えている。
五十嵐君の友人は俺のことを奇特な人を見る眼差しで見てきた。じぃっと見つめた後「まぁそう言える奴だから、五十嵐と続いてるんだろうけど」と小さく漏らした。
昔、同じような目線を五十嵐君の元彼女という人たちにも向けられたことがある。大学のカフェテラスで、友達が少ない俺は一人で次の授業までの暇つぶしとして、紅茶を飲みながらパソコンを弄っていた。そして突然、見ず知らずの女性に声をかけられ、不躾な物言いで忠告されたのだ。「悪いこと言わないから、早くわかれた方がいいわよ。あいつ、可笑しいから。貴方も携帯チェックとか行動報告の義務とか、あと男けしかけられたりしたでしょう」だったかな。確かこんな台詞だ。どうでもいい言葉だったので、ぼやぼやと気づけば頭の中から消えていってしまったけれど。あの時も思ったし、こうして五十嵐君の友人に改めて言われても思う。俺にとってそれは些末なことだし、なぜこんな風なまるで、それらすべてを受け入れているのが可笑しいというような、眼差しを向けられるのか、まるで理解出来ない。
本当の愛っていうのは一体なんだろうか。俺と五十嵐君の間にあるものが、本当の愛だとは、俺自身は到底思えない。五十嵐君はたまに俺に「君と俺との間にあるものが真実の愛だよ」と言ってくれる。それは俺が、携帯をチャックされても文句ひとつ言うこと無かったし、男の影がまるで見られなかったということなのか。それとも、彼に逐一一日のスケジュールを報告することを嫌とは思わないこの性格のお陰なのか。それともそれとも、彼が自分の友人を使って俺が浮気しないか試したテストを見事に乗り切ったからなのか。どれをもって五十嵐君が俺と彼との間にあるものを本当の愛として評価してくれているのか、俺にはまるで分らないのだ。だって、俺からしてみれば、五十嵐君がくれるもの、すべてを受け入れるのは当たり前のことだし、逆に言えば、五十嵐君が不安がっているのに、どうして他の友人と会わなきゃいけないんだろう。どうして五十嵐くんがいるのに、他の男に靡かなきゃいけないんだろう。彼を不安にさせることを、率先して行おうとする神経が、まず俺には理解出来ないものだった。
「けど、天響くんってさ、自分のやりたいことは普通に言うよね」
これも五十嵐君の友人に言われた言葉だ。友人の、さてそれ、誰かは忘れてしまったけど。それはそうだ。五十嵐君は別に意思のない人形が好きなわけじゃない。それに、俺には俺の考え方があるんだから、自分の意見を伝えるのは当たり前のことだ。俺はどれだけ辞めろと言われても、父親のような検事になると決めていたし、自分の将来のことは自分で決めた。それに対して、五十嵐君もやめろなんていう人じゃないということを、俺は知っている。
彼は確かに束縛が激しくて、人から見れば理解できないような行動をとることもあるけれど、基本的には良い人なんだと俺は思っている。だって、そうじゃなきゃ、こんなに好きになっていないだろう。五十嵐君は優しかった。大学になじめていない俺に対して、優しく声をかけてきてくれた。きっかけは、そんな事からで、彼が良い人だということを証明できる行動を俺はもっと知っているし、それはイコールして彼の好きな所でもあるのだけど。
みんな、五十嵐君の良い所を沢山知っている筈だし、はじめはそういう所に惹かれて彼の周りに集まってきたのに、どうして一つや二つ自分と合わない所を見つけただけで、嫌いになってしまうんだろうか。それを含めて愛していこうとは何故ならないんだろうか。人間、自分以外は他人なんだから、どうしても合わないところが出てくるのはしょうがないことだ。けれど、それを受け入れられるも、受け入れられないも、結局はその人次第なのだ。自分が五十嵐君の欠点を受け入れられなかったからと言って、さも、すべて彼が悪いといったような言い方をするのは何故なんだろうか。そこに少しでも、自分が悪かったという気持ちは、自分が彼と相性が悪かっただけなのだという気持ちにはならないんだろうか。
俺にはよくわからない。そういう感情が。
なんにせよ、様々な人の忠告を聞きながら、俺にはまったく関係のないことだと、適当に聞き流した。



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