六十億の命が蔓延るこの世界で、なぜ私は彼だけを必要としているのだろう








楽しい時は馬鹿になっている時だ。
気持ちいい時は愚かになっている時だ。
充たされた錯覚は自分が空っぽを証明している証拠だ。

紙に綴った言葉をジルへと差し出す。ジルは変わらない笑みを絶やすことなく、相変わらずと云って良いくらい美しい口元は弧を描いている。僕の意図を察していながら、敢えて気付かない素振りをする態度は白々しいものだった。四肢を切断された状況でもそれは変わらない。美しい顔も、ジルの内面も変わることはない。
僕がわざと愛翫動物を撫でるように接すると喜んでみせた。 無邪気な笑みが気に入らなくて殴ってみせてもジルは笑みを絶やさないので逆に僕が泣けてきた。僕が泣くとジルは戸惑いながら、充葉ぁと僕の名前を呼んだ。どうして、僕が泣くとお前は悲しむんだ、お前をそんな身体にしたのは僕なんだぞ、と理不尽だと己で判る台詞を吐き出した後に、僕に左右されるジルを受け入れ、悦を感じる自分を恥じた。


ジルの四肢を切断したのは僕だ。じょきり、じょきり、コーナンで買われた鋸でジルの四肢を切断した。一本、一本ジルの身体の一部がなくなっていく様子をまるで第三者の立場にいるような感覚で眺めた。ベッドは血で溢れた。二人で一緒に寝れるのが良いとジルが懇願したなで、一緒に買ったベッド。幸せで、なにも考えていなかったころの純白は真っ赤に染みて死んでいく。四肢を切り取っている瞬間、ジルは眠っていた。麻酔を僕が打ち込んだからだ。
目が覚めたらジルは四肢を失っていたのだが、戸惑うことなく、ジルは充葉ぁと僕を呼んだのだ。
ジルが確認したのは、僕が僕の意志でジルの四肢を切断したのか、ということだけだった。
僕は事実がそうであったので首を縦にだけ振った。
すると、ジルは彩るような笑みを浮かべ自分を抱き締めて欲しいと言ったので僕はジルを抱き締めてやった。切断した僕の方が泣いてしまい、充葉ぁ、充葉ぁと僕を心配する歓喜に充ち溢れた声が上から降り注ぎ、ああ、ジルの四肢を切断して良かった、と溺れた。
僕がジルの四肢を切断した理由は簡単に説明できる嫉妬心。独占欲。つまり自分自身の欲望のために、ジルの四肢を切断したのだ。
だからこそ、理不尽な目にあわされたジルが笑みを絶やさないのが不気味で仕方なく、笑みが僕を責めたてるように見えてきて紙を差し出すのだ。


楽しい時は馬鹿になっている時だ。
気持ちいい時は愚かになっている時だ。
充たされた錯覚は自分が空っぽを証明している証拠だ。

同じ言葉が並べられている。要約すると、僕は今幸せだけど、とても愚かで空っぽなんだ、と書かれている。
ジルはさっきみたいに、いつも気付かないふりをする。いつか一緒に死のうね、と四肢を切断されてから、さらに美しさに磨きがかかったジルを抱き締めながら思う。

酷く、頭が痛い。







20110414

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