なんて、酷い、言葉なんだ。



形骸な口が動く。この時のジルを、僕は人と認めたくない。笑みは残酷なほど、美麗で、辛辣なくらい、胸を刺す。指先が滑らかに動き、間接が鳴る音が鼓膜へ残ると、美しい顔を両手で覆ってしまい、涙を流した。両手の隙間から、たらたら流れる雫は塩分を含んでいて、カーペットに落ちると、蒸発し、塩だけになる。僕は後日、丹念にこれを掃除するのだ。あとなんかのこしたくない。
讒言のように媚垂れた肉声が、悲痛な言葉を醸し出す。ジルにして見れば、平然とした、当たり前と言った言葉で、僕の胸を切り裂くものばかりだ。残酷な形状となり、言葉は僕へ重しを残す。言葉、一つ、一つが石のように降り積もり、僕の喉は瓦礫に埋もれ、言葉を投げ出すことを不可能とされてしまい、紡ぎだされる、残酷な言葉を聞いているしかない。
最も、ジルらしくて、最も、ジルらしくない言葉を。淡々と、死骸が喋る言葉を聞く。声は死に絶えて欲しくて、僕に裁判の審判を下せと命令するように、告げると、お願い、お願いと、醜いくらい美しい生き物は滑稽にも、そう訴えた。
石を詰められた僕の喉は喋ることが出来ず、泡ように口内では唾液が溜まる。乾燥している筈なのに、唾液は湧きだす。ジルは気にせず笑みか泣き顔か解らない表情を持続させて、僕へ告げる。


ねえいま死にたいと思うなんて可笑しいかな


首を傾げ、僕の眸を見ながら真顔で告げられた言葉に石を埋められた僕はただ、涙だけが、ぽろりと頬を伝った。
どうして、そんなこと、いうんだよ、僕はお前のことが大好きで愛していて、例え、形骸として息をするお前のことさえ愛しているというのに、そんなことを言われれば、僕という存在はなんだんだ。お前にとって。すごく幸せとか、死ぬまで一緒にいてよ笑った顔がもっと見たいよ、とか、お前が望めばいくらでも、これから見せてやるのに、どうして、ねえいま死にたいと思うなんて可笑しいかな、なんて尋ねるんだ。
声にだして、そう伝えたいのに、喉を切られた無残な僕の口からは、音が出ず、ただ、死に際を生きる人間の声を聞いた。
喉に詰められた石を排出するように双眸から砂利を流す僕へ向かい、稚児のような無邪気な顔で僕の表情を覗き込んだ。泣かないで、と、頼むみたいに、謝罪をし、抱きしめ、肩に埋められた肉の味を噛み締めるように、痛烈な骨を噛み砕く。
人と認めたくない口を押し込めるように、僕の方から稚児へ抱きつく。生きているのに、大好きなのに、揺さぶられる唇。砂利を出し切った双眸。声を取り戻した喉。ジル、と名前を呼び笑うと、不思議な顔をして、僕にしか見せない顔を覗かせた後、死にたい、という声をジルは漏らした。



なんて、酷い、言葉、なんだ。








20110414

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