隣人と顔を合わせたことのないマンションのエントランスは今日もホテルみたいに静謐とした美しさがあり、生活感がしない。このマンションに住んでいるのが自分たちだけみたいな錯覚をするときがある。
 少なくとも俺が知っている集合住宅というものは、いつだって郵便受けは下品なDMでいっぱいになっていて、罵声が飛び交い、酒と吐しゃ物の匂いが充満し、錆びた階段が軋むような場所だったから。
 ああ、けど、オフィーリアに入学して入居した寮も綺麗だった。
 綺麗だったけど、家というよりかは学校の延長線上にある施設という認識で、自分たちは子供で、門番がいて、寮母がいて、規則があって、守られた場所という印象を受けた。けれど、子供が住まう場所なので賑やかで、笑い声で溢れていて、ずっとこの場所にいたいような、そうじゃないような。不安定な気持ちにさせられた。
 幸福が詰まった場所だからこそ、少し居心地が悪かったのを覚えている。陸上だけに専念していたときは快適で過ごしやすかったはずなのに、ほむらと出会ってしまってからというもの、陸上以外のところにある幸福を知ってしまったからこそ、自分の居場所じゃない浮遊感のようなものが寮にいるときは付き纏った。
 だから、あまりあの寮に寄り付かなくなってしまったんだろうか。今日だって、本当は練習が終わって寮に帰らなきゃいけないと分かっていたのに、つい、ふらふらと、ほむらのマンションへと足を延ばしていた。
 ほむらが迎えにきてくれたときは一緒に彼のマンションに行くのは分かるような気がするだが、今日はほむらはいなかった。昼休みに「佐治組から野暮用頼まれてもうて、今日は一緒に帰れへんのや」と言われて、久しぶりに一人で帰宅するの寂しいな、と思ったし、じゃあ今日は寮の方へ帰らなきゃと思ったのに、気づけばほむらのマンションにいる。
 慣れた手つきでカードキーを取り出して一九階のボタンを押して、部屋の前まで来てしまった。
「来てしまった」
 独り言。
 オートロックの扉。
 一応、チャイムを鳴らすが留守のようだ。ほむらの気配もしないし、佐治組から頼まれた野暮用というのが終わらないんだろう。カードキーを押し付けて、扉を開ける。
 外と変わらず冷えた空気を保った部屋はやはり静かで、ほむらが在宅していないの知らせていた。「お邪魔します」小さな声で零して、部屋の中に入る。靴を脱いでちゃんと揃える。廊下を歩いて、リビングと台所に繋がる扉をあけた。
 ほむらの家には大きな台所がある。
 全体的に黒い家具で統一されている。人工大理石の壁は白いけど、それ以外は殆ど黒だ。リビングとの境目にあるキッチンカウンターも黒だし、出しっぱなしでインテリア化しているポットも黒だ。冷蔵庫もトースターも黒。
 お洒落だけど、カタログに掲載されているページを切り取ってそのまま持ってきたようにも映る。まるで映画の世界みたいなセット。
 ほむらがそこに立って料理している光景をみたことがない。こんな大きな台所不要だな、と見る度に思ってしまう。
 俺がたまに目玉焼きとか炒飯とか簡単なご飯を作るためだけの場所。けど、もしかしたら一人でいるときは、ほむらだった料理をするのかも知れない。いつか食べさせてくれたら嬉しい(きっと、今でも手作りが食べたいというと作ってくれる気もする)
 蛇口を捻って水を出し手を洗う。洗面所は別にあるのは知っているんだが、幼いころからの癖で台所で手を洗ってしまう。初めてほむらの家に来たときは少し驚かれたし「手、洗うん偉いなぁ」と言われてしまったが、次に家に来たときは、手洗いの石鹸が台所に置かれていたの、嬉しかった。キッチンペーパーで手を拭いて、荷物をリビングに置いてあるソファーに降ろした。
 大きなクッションに大きなテレビ。なんだか良くわからない模様の高級そうなカーペットだけがほむらの主張みたいな空間。
 ああ、テレビの周りには彼が大阪から持ってきた小物が並べられているので、あそこにもほむらを感じる。
 インスタで流行っていたお洒落な置き時計とか、どこで買ったか分からない土産屋に置いてそうな木彫りの置物とか。意味不明でちぐはぐなインテリア。けど、ほむらっぽいと思う。飾らない、周りの意見なんてどうでも良いという主張が目に見えて、俺は好きだった。
 ほむらがいない時はたいてい、このクッションに身を任せ横になってる。
 以前はベッドに寝転がっていたのだが、そのまま寝てしまい朝だったということがある。せっかく家に来たのに、朝だったのが切なかったので、寝転ぶ場所をリビングに変えた。
 広告の人を駄目にするという謳い文句は本当のようで、寝ていると体の力が抜けてくる。このクッションにほむらの家の匂いが沁みついてるのがダメなんだ。
 ほむらと一緒にいると、ほむらは後ろからすぐ抱きしめてくる。俺も身長は高い方だし、陸上をしているので体格も良いが、ほむらは俺よりももっと大きい。筋肉が柔らかいっていうのをほむらと付き合うようになってから初めてしった。
 後ろから少しきつく抱きしめられる。苦しさを感じるときもあるし、邪魔だと思う時もあるけど、それよりも幸せな気持ちが勝つので、結局、抱きしめられたまま寝転んでいることが多い。誰かに抱きしめられると温かくなるのだというのを、ほむらが教えてくれたような気がする。
「早く帰ってこないだろうか」
 佐治組に頼まれた用事というのは、あの契約書に基づくものだ。本来なら、ほむらが縛られる義理がない筈なのに、俺がほむらのことを捕まえておきたくて、縛ってしまった。あの契約書があるから、絶対に三年間はほむらは俺のものなのだ。もちろん、三年以降も一緒にいる予定だけど。
 契約書は要するに、佐治が鳳からほむらを三年間買い上げたものだから、佐治に命令されればほむらは言うことを聞くしかない。
 佐治白虎くんとアナスタシアさんは滅多なことでほむらを呼び出したりしないけど、稀にこうして呼び出しがあって、場合によっては血を流して帰ってくる。
 ほむらが怪我するには嫌だ。血を流して関節をぐちゃぐちゃにされて、顔が変形したほむらを何度か見たことがある。ほむらは殴られても切りつけられても、平気な顔してる。たまに楽しそうに笑っている。怒ってる時もある。
 普通、殴られたりしたら痛くて泣いてしまうと思うんだが。ほむらは殴られることすらも笑って過ごせるような人なのだ。俺にはそれが信じられない。
 別世界で生きてきた人だと実感させられる。
 今まで出会ってきた人の多くは、俺とは違う世界で生きているみたいだったけど、ほむらはその中でも特に別の世界から来た住人みたいだ。
 俺にも常識はないけど、ほむらにも常識がないということは知っている。いや、少し前に陸上部の皆が教えてくれたって言った方が正しいかもしれない。
 けど、感覚的にはずっと分かっていた。
 だから、ほむらと会話していると、自分は本当に愛されているんだろうか? と底知れない不安の渦に叩き込まれることが少し前まではあった。なんだか、俺が欲しいリアクションをほむらがくれない時があったから。
 俺の常識では、可笑しなことをほむらは容認する。例えば、付き合ってるなら、他の女と俺が性行為するのは嫌だと思ったのに笑って許した、とか。そういうの。
 自分自身の常識に自信がないから、上手くほむらの可笑しさを言語化出来なかったんだけど、陸上部の皆が教えてくれて、ようやく、やっぱり変だったんだ、と自認することが出来た。
 けど、別にほむらの可笑しなところが嫌いなわけじゃない。俺が嫌だったのは愛されていないかもしれないと不安になることだから。
 今はそれも解消されている。一度別れるまでは、一番近くにいるのに、一番遠く感じることがあった。心臓の距離は二〇センチなのに、心の距離は一番遠くにあるような、言いようのない不安と怒りが渦巻いていた。だから、一度別れた。
 結果として別れて良かった。だってほむらの気持ちを丸裸に出来たから。ずっと俺だけほむらの前に裸で立っているような気持ち悪さがあったけど、あの日、初めて裸のほむらを見た。
 なにも武装してない、ほむら。俺に合わせた、俺だけの都合が良いほむらじゃなかったけど。酷い言葉もいっぱい飛んできたけど。情けなくてカッコ悪くて、愛に餓えてる獣みたいで。
 全部曝け出してるように見えて、自分のウィークグポイントを見せてこなかった男だったのに。産まれたてのほむらって感じがした。あの日、初めて、ほむらを見ることが出来た。だから、一度、別れて良かった。
 ほむらも、俺も他と違って可笑しい。今でもほむらは変だなって思う時はあるけど、もっと変なほむらを隠さず俺に見せてくれたらいいのに。
 ほむらの中に潜んでいる狂気を覗いてみたい。
 けど、それを言うと「君の人生は終わるよ」って色んな人に忠告された。碧子さんとか、金ちゃんとか。菫くんも白虎くんもアナスタシアさんにも。
 終わるんだろうか。始まるんじゃないだろうか。そんな期待もある。
 人生って多分、陸上のこと。俺にはそれしかないから。俺にとって価値があるものは、それくらいだし。
 陸上は好きだ。いつか、飯沼祐樹選手みたいな、幸福で強い人間のなるのが俺の夢で希望だったから。陸上で成績を残せさえすれば俺に関心がなかった両親も、俺のことを愛してくれると思っていたから。
 けど、ほむらは別に良いんだって。陸上で有名にならなくても。愛情とは関係ないって。怒鳴って教えてくれた。
 あの時のほむらの顔、息遣い、今にも俺を殴りそうな手が忘れられない。
 きっとあの時、本当にほむらのこと好きになった。愛してもらうなら両親なんかよりも、この男が良いって思った。
 だから別に良いんだ。
 そういうと、今まで俺が陸上出来るように支えてくれてお金を出してくれた人たちには申し訳ないなって思うけど、彼らに対して結果を残したいという気持ちも当然あるけれど。俺だって今まで自分が努力してきたことに対して、純粋に結果を出したいという気持ちがないわけじゃないけど(走るのは好きだし)
 もし、ほむらが終わらせたいって思うなら、陸上人生を閉じてもいい。
 静かに閉幕して、変わりに見たことないほむらの世界を覗いてみたい。
 
 
「ほむら」
 早く会いたくて名前が思わず零れた。ほむらがいない時間は酷く退屈に世界が映る。何時ぐらいだろう、帰ってくるの。俺がいると思わないから驚くかも知れない。
 今日は怪我してないといいけど。肉体労働させられて汗いっぱい掻いてるくらいだったら良いのに。
 なんだか、そういう仕事を押し付けられるときもあるみたいで、前回は「山に連れていかれてな、死ぬほど穴掘らされてん。いや、俺が埋められるんちゃうかって思って、佐治組がサンリオやったんは嘘やったんかって笑ってたんやけど、なんや、アイツらなにも埋めんと掘らすだけ掘らせよってん。終わったあと、え、いじめ? 虐待? 酷過ぎひんか? って白虎クン茶化したったら、涼しい顔で、一つくらい貴方専用に埋めましょうかって言ってきて、こわって思わず声でたわ」って、そんなこと言ってた。
 穴を掘るくらいなら俺も手伝うのに……って思ったし、なんのための穴なのか気になったな。獣害対策とかなんだろうか。けど、あの時は汗はいっぱいかいてて次の日筋肉痛になってたみたいだけど、元気そうだったから。今日も出来たら、そういう仕事だったらいいな。
 怪我して帰ってくるときは、よく頭から血を流してるし、お腹にも切り傷みたいのがあって、抱きしめると痛そうに顔を歪めるから抱きしめ辛い。遠慮してると、構わずほむらの方から抱き寄せてくるけど、ほむらが痛いのは嫌だから。
 それに、血だらけのほむらは少し怖い。嫌ってわけじゃないし、寧ろ嬉しいところもあるんだけど、興奮しているのか、いつもより所作が激しい。
 ドアを閉める音だって、ばぁんって大きな音が鳴るし、足音だってドカドカと激しい。俺を抱きしめる力もいつもより強くて、早く手当てしないといけないので押し返すと、睨みつけるかのように覗き込んでくる。まるで、何かと戦っているみたいに。そういう時、恐ろしさを感じる。防衛本能みたいのが無意識に働くんだろう。
 手当てしたい俺と、俺を抱き潰したいほむらとの攻防は少しだけ続く。
 俺も男だから本気で抵抗したら少しばかりは持ち堪えることが出来るけど、最終的には押し倒されるし、噛むみたいなキスされる。ほむらの口は大きいから、遠慮なくキスされると、俺の唇を全部覆ってしまうし、迫られたときはまるで本当に丸呑みされるんじゃないだろうかって錯覚に陥る。
「怪我は心配だけど、あの時のキスは好きだな」
 理性が飛ぶ一つ前みたいなキス。本当に理性が飛んでるときは、俺も正直、記憶が殆ど残らないくらい抱き潰される。
 次の日に立てないのと、せっかくのほむらとのセックスの記憶が朧気になるので、昨日は激しかったんだと分かるレベルの抱き方をされる。覚えているのは、死ぬほど辛かったこと、死んじゃうって何度も叫ぶと、喉がガラガラになる。死ぬっていうとほむらのペニスが大きくなるので、さらに辛いってこと。
 怪我で興奮してるときはそういうんじゃなくて、理性は頭の片隅に残ってるんだけど、ストッパーの判断基準が馬鹿になってるみたいな、そういう触れ合いだ。ちょっと強引だ。俺も記憶に残るし、ほむらが俺の奥まで入ってくるセックスになるので、一番好きなセックスなのかも知れない。
 思い出してきたら後ろが疼いてきたので、下半身へと手を伸ばした。
 せめて寝室にいかないと――と頭の片隅で自分が語り掛けるが、構わず制服のベルトを緩めた。オフィーリアの制服を入学当初はこんな脱ぎ方するなんて想像してなかった。お金持ちが通う高校特融の高い生地で作られた制服。特待生じゃなかったら一生着ることがなかったんだろうなって、腕を通した瞬間おもった着心地の良さ。身が引き締まる背筋が伸びるって思ってたはずなのに、今では、すっかり草臥れている。
 ズボンのファスナーを降ろし、下着の中へと手を入れる。少しだけ膨れ上がったペニスが顔を出し、ゆっくりと指先で触れた。
 気持ちの良い自慰のやり方も知らなかったから、付き合い始めたばかりのころ、ほむらが教えてくれたことを思い出した。ほむらは手も俺より大きくて、俺のペニスを覆ってしまった。俺はそれが妙に恥ずかしくて、首を振った。
『なんや、白銀。恥ずかしいんか』
 後ろからそんな風に囁かれた。笑ってるみたいな声で馬鹿にされてるみたいにも聞こえた。俺は搾り取るような声で「違う」って答えた。けど、ほむらは笑い声と一緒に手のひらを上下させた。それだけの刺激が気持ち良くて、身体の奥底からじわじわと電流みたいなのが込み上げてきた。
 あの時、恥かしそうな仕草を見せたのは、なんだか自分のペニスが小さく見えたからだ。のちにほむらの手が大きかっただけって気づいたけど。男として小さいことが恥ずかしかっただけだ。
 けどほむらはそんなこと知らないから、俺が羞恥で震えていると決めつけて、大きく手を動かした。
 慣れた手つき。全然痛くなくて、乱雑に動かしているように見えるのに、滑りが良くなってきたら、亀頭の先に指先を引っ掛けてみたり、嫌だと叫んだら裏筋を必要に攻めてみたり。気持ち良くて馬鹿になりそうだった。
 自慰だってまともにしたことがないのに、と睨んだ。睨むとほむらはご機嫌そうに笑った。
『オンナより気持ち良いとこ教えたろ思ったけど、そうかオナニーもまともに出来んのか白銀は』
 顔もぐちゃぐちゃになった俺は涙流しながら大きく頷いた。だってこんな気持ち良いことをオナニーというなら、俺は一度もオナニーしたことがないって思ったんだ。頷く俺をみて、ほむらは上機嫌でキスしてきた。眼鏡を外されて床に投げ捨てられて。視界がうまく映らなくなった世界でほむらだけがはっきりと描写された。
「っ――んぁ、きもち、いい」
 気持ち良かったほむらとのセックスが頭の中で繰り広げられる。カウパーが亀頭から漏れ出してきた。裏筋を擦るのをやめて指先を尿道口にいれる。ちょっと快楽を我慢させながら、もう片方の手を睾丸に近づけた。あまり強く握り過ぎると痛いけど、そう撫でるくらいなら、ものすごく気持ち良い。これも、ほむらが教えてくれた。
 俺はオナニーがやっぱり上手くなかったみたいで、一度、ほむらの前で『オナニーみせてぇな[V:九八二五]』と言われたので披露してみせたけど『スポーツマンのセックスって下手なんかなぁ』と言われて手ほどきを受けた。スポーツマン、下手なんだろうか。ただ単に俺が下手くそなだけもするけど。ほんとうはもっと、ほむらにも気持ち良くなって欲しいから、ペニスの咥え方とか愛撫の仕方とかも覚えたいし、キス一つで気持ち良いって言わせてみせたいけど、どうにも上手くいった試しがない(何度かチャレンジはしている)
「ぁ、っ――ん、ぁ、ぁ」
 今もそんなに上手くないけど、自分を満足させる程度の技術は手に入れた。教えてもらったおかげで自分の体のどこが弱いかも知っている。
「ほむら、ほむら、ほむらっ」
 射精するとき、ほむらの名前を呼んでしまうのは癖みたいなものだ。もしかしたら初めにそうほむらに教えてもらったのかも知れないけど。
 宙に上げられた足が硬直するかのように反り返った。思わず名前を呼ぶ声が大きくなって、ペニスをいじる指が早くなる。
「あ、あっ――、ぁ、あっっほむら、ほむらぁ」
 どぴゅっと精液が飛び出した。あ、早くティッシュかなにかで拭かないと――と思うのに、これだけじゃ満足できなくなった身体は、制服が汚れるのなんてお構いなしにズボンと下着をずり降ろした。
 仰向けに寝ていた姿勢から、うつ伏せに代わる。
 クッションに顔を埋めて、高くお尻を上げて、なんとか手のひらに残っていた精液を潤滑油変わりに後穴へと指先を押し付けた。
 ぷつりと指先がお尻の中へと入っていく。こんなところをセックスで使うなんて知らなかった俺はもういない。結構昔にさよならした。今では一番気持ち良くなれる場所かも知れない。襞を広げるようにくるくると指先をかき回す。ほむらの大きなペニスを毎日受け入れている場所なのに、一人でするときは簡単に緩くならない。鍛えているから締まりがいつまで経ってもキツいままなのだとほむらは言っていた。もう少し、緩くなってくれた方が俺としては都合は良いんだけど。
「んっ――」
 少し広がってきたから、もう一本入れようとしたが、指先だけしか入らなかった。第二関節のところで邪魔をして、奥の方まで入れることが出来ない。滑りが足りないのだろうかと、唾液を指先に纏わせてもう一度、入り口付近まで持っていく。だが、指先はスムーズに入るがやはり奥底まで突き立てることは出来なかった。
「ほむっらぁ、なんで、だっ」
 ほむらがしてくれる時はもっと簡単に解れていくのに。何が足りないんだろうか。ちゃんとローションを使うべきなのか一瞬、思案したけれど、先に射精させられていたらそれを潤滑油にしてほむらの指が三本入ることを俺は知っていた。ほむらの指は俺より大きい。三本なんて普通の男のペニスくらいの大きさはあるのに。
「もっと、奥に、ほしい……」
 足りない、足りないと、頭を振る。もっと奥底を大きなもので突いて欲しくて、もどかしい。一層のこと無理やり推し進めてしまえばいいのではないだろうか? と思い、再び自分の指先を丁寧に舐めて、勢い良く入れてみた。鈍い音を立てて、指先がアナルの中へと沈んでいく。襞が強制的に広がって張り詰めて、破れてしまいそうな音がして、先ほどより深く沈めることが出来たが気持ち良さとは無縁の感情が沸き上がった。
「ほむっほむらぁっなんで、なん、で」
 だって、いつもはこんなことにならないのに。ここにはいない、ほむらへの愛おしさだけが募った。早く帰ってきて欲しくて名前を呼んでします。クッションが濡れているのが分かって、愚図りだすように自分が涙を垂れ流していることをしった。恥ずかしい、オナニーを勝手に始めただけなのに、泣いてしまうなんて。
 頭の中で冷静になれって言っている自分がいるのに、強引に動かす手が止まらなくて、それでも快楽を求めて、絨毯にペニスを押し付けて腰を振った。ペニスに与えられる刺激は求めていたものと違うけど、痛みしか与えられないアナルへの刺激より、俺を満足させた。
 絨毯のザラザラした面にペニスの先っぽが振れると気持ちい。むず痒い刺激が与えられて、腰を振るのを激しくしたら、絨毯のチクチクがさらに深くペニスに食い込む。
「はぁっ、あ、ぁ、ほむ、ほむらっ」
 あ、この絨毯、高いんだろうな。ほむらが選んだものだし。ぜんぜん、毛羽立たなかったし、模様もなんか独特だし。絨毯って洗えるのかな。俺、洗ったことないからわからないや。実家には絨毯なんて立派なもの敷かれていたことないし。
 もしかしたら、明日の朝、起きてきたらほむらの手によって捨てられるかも知れない。お気に入りでもいらないって思ったら平気な顔で捨てるような男だから。そしたら、新しい絨毯は、俺と一緒に選んだものにして欲しいな。買い物一緒に行こうって誘ったら付き合ってくれるだろうか。絨毯ってやっぱり家具屋さんで見るのかな。ニトリとかイケアとか、そういう所でほむらが絨毯買ってるイメージがまるでないんだけど、連れて行ってくれるんだろうか。
「ほむら、ほむらぁ、あ、ぁっ」
 絶頂が近い。望んでいた形じゃなかったけど、この際、気持ち良くなれたらなんでも良くなってきた。
 腰を振る速度が速まる。アナルに突っ込んだ指は未だにきちんと役割を果たしてくれていないけれど、ペニスへの刺激があるお陰でなんとか射精まで持っていけた。はやく射精して楽になりたい。楽になった後、制液まみれのリビングの説明をどうするか考えよう。
「あぁ、ほむら、ほむら、ほむらっ」
 イく。もうイける。やっとイける。アナルをいじるなんて考えるんじゃなかった。まだ一人でアナルをいじるやり方はほむらに教えてもらってないから。だから上手に出来なかったんだと、後悔しながらも、ようやく解放される気持ち良さに酔ってしまいそうだ。
 射精するときの気持ち良さって何度経験しても慣れない。きっと、みんな慣れないからセックスをしたがるんだろうなぁっていうのが良くわかる。熟せば熟すほど病みつきになっていくようなそんな感覚。
「ほむら、あぁ、ぁあ「ほむらやで」
 イくって時に背後から声をかけられた。
 びっくりした、オナニーに夢中になって近づいてくるほむらにまるで気づかなかったから。まるで、音もなく現れたみたい。びっくりして、出かかってた精液がちょっと引っ込んだし、アナルに突っ込んでいた指はほむらの手によって引き離されてしまった。
 背後にほむらがいる。抱きしめられているわけじゃないけど、身体を全部覆われている。俺の身体はうつ伏せの状態で、ほむらの中に全部収納されてしまった。
 首筋にねちょっとした生温かいものが振れる。ゆっくり舐められる、舌だ。多分、汗を舐められたんだろう。そのままほむらは首筋に犬歯を突き立てた。噛まれるって思ったけど、ゆっくり引っ掻くように肌を弾かれただけだった。
「なんや、帰ってきたらえらい可愛いことなっとるやん。白銀、今日は寮に帰らへんかったんやな」
 耳元で囁かれる。顔が見れないから、どんな顔して喋ってるか分からないから怖い。
 もしかして、来ちゃダメだったんだろうか。迷惑だったんだろうか。いや、冷静に考えてみて留守中勝手に上がりこまれてオナニーされてたらどんなホラー映画より怖いかも知れない。
 血の気が一気に引いて、あ、謝らなきゃいけないかも、って怖くて、身体が震えた。
 ごめんって謝罪しなきゃいけないのに、クッションに顔を押し付けて、泣き出してしまった。
「泣いてるんか、可愛い、可愛いなぁ。イけへんかったんが、嫌やったんか。ごめんなぁ。帰ってきたら俺の名前呼んで白銀がオナニーしてるんやもん。見守ろうって一瞬は思ってん。ちゃんと射精してから声かけようって。けど、無理やった。気づいたら飛び出してたし、はよお前の中に入りとうてたまらんくなった。見守るってアホや。なんで、そんなこと考えられたんやろ。そんなん、我慢できるか? 無理やろ。あ――そうや、無理や、無理やで白銀」
 いっぱい喋ってる。
 大丈夫かも。
 怒ってるわけじゃないかも知れない。ほむらは興奮すると良く喋るから。本当に怒ってるときは一瞬、無言になるから。今は怒ってないかもしれない。
 クッションから顔を離す。身体を捻ってほむらの顔を覗き込んだ。
 なんだ、はやく顔を見れば不安になることなんてなかったのに。
 俺の頬に血が垂れた。ほむらの血じゃない。多分返り血かな。掠り傷はあるけど、垂れ流すような大きな怪我をしているようには見えなかったけど、頭は誰かの血を思いっきり浴びたのだろうか。真っ黒な髪は真っ赤に染まっていたし、興奮しきった顔がこちらを見ていた。
 俺は体制をかえてほむらの顔をちゃんと真正面から見た。一応、怪我がないか確認したくて頭をぺたぺたと触る。ほむらは少し擽ったそうに眉をしかめて、頭に怪我してないことが分かった俺は上機嫌に笑みを浮かべた。
「怪我してない」
「さっきまで泣いてたのに、もう笑ってんのか。せやで、俺のやない。どっかのおっさんの血やから安心してなぁ。ちょっと派手に小衝いてもうたら、沢山血吹き出しよって。いやぁ、首と頭は切り離したらやっぱりすごい噴き出るなぁ」
「帰ってくるまでに目立ちそう」
「そこは流石に、佐治組が送迎してくれたで。どうせやったらシャワーでも浴びせてくれたら良いのに。アイツら組長にはこんな殺ししてんのナイショなんや。馬鹿やなぁ。組長にナイショにしてる仕事、俺なんかに振って。いつかおもろいタイミングで暴露したろっかなぁ」
「怪我してないなら、それで良い」
「切り傷やけどしてるで。ほら、見てみい」
 腕を自慢げに見せられた。返り血だらけで、どこがほむらの傷なのか分からない。触れると、ぐちゅっと肉の中に指先が沈むところがあったので、ここだろう。思ったより深い傷。刀で切り付けられたみたいな傷跡。もしかして、自分でつけたのかコイツって顔で睨んだら、ほむらは、へらっとバレてもた? って悪戯が成功した子供みたいな顔で笑った。
「一応作戦があってそれ通りに動かなあかんかったんやけど、我慢できひぃんくて、佐治組の構成員切り刻んだらおもろいやろなって刀動かしたら、あのお人形さんにバレてもて、自分の腕に刀突き刺さりよってん」
「これ、手当しなくて大丈夫なのか?」
「ん――どやろ。後で縫っとくけど、血は筋肉のお陰で止まってるし大丈夫なんちゃう。それより、もう、焦らすなよ。さっきも、言ったやろ。我慢できひん。あんなん見せられたら、手当なんて後回しでいいんよ」
 それで死んだら悲しいって言おうとしたのに、言葉はほむらの口で塞がれてしまった。そっか、興奮してるんだった。多分、今日のセックスはとっても激しい物になりそう。
 
 
 
 
 
 
 
「ぐっ――ぁあ、っ、あ、ぐっ、げっ」
 大きなものが押し付けられた。思わず変な声が漏れる。先ほどは濡らしても自分の指を受け入れなかったアナルはほむのペニスを飲み込んだ。
 いつもは沢山解されたあとに挿入されるのだが、今日は待てなかったのだろう。話が終わるとすぐにほむらはベルトの金具を鳴らし、ズボンの中からペニスを取り出した。うつ伏せで寝ていて良かった。仰向けで寝ていたらきっと正常位で犯されていた筈だ。流石に後ろからでないと、翌朝死んでいただろう。
 自分でオナニーしていたとは言え、まだ十分に解されていないアナルに挿れらたので、肌がピキピキと裂ける音が聞こえた。どこから持ってきたのか、ローションを大量にぶちまけられ滑りは十分な筈なのに、何度ほむらのものを受け入れても翌日には萎んでしまうアナルの中を、強引にほむらは侵入してきた。
 痛い。皮膚を切り裂かれる感覚だ。けど、悪くない。ほむらのものが自分の中に入ってくる感覚。自分のすべてをほむらに一任するかのような錯覚を得ることが出来る。
「はぁっ――あ――どうするや白銀。しんどいか?」
「っ――ふっ、ふっぁ」
「わかるか? まだ半分くらいしか入ってないんや」
 ほむらはそう言って俺の手を掴んで、自身のペニスに触れさせた。結構、強引に挿入してきたのに、焦らすように問いかけられた。多分、俺が変な声を出したから、興奮していた頭に正気が戻ってきたんだろう。触れたほむらのペニスはすごく膨れ上がっていて、俺のローションと血液でぬるぬるになったアナルの中に確かに入っていた。境目を指先で回すように撫でる。あ、確かにまだ全部入ってない。
 半分くらいでもかなりの質量だ。普段はここで止めることが多いけど、俺はほむらが欲しくて首を横に振った。止めないで、の合図。
「欲しいんか? そしたら、浅いところで白銀の好きなところで先に気持ちようなろか」
「あ、っひゃぁ、ひ、あ、ぁ、そこ、そこ、イヤ」
「嫌やないやろ。好きなん知ってんねんで。俺が教えたったんやろ」
 ペニスを触らせていた俺の手を掴んで退かし、自分が動きやすいように、俺の腰骨を両手で掴んだ。ゆっくりと、ほむらの腰が揺れる。入口の所にある、気持ち良く簡単になってしまう場所をほむらのペニスの先端が掠った。オナニーするときは探そうとしても見つからなかったのに、ほむらは慣れた手つきで簡単に俺が気持ち良くなる場所をつつく。
「あぁっ、っ――ひ、いあ、やっ」
「いきなり気持ちよくなってびっくりしたんか。可愛いなぁ、ほんま」
「ふっ、ちが、やっ――ひゃぁっ」
 小刻みに突かれる。身体が揺れるような振動は休みなく、快楽だけを与えた。それでも決定打には欠けるから、気持ち良さだけが溢れかえる。
「あぁ、あ、ほむらっほむらっ」
「あ――気持ち良くなってんねんな。よかった、よかった。ほら、白銀のも元気になってきとるわ」
 宙ぶらりんの状態だった俺のペニスにほむらの手が触れた。我慢汁をだらだら垂れ流して、すっかり興奮したのか勃起したペニスは触れられるだけで射精してしまいそうだった。ほむらが来る前に一度抜いてなかったらきっともう白濁をまき散らしていただろう。
「前、前もさわっ、ひっあぁ、一緒っ」
「ペニスも持って触れて欲しいんか?」
「ちがっ――っあぁ、あ、ひっ――」
 後ろの気持ち良い所を小刻みに突かれて、ペニスの裏側を撫でられて、気持ち良いだけが頭の中を支配する。どっちかだけにして! って主張したけど、ほむらは楽しそうに声を漏らして、動きを速めただけだった。
「ひっ――あぁ、あ、ほむら、ほむら、っあぁ、せめて、イかせてっくれっ」
 一度射精させて欲しい。もどかしい。イくイかないの寸前で止められている感覚がする。ほむらはきっとわざとそうしてるから、俺には物足りない。縋るように腰を掴んでいたほむらの服を引っ張った。
「せやなぁ、イっても良いけど、白銀二回目やろ。このあと、しんどいと思うで」
「っ――あぁ、っひ、あぁ」
「あら、お返事できません?」
 返事してほしかったら腰を動かすのをやめて欲しいとさらに強く服を引っ張ったが、いたずらに腰を振る動きを変えられただけだった。いじわるだ。
「しゃ――ないなぁ。ほら、白銀イけや」
 少しもどかしいような快楽が続いたかと思うと、こちらの気持ちを見透かされたのか、ゆっくりアナルの入り口付近までペニスを戻されて、ずとんっと奥まで挿入された。あ、やばい、駄目、駄目だ。勢いが良すぎるから、入っちゃダメなところまで、来ちゃった、気がする。
「ひっ――ぐあぁ、ぁあっ――」
「はは、奥まで入れただけやのに、派手に出したなぁ」
「ひ、っぐっ、っぁ、がっ、死ぬ、死ぬ死ぬっ――」
「なんや、ほんまに死にそうな声だすなぁ。あ――かわいい」
「や、あ、ぁ、死ぬっほむら、ほむら、いぁ、助けて、助けて」
「助けたりたいけど、イきたい言うたの白銀やろ。今日は我慢しいひんでって分かってたやろに」
「は、あぁ、やあ、ぁ、そこ、や、や、死んじゃう、死んじゃう」
 こじ開けられる。滅多に入ってこない場所に。直腸を通過して、その部屋の入口みたいなところを突かれて、駄目って言ってるのに、ほむらは腰を振るのを止めない。むしろ、勢いに合わせて、無理やりこじ開けてくる。
 俺の中の一番深いところにほむらのペニスが来ちゃってる。そこ入れられると、頭の中分からなくなる。もっと、そこに入れて欲しくて、けど、駄目だって本能が訴えてきている。
「あ――全部入ったで。ほら、わかるか白銀?」
「ひっぁ、や、ぐっ――触れるな! 触れんなよ!!」
「キれんなや。かわいい。かわいい」
 お腹を撫でられて叫ぶように拒絶した。ぼこっと膨らんでる。ほむらのペニスの形が浮かんでる。信じられないくらい奥にほむらのがある。俺の腹は鍛えてるから、形が浮き出るほど薄くないはずなのに、それでもほむらのペニスの形が分かる。
 ほむらは腰を振る動きをやめた。ゆっくりと、俺の中にいることを堪能するかのように、肌を寄せ合い、浮き出たそれを、丁寧に撫でた。嫌だったので叫んでも、撫で続けた。なにが目的かわからないし、死ぬほど気持ち良くて、頭の中どうにかなりそうなのに、激しい動きが与えられず物足りない。
「ひっ。は? なに?」
 撫でながら、ほむらは俺の首を甘く噛んだ。突然のことだったので、びっくりした。けど、ほむらは俺の首を噛むの好きだから珍しいことではない。俺からは見えないけど結構強めの歯形が残っていることがあるらしく、陸上部の仲間から心配されることも多々ある。
「なんで噛むの?」
「なんでやろうなぁ。白銀が美味しいからちゃう?」
「噛んでもいいけど、動けよぉ!」
「ペニス結腸に突っ込まれただけの刺激じゃ足りんか」
「っ!! わかってる、くせ、に!!」
「うん、知っとるで。けど、あんま早く動くと白銀の身体に悪いしなぁ。それにこの時間も好きやで。白銀のことぜんぶ、俺が食べてるみたいやん」
「そんなの、俺も思ってる。セックスしてると、ほむらで全部埋まる」
「俺に全部食べられてる思てるの? ひ、は、あ――あかん、変な声出てもうた。それどっかで習ってきたん?」
「どこで習ってもない」
「知ってる。言うてみただけや」
 なぜか勝手に上機嫌になってくれた。ほむらは何度も俺の背中に噛みつきながら、俺の体がほむらの形に変わるのを確認したいた。
 じれったい。確かに幸福なんだけど、もっと早くわかりやすく白黒つけてほしくて、つい、無意識に腰を振ってしまった。少し動くだけで強烈な刺激が飛んでくる。思わず「ひぐっ」って変な声が漏れた。
「ほむらっ!  ぎ、ひっ、ひ、や、もう、や!!」
「自分で腰降り始めよった。そんなにイきたいんか」
「そう言ってる!!」
「しゃ――ないな。白銀の頼みやし、確かにそろそろ良いやろ。安心し、白目向いても犯し続けたるさかい」
 この言葉がきっかけだった。ほむらは先ほどまでの緩やかな動きは忘れ去ったというように、激しく俺に腰を打ち付けた。結腸まで入っていたペニスが入り口付近まで抜かれたかと思うと、まるで劈くように一気に奥底まで入り込む。
「ひっはぁ、あ、ぁ」
「あ――たまらん」
「ひっ、あぁ、ぁ、ぁ」
 入ってきたかと思うと、まるで中を苛め抜くことを決めたかのような、いやらしい動きをした。打ち付けながら、円を描くかのように腰を振って少し焦らしたかと思うと、俺の気持ち良いところだけを狙って激しく打ち付けた。
「あはっ、あぁ、ほむら、ほむら」
「あ――よだれ垂れてきたなぁ」
 ほむらはそう言って喘ぐ俺の顎に手を伸ばした。口角からよだれがだらだら垂れているのが自分でもわかる。そんなものを制御している余裕がない。
「うぐっ、あぁ、ひや、ひっはんな」
「舌引っ張んなって? けど、ここも好きやろ?」
「こ、ぁあぁ、ぐっ」
 腰降りながら、舌先を指でつままれた。そのまま手を口内に突っ込まで、上の歯の裏側を触られる。好きなところだ。ほむらも知ってる。ほむらが教えてくれた。
「あ――あかん、やっぱりキスしたいわ。白銀、ちょっとこっち向いてな」
「―――!! っ、はぁぁっ」
 キスしたくて、顔近づけたから、その分、体の距離が縮んでさらにペニスが奥まできたような、そんな刺激が与えられた。ほむらは強引に俺を振り向かせて、顔を近づけてキスしてきた。後ろから抱かれながらキスされるのは、普通にしんどい。俺の身体が柔らかいのと、ほむらが規格外に大きいから出来るけど、キスするなら身体ごとほむらの方を向かせてほしい。当然、ペニスが入った状態でそれやられたら死ぬけど。
「っ――んっ――ん!!」
 キスされた口が熱い。俺の中が熱いのかほむらのが熱いのか分からないけど、喘ぎ声を封じられて快楽だけが高まって、頭が爆発しそうになる。
 ほむらはキスしながらも腰を振るのをやめない。まるで人間止めちゃったみたいな無茶苦茶な体位。セックスってすごいってほむらと交わるたびに思う。快楽の為には人間どこまでも貪欲になれる。
 かすかに残る理性で、ほむらの顔をみた。セックスの時、キスされるのは辛いけど、ほむらの顔、見れるのはやっぱり好き。頭から返り血で真っ赤に染まってるけど、ほむら、気持ち良いんだってことがわかる顔してる。
 必死で腰降っているほむらは、すごく可愛くていい。俺のこともっともっと好きになってくれたらいいのに。俺がほむらにもらってる気持ち良いと同じくらいの快楽をほむらに返さたらいいなって思う。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「起きた」
 気づけばベッドの上だった。あれからほむらと何度かセックスして途中から記憶がない。抱き潰されたんだと思う。額に手をあて熱が出てないことを確認した。あまりに激しく抱かれると発熱するときがある。看病してもらうの嫌いじゃないから、熱が出るのは別に良いんだけど、これがなければもっと気軽にほむらに激しく抱いてもらえるのかなって思う時もある。体力の問題なんだろうか。
 ベッドから起き上がろうと身体を起こした。腰に鈍い痛みを感じる。労わるように、ゆっくり身体を動かして、足をベッドから降ろした。どこが痛いとかじゃなくて身体を覆うような倦怠感が付きまとっている。痛みは思っていたよりかはない。立ち上がれそう。
「よし」
 覚悟を決めて腰を浮かしたけど、その瞬間、ズキンという激痛が走り、あ、無理だった……と頭からベッドに倒れ込んだ。逆戻りだ。ほむらのベッドが柔らかくて良かった。
「は、白銀!?」
「……ほむら、無理だった」
「いや、そりゃ無理やろ。昨日、結構激し目に抱いたし。なんで立ち上がろうと思ったん」
「いける、って思った」
「ちょっとアホやな。そういう所も好きやけど。少なくともまだ寝ときいや」
「うん」
 倒れ込んだ瞬間部屋の中に入ってきたほむらは、少し焦ったような声で俺の名前を呼んだ。心配なのか、俺をベッドに戻して布団を整えて、布団の上から俺のお腹をぽんぽんと叩いた。看病されてる。
「食欲はあるか?」
「ある。お腹減った。おにぎり食べたい」
「そういう思うて、買ってきといたで」
「ありがと……ほむら、傷大丈夫?」
 昨日、自分の刀で出来たっていう傷。結構、深かった。ほむらの腕には大き目のキズパワーパッドは貼られているけど、それだけで済む傷には見えなかったんだが。
「あ――掠り傷やで」
「……うそ?」
「ほんまや、ほんま。傷の治り早いからな。綺麗な日本刀でサクっといった傷やから、そんな気にせんでええ」
「縫うのかと思って」
「縫うほどやあらへんで。触ってみるか?」
「いい。大丈夫ならそれでいいんだ」
 まぁ、あれほど激しいセックスをしたあとなので、そこまで重症じゃないとは思っていたけれど、ほむらなら興奮したら致命傷レベルの傷を負っていても、セックスを優先するときがあるかも知れないから。そのときはちゃんと、止められるようになってないと。
「あ――あ、ん、ん……」
「どうかしたのか?」
 ほむらが突然変な声を上げた。少し照れているみたいに顔が赤く染まっている。ほむらは稀にこんな風に可愛い顔を見せる。一度別れて付き合うようになってからは、結構な頻度で。
「いや、心配してくれてんねんなぁ?」
「そうだ」
「ふ、いや、なんでもないで。ただ、頭から返り血浴びてきたことはなんも追及せんと、俺のこんなしょ――もない傷のこと心配してるのがおもろくて」
「? 当たり前じゃないか。返り血は人の血だろ」
「ん――そういうところやなぁ」
「? 良くわからないけど、ほむらのことが好きだから、ほむらのことだけが心配なんだ」
「うう。勘弁しろ。今は抱けへんねんで」
 確かに今抱かれると確実に腰が死ぬ。けどほむらが抱きたいならいいよって思ったので、腕を伸ばしてキスをせがんでみたけれど、返ってきたのは啄むような軽いキスだけだった。
 ほむらがなにを驚いているかわからないけど、俺にとって一番大事なのはほむらなんだから、当たり前の反応じゃないのかな。
 ほむらが、世間一般的に道徳に反する行為をしていることは、流石の俺でも理解できる。ほむらのせいで、人生が無茶苦茶になったって人はきっと、俺が思っている以上に多くいるだろう。
 その人たちのことを思って胸が痛まないわけじゃない。誰にだって虐げられたりすることは、心を裂くように痛いことだし、そういう人たちがほむらのことを恨んだり憎んだりする気持ちも分からなくはない。逆に鮮烈なほどにほむらに惹かれる気持ちも。
 けど胸が痛むからってほむらの行為を邪魔する理由にはならない。
 俺、自分勝手に行動するほむらが好きだよ。他人から見ても、俺から見ても、よくわからない行動だけど、たぶん、ほむらの中にはほむらなりの道理があって動いてるんだろうし。ほむらが幸せならそれでいいんだよ。
 もちろん、俺のこと好きでいてくれること前提の話だけど。俺の全部はほむらにあげるから、ほむらの全部を俺はもらうんだ。全部貰うから、ほむらが誰かに恨まれたり憎まれたりしても、そういうのも全部、一緒になって引き受けたいなって思ってる。
「ほむら、大好き」
「今は抱けへんって分かってて言ってるやろ」
「どうだろうか。抱いてもいいよ」
「いや、今日は我慢するわ。多分自分が思てるより、腰にダメージきてるで。熱でてないの奇跡みたいなもんやろ」
「昨日は我慢してなかった。俺も、だけど」
「そやな。なんでオナニーしてたん」
「ほむらがいなくて寂しかったから。つい……あ、絨毯どうなった?」
「え、捨てた」
「やっぱり。あの絨毯ってどこで買ったんだ」
「どこやったっけ。忘れたわ。それより、絨毯えらい気にするやん」
「今度のは一緒に選ばせて」
「ええで。どこにでも一緒に行こうな」
 ほむらはそう言って俺の頭を撫でた。すると、さっきは熱出てなかったのに、喋っていたら出てきたのか、ちょっと焦ったように、ほむらは手の動きを止めた。
 おでこに触れたほむらが少し大げさに「熱あるやん」って深刻な声で言って、冷えピタもってきたるなって優しい声でいうほむらを見て、俺は愛されてるのかもしれないと、嬉しい気持ちになってしまった。
 
 
 
 
 
 
 
 
           END














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