ポテトチップスを寝転びながら初は食べていた。ゲームを両手で握りしめながら、床に食べかすを落としている姿は休日といえ三十歳を超えた大人の姿には見えずスオウは溜息を吐き出した。自分で掃除するのであれば、好きなだけ散らかしても良いのだが、甘やかされて育てられてきた初は自分で散らかしたあとを掃除するということすら知らない。散らかしたものは散らかしっぱなし。脳内が五歳のまま停止しているのではないかとスオウは偶に疑うことすらある。これで、恋人である自分が掃除するの大好きだというような人間であれば良かったのだろうが、清潔感ある空間は好きだが掃除するのは面倒だという性質なので、散らかしっぱなしの初を見ていると本当に腹が立つのだ。 「も――初。掃除しなよ。俺はしないからね」 「はぁ? なんで初がそんなことしなくちゃいけないんだ。気になるならお前がやれ」 いつも通りの暴論にスオウは深いため息を吐き出した。もう少し若いころだったら躍起になり言い返していたが、数十年共にいると、言い合いをして負けるのは自分だと判っている。他のどんな奴にでも言い合いで負ける自信はないのだが、言葉が通じない「初は初のいうことのみを信じて生きている」という奴にはどう足掻いても勝てないのだと、最近になりようやく学んだ。学んだにも関わらず、小言を漏らしてしまうのは我慢の限界が日々来ているというのを、この恋人には察して欲しい所だが、どうやらそれは無理そうだ。 「と、いうかさっきから何のゲームしているの?」 「ん? お母さんが貸してくれた奴だぞ」 「なのそれ」 「男を誘惑していくゲーム。お前が普段しているゲームと逆だな」 なぜ密かに楽しんでいたギャルゲーのことを初が知っているのだろうかと顔が真っ赤になって恥ずかしくなる。別に初はそれについて咎めるつもりもなさそうだが。 まぁ、コイツがヤらせてくれなくてAVを居間で見ている所を見られた時だって「お前は虚しくないのか」なんてことを平気で言ってのけるような奴なのだから、今さら嫉妬とか、もう少し自分が構ってやるかとか、そういう気持ちになってくれると期待する方が間違っているのだ。 「で、どうしたスオウ」 「ん? なに」 「いや、なにか落ち込むことでもあったんだろうと思ってな。初がゲームしている最中に喋り掛けてくる方が珍しいだろう」 ぱたりとゲームを床において、面倒臭そうではあるが、のっそりと起き上がり抱きつかれた。落ち込むことがあったなどと、そんな素振りは一切見せていなかったし、初以外の人間に落ち込んでいるだろうと指摘されたことなどないのに、どうしてコイツには判ってしまい、こんな時だけ、妙に優しくしてくるのだろうか。 抱きつかれた手はポテトチップスの油でべちゃべちゃしていて、せっかく先日購入したばかりの服に油を擦りつけられ腹がたつのと同時に、かなわないなぁと大人しく与えられる体温に甘えた。 |