膝の上に顔をのせると桜のひんやりと冷たい肌が俺の頬っぺたとくっついて、一生このあたたかさから離れたくないと下唇を噛み締めた。絹のようになめらかな手のひらが俺の剛毛を撫でて「大丈夫よ」と言っている。低くもなく高くもない中性的な肉声が体中を巡る血液までじんわりと届いてこのまま瞼を閉じればもう寝てしまいそうだった。

先日、九条に無理やり抱かれた。昔、アレックス達に強姦されたビデオを脅しの材料として九条と恋人である次郎と3Pをしたいという中年の欲望を満たす為、恐喝され縄で縛られセックスした。桜とセックスするときは俺が常に抱く側であるから、肉棒を後孔へ受け入れるのは久しぶりで、九条の乾いた指先が下腹部へと侵入を果たそうとして「おや、堅いね」と言われたときは妙に恥ずかしかった。縛られてしまったとき、すでに抵抗する意思など俺には半分くらいしか残っていなかったけど、後で殺してやろうとか、そんなことばかり考えていた。ローションをたっぷりと塗られ、次郎とキスされ、九条はなぜかワインを俺の頭の上へとぶっかけて、収縮を繰り返す襞が随分柔らかくなった所で、九条の肉棒が俺の中へめりめりと音を出すように入ってきた。まるで太いウンコを出している時みたいに、強引な仕種に下手糞と俺を抱く九条に唾を吐き出したが髭を生やしたジジィは悦に浸り笑うだけだった。「下手糞と生意気な口を叩いていられるのも今だけだよ」なんて告げると、その言葉を実行すべく腰を動かした。何人もの男を抱いてきているだけあって九条はセックスだけは上手い。どこをどう突けば男が体を捩じらすかということを熟知していて、男から与えられる快楽をしっている俺はすっかり九条に踊らされることになった。
気持ちがいい快楽が全身を駆け巡る。挿入されている時は俺が突っ込んでいる時とは一味違った快楽があって別に脅されてレイプされているとはいえ気持ちがいいことには変わらない。頭が馬鹿になって。気持ちが良いことしか考えられなくなる時の感覚は人を殺している時に似ていて最高に気持ちが良い。次第に俺は手の拘束をとかれ、次郎の後孔に肉棒をつっこみ、逆に九条と次郎から二輪挿しされていたのだが、あんぁんぁんあん、と間抜けで阿呆な嬌声ばかりを漏らしていた。

その行為自体が恐ろしくなったのはすべてが終わってからだ。身体を綺麗にされ駅におろされた後に、桜にこのことがバレてしまったらどうしようと全身の汗腺からだらりだらりと体液が出てきて、視界がぐにゃりと歪んでいった。桜にバレてしまうとまず叱られるより怒られるより先にきっとアイツは悲しむだろう。悲しんでぼろぼろと涙を流して俺を責めるようにじっと見つめるのだ。悲しみの許容値を超えれば「一緒に死のうか」と言ってくるかも知れない。アレはそういう人間だ。
けど、それだったらまだいい。一緒に死ねるなら辛いのも悲しいのも全部忘れられるし、なにより俺の傍から桜がいなくなるわけではないのだから。
最悪のケースは桜が俺に対して「別れる」とか「嫌い」とか言って俺を否定して離れて言ってしまうことだ。もう俺は桜なしでは生きられない(だって桜に嫌われるということは、この世で俺を愛してくれる人が一人もいなくなってしまうということなのだ。俺が何をしても最終的に見捨てず許してくれた人間は桜以外いないのだから、桜に嫌われてしまえば俺は生きている意味はもうないだろうし、色々と人道的に許されないことをしてきた俺だけど、桜に否定されれば生きていることを拒絶されることと同意であるということになるのだろう)のに、嫌われたらどうすればいいのだろうか。
怖い。すべてがバレる前に、九条と次郎を殺すことはたやすいだろうけど、人をまた殺めてしまっても桜は俺から離れて行ってしまう気がする。だって、この間、ほんの五年くらい前まで桜の安全な生活を脅かす人を殺したり、俺の趣味で桜に似た小学生とかを殺してナイフで引き裂いて楽しんでいたけれど、アイツは止めろと言ってきたし、どうしてそんなことするの――と泣いていたり、俺の前から姿を消してしまったりした。あの時は本当に怖かった。桜が目の前からぷつりと消えてしまった。心臓を両手で鷲掴みにされた。生活できなくなった。だって桜は朝は俺を起こしにきてくれて、テーブルには朝食が既に作ってあって、仕事へ着ていくようのスーツはクリーニングにだされていて、ワイシャツとネクタイにはアイロンがかかっていた。髪の毛を後ろで整えてくれて「社会人っぽいね」なんて言ってくれて、それからお弁当と水筒を持たせてくれる。なんだったら歯磨きしなよと言ってくれる日もあった。ついでに会社まで雨の日なんかは車で送ってもらって、頑張ってね! という声をかけてくれて、帰る頃には出迎えがあって、お風呂も沸かしてあり、ご飯も出来ていて、家はいつも清潔が保たれていて、俺がセックスしたいときにさせれくれていたのだから。桜を奪われてしまったら、本当に生きていけなくなって。アイツが笑顔でやっていたことが、こんなに嫌なことだったんだってよく判ったし、こんなことを俺の為にしてくれる人がこの世から姿を消して、尚且つ、俺の弱音をすべて受け入れてくれる人がいないなんて、生きていけないと心底思った。
だから、レイプされた時より、桜に否定されたことを考えると恐ろしくて体がじわじわと震えだす。どうしようと考えているうちに扉の前まできていて、ノックするより先に桜が顔をだし「おかえりなさい」とにこやかに笑った。

ねぇ許してくれる? と首を傾げながらも、言い出せなくて、純粋に俺がもう「わるいことはしないハイネくん」なんて疑ってもない眼差しが眩しくて俺は玄関で桜を思いっきり抱きしめて「大丈夫、大丈夫ってして」なんて頼んだ。
自分を安心させたくてお願いしたのに、桜は頭を撫でて俺に愛を注いだ。

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