「最近欲しいものってある?」 誕生日プレゼントのリサーチのつもりでさりげなく尋ねる。天響くんは細く長い体を折り曲げるように俺の腕に収まりながらホットコーヒーを飲んでいた。胸に預けられる体温が心地良い。 暫く考え込んだ天響君は首を傾げながら、珈琲から口を離し上目づかいで俺を見てきた。凹凸のないのっぺりした凡庸な顔に雀斑がついていて、目は狐のように吊り上っているが俺からみれば可愛い。他の奴がこの可愛さに気付かないかとひやひやする。恋に落ちるのって顔だけじゃないからなぁ。顔だけ良い奴だったら腐るほどいるけど、結局、人間が惚れるのは中身なのだ。その点、天響くんは中身も良い子だから他の奴に惚れられるんじゃないかとひやひやする。自分の好きな子が他の奴に蔑ろにされるのも腹が立つし、どちからというと、持ち上げられチヤホヤされている方が良いけど、あくまで「俺の恋人である天響くん」を褒めるというスタンスでなければ許されない。まぁ、他の奴がどう言おうと天響くんが俺しか見ていないことは知っているけれど。自信とかじゃなくて、事実として。この子は俺以外を見ない。 「引かない?」 「引かないって」 引くわけがない。天響くんの言動に俺が引いたことって――まぁ、あったような気がするけれど、今は大丈夫だって。しかし、欲しいものあるんだな。俺の愛だったらもう上げているし。いったい、なにが欲しいんだろう。天響くんって特に趣味があるわけでもないし。家でもぼーと虚空を見つめていることが多い。それか掃除をしたり、料理をしたりもしているけれど、多分あれは、幼い頃から身体に刻み込まれた義務であって趣味ではない。無趣味――なんだと思う。あえて、趣味をあげるならきっと天響くんは「五十嵐くん」っていう。可愛い。 「子ども」 「え?」 「子どもが欲しい」 「は?」 「あ、引いた? 子どもが欲しいんだ」 「それは俺と天響くんのって意味」 「うん。それ以外の子どもならいらないよ」 さらりと、そんな台詞を天響くんは言ってのけた。 子どもか。子ども。俺もそろそろかなぁと思っていたけど、誕生日に子どもを強請られるとは想像していなかった。別に俺は良いよ。親というものに自分がきちんとなれるかはわからないけれど、少なくとも自分の親より立派な父親になる自信はあるし、天響くんと一緒だったら育てていけるだろう。俺が暴走しすぎたときに、横から冷静に水をぶっかけてくれるし。バランス良く育てていけると思うけれど。 誕生日ベイベ―ってなんか、子どもが気にしない? いや、天響くんは誕生日プレゼントのつもりで言っているわけじゃないから、その考えには至らないんだろうけど。俺は誕生日プレゼントのつもりで聞いているので、正直、微妙な心境だ。 子どもが欲しいと言ってくれた天響くんの言葉はとても嬉しい。嬉しくて、俺の恋人は俺のことが好き過ぎて可愛いってなるけれど、もし、子どもが大きくなって自分の誕生日から逆算した日がお母さんの誕生日だったってなるとすごく微妙な気持ちにならない。俺だったらなるし。現に俺は自分の誕生日逆算して「この親父、この日にヤってたのかよ」と想像してトイレに吐いたことがあるからな。 「五十嵐くん……――やっぱり、引いてる?」 「引いてない、引いてない。俺もそろそろかなぁ――って思ってた」 首をぶんぶん振ると天響くんは安堵したかのように笑った。俺としても胸を撫で下ろした。不安にさせるような表情を見せられると正直、焦る。天響くんは基本、俺のことが好きだし、基本、俺のことを中心でどうやら世界が廻っているようだし、あと、まぁ、認めたくない、けれど、俺より、その、精神が、多分、強い。心配性だし優しいところもあるし、責任をすぐ感じちゃうところとかあるけど、強い子なんだと思う。俺より。よほど。認めたくは微妙にないけど。強くて優しい子なんだ。それか、俺と付き合うようになって強くなったのか。どちらかは知らないけれど天響くんの強さで今の俺たちの関係は成り立ってきたところ、ある、ある、いや、俺も頑張ったけど、ある、から。 表情にだして不安そうな顔をすることの方が少ないのだ。基本、俺といると幸せそうだから。困った、どうしよう、不安だって顔されて泣きそうになられると少しだけ焦る。 「じゃ、じゃあ」 「けど、準備とかあるしさ」 「うん。だから、その準備とか始めたいんだけど」 「もちろん。産婦人科いって万全の体勢で子どもつくろう。天響くんに万が一のことがあったら大変だしさ」 「あ、そうだね」 よかった。不安そうな顔は消えたようだ。天響くんはにこやかにほほ笑んだ。 もう作る流れになっているけど、別にいいか。未来の子どもより今の天響くんを大切にしたいって俺は思ったわ。花梨のところとかも作ってるみたいだし。この間、満面の笑みで「子どもできたわ――」って言われた。花梨の知らないところで出来たみたいだから盟ちゃんが勝手に計画して産んだみたい。お前、知ってるか。男同士は生でしただけじゃ子どもは生まれないから準備とか必要なんだけど、お前、知ってたかって聞きたかった。盟ちゃんもしたたかに強い子だよな。昔は折れてしまいそうな所があったけど、社会人になってから図太くなったというか、段々「この子が会社継ぐんだろうなぁ」っていうオーラが出てきた。 「あ、そうだ五十嵐くん」 「ん? なに?」 「俺が産む? 五十嵐くんが産む?」 ほんと、強くてたまに怖い。 |