珍しく夏目と喧嘩した。
佐治が夏目を怒らすことは良くあることだ。なにせ、締め切り前の夏目は機嫌がいつも悪い。疲労とはここまで人間を駄目にするのだということがよく判る。ヒステリックになり、もう間に合わないと嘆き、酷い時は物を投げて人にあたる。そうなると、佐治家はもうパニックだ。台風のようだ。息子の友夏里などそうなると、さっさと家を出ていってしまうのだから、本当に要領がいい。
被害にあうのは主夫でありマネージャーでもある明一人である。嘆きながら、死ねとか、ふざけんな! とかさらに疲労が溜っている時は「原稿が出来てねぇのはテメェのせいだ!」とか言われる。ふざけるな――と喉元まで出てきた言葉を笑顔で飲み込んだ回数は計り知れない。原稿が出来てないのはお前が遊んでいたからだ。昨日は何時までスカイプをしていた、深夜アニメを見ていた、ベッドに寝転んで漫画を読んでいた、気紛れに出かけてみて本屋めぐりをしていた、美味しいごはんを食べていた、そんなことを繰り返しているから締切に間に合わないのだ――と、心の中で思っても言わない。本当に夏目がしていることは「息抜き」だということがわかっているからだ。で、なければ、何本も連載を抱えながら趣味でも漫画を描き続けるなんて出来ないことだろうし、漫画を描いている自分というのが、一度失われてしまった森夏目という人間の自尊心を蘇らせたものだと知っているからだ。
けれど、昨日は我慢できなかった。
なにを言われたって。これだけは言って欲しくなかった。
「テメェなんか、愛してねぇよ! うぜぇ、死ね! アーーもう、お前のせいで全部台無しだよ!」
喉が枯れるような声で叫び今まで応答していた佐治の返事がないと判ると夏目は「あ」という顔をした。彼も言ってはいけない台詞だということに気付いたのだ。
一瞬、なにを言われたのか判らなかった。思考が停止して、そうだ、それは始めのうち事実だった。俺が表れなければ夏目の人生は「台無し」にはならなかったのだろうと思った。けれど、その夏目の人生を他のものに譲ってやる気などなかった。手に入れたのは幸運以外の何物でもない。夏目がいる人生だからこそ、意味がある。その幸運を本人が否定しようと手放す気などないのに。
我慢できず、固まって、繕おうとする夏目の手を握って無理矢理押し倒した。久しぶりに思考が警告をきかない。後頭部をバッドで殴られたような衝動だった。夏目を壁に押さえつけて、愛していないとか、台無しとかいう酷い喉を潰してしまって、自分だけを愛してくれるようにしてしまえばいいと、うっかり、大事に閉じ込めていた自分が出てしまった。望みすぎてはいけないと知っていたはずなのに。

押し倒して犯した。


犯している最中は最高だった。久しぶりに夏目へ酷いことをして。泣きながら夏目を犯した。途中から夏目は気が狂ったように泣いていた。ぼろぼろと泣いていて、泣いてしまうものだから、興奮は更にましていって、血液が反転するかのように沸騰した。陰茎は勃起して、夏目の手を久しぶりに折ったら気持ちが良いんじゃないかと思ったけれど、叫び声が聞こえなくなって正気に戻った。
手を折られるという恐怖に夏目はあっさり気絶してしまったのだ。
いや、あっさりではない。冷静になって思い出してみると気を失う前の夏目は可笑しかった。過去のトラウマがフラッシュバックして襲い掛かっているみたいに。涙と喉が擦り切れる悲鳴をあげて、体は常に震えていた。押し倒していた廊下に吐瀉物をぶちまけて、ついでに尿を零していた。気絶して当然だ。
冷静になって、さて、とんでもないものをしてしまったのは分かった。とりあえず、夏目を綺麗にして、殴ってしまったところには湿布薬を貼って、切り付けてしまった所には消毒液を塗って絆創膏を貼って、精液をかきだした。傷だらけの夏目をみていたらまた反応してきたので、謝罪するにせよ、もう許して貰えないにせよ、今後のためにと傷だらけの夏目を写真に撮ったりした。
写真を撮って大切な写真ボックスに入れて、夏目が起きるまで傍に居ようとしたが、少しでも機嫌がとりたくて欲しいと言っていた漫画を全巻と夏目の好物を作ろうと家の外へ出たのだ。

今、思えば、冷静になったといいながらも動顛していた。だって、夏目の性格を考えるなら、そんな欲を埋めて機嫌をとるようなものではなく、誠意を見せて謝罪するべきだった。なんなら起きるまで土下座すればよかった。傷ついたことをめいいっぱいアピールして泣いてごめんなさいと言えば、甘い夏目は許してくれた。隙に付け入るように甘えて甘え倒して謝り倒したら許してくれたというのに、なんて馬鹿なことを。どうして外に出てきたんだ。目が覚めて自分がいなければ夏目は真っ先に「逃げた」と思うに違いないのに。
どうすればいいんだ。どうすればいいか、わからない。早く家に戻りたいのに、困ったことにここがどこか判らないのだ。


可笑しなことだ。階段を下っているときからあとの記憶がない。気づいたらここにいた。こことは実家だ。
今は雄山が家を継いですっかりクリーンなヤクザになってしまった、実家だった。更に可笑しなことに自分はオフィーリアの学生服を着ているし、顔も肌の様子やらを見ている限り、随分と若々しい。ぴちぴちしている。更におかしいことに母親はまだ若いし、弟である光も中学生。父親は未だに現役だ。
現実逃避もここまでくると末期だ。末期すぎて、ヤバい。こんなところにいたくない。早く夏目と一緒に住んでいたマンションへ帰りたい。
あ、そうか、マンションへ行けばいいのか。
思い立った佐治は立ち上がって、家を出る。家の人間が「ぼっちゃん送っていきますよ」と言ってくれたので言葉に甘えて車へと乗り込む。実家からマンションは車を利用すればほんの十分程度で着く距離なのに、マンションへ行く時間がやけに遅く感じて、ついてみて、ロビーに駆け寄るとまだ入居者はいないと答えられたし、良く見るとまったく同じマンションではなかった。
すぐ車へと戻り、独り言のように「夏目が居なかった」と呟くと組員は「夏目ってぼっちゃんの新しい女ですか」なんて愉快すぎる言葉を落としてきた。
なんてことだ。組員で夏目のことを知らない人間などよほど若い下っ端の構成員たちだ。佐治明の唯一。唯一の友達であり、組長などからも家へ入る許可を与えられている人間を知らないなど、有り得ない。
有り得ないことなのに。
いきなり、タイムトリップのようなことをしてしまって、その世界には夏目がいないなんて、これは、どんな罰なのだろうか。
調子にのるなという事なのだろうか。
意味が分からない。思考を黒く潰してしまいたい。

一応、学校に通ってみた。黒沼帝は未だトラに片思いしていて、今の幸せに溺れた「人間」らしい姿はなく、なんとなく神様を彷彿させる清々しい気配を漂わせていた。柴田は相変わらず馬鹿していて、飯沼先生の愚痴をこぼしながら惚気ていた、黒目は変わらず帝に片思い中で、人の神経を逆なでする言葉を発していた。
試しに帝へ「夏目って知ってる」と聞いていた。この時の帝なら知らない方が普通なのだが、帝はもちろん「ごめん、知らない」と答え、すぐに「佐治くんなにか雰囲気変わったね。前より壁がなくなって嬉しい――けど、なにか、抱えているの?」といつもの人の心をやんわり包み込むような棘を刺してきたが、こんなこと聞けることなく、違うよなんて言ってごまかした。
家に帰って、母親にも弟にも父親にも夏目と親しかった組員たちにも聞いてみたけれど、夏目のことを知っている人間は誰もいなかった。

やはりそうだ。おそらく階段をおりている最中、なにか天罰をくらって、夏目がいない世界に飛ばされてしまったのだ。



自暴自棄になって、女を殴った。女だけでは飽き足らず男も殴った。柴田たちと一緒にやっていた喧嘩がこんなに楽しいと思ったのは初めてだった。ベッドに誘い込んで、死んだ方がましだという屈辱を相手に与えた。
指を折った。夏目に出来なかったことを全部セックスの相手にしてやった。眼を抉り出した。爪を目に抉り込ます。男の方が面白い反応をした。足をぴくぴく動かして、爪を剥がしてやると立てなくなって腹が捩じれるくらい笑った。髪の毛を燃やしてやった。皮膚まできて悲鳴が聞こえ、喉がやけ喉から叫べなくなった。悲鳴がきけなくても、体は生きている。小便を漏らす男と女。ああ、気持ち悪い。性器にいろんなものをつっこんだ。最高に面白かったのは、女の腕を切り取っていれてやった時だ。この時の反応があまりにもよかったので、違う女で足を切り取って、まんこに入れてやった。楽しかった。夏目と一緒にいるときはここまですることは控えていた。だから、本当に夏目、俺は我慢していたこともいっぱいあったんだ。そもそも夏目がセックスをしてくれたら、別に俺は浮気なんてしなかった。夏目がさせてくれなかったからセックスをしただけだ。夏目がいればそんなことしなかったというのに。夏目だけだというのに。夏目がいてくれたら、溢れ出る欲望をちゃんと止められたのに。セックスさせてくれたら。なんてひどい人なんだろうか。一度くらい、対応に失敗してからと言って、償いに失敗したからといって、こんな、すべてを取り上げなくてもいいじゃないか。

「夏目」

気付いたら泣いていた。どこだろうと見渡すと初めて夏目と出会った幼稚園だった。初めて出会った場所へ行けば会えるかと思ったけれど、幼稚園の先生から不審者扱いされてしまって、結局、幼稚園の近くにあるブランコに腰かけて泣いていたのだ。涙なんて軽いものじゃない。血が出ている。眼から血が出ている。心臓がまるまる、零れだしているのだ。

「おい、大丈夫か」

泣いていると声をかけられた。タイプだったら殴って気分を発散させようと思って顔をあげたら、タイプどころじゃない顔がいた。

「なつめ」
「ん? 確かに俺は夏目だけど。お前――大丈夫かよ」

首を傾げ夏目は尋ねた。
背格好も顔立ちもどこから見ても夏目だった。違うのは歳くらいで、高校生の夏目がたっていた。佐治が見ることが出来なかった(させなかったの方が正しいのかもしれない)高校に通っている夏目。制服は近所の公立校のものだ。ここは定時制のみ、普通科のみの高校だった。

「なんか、ずっと泣いてたから声かけちまったんだよな。とりあえず、泣きたいときは泣いていいけど、泣き過ぎると気が病むぜ」

夏目はそう言ってハンカチを渡してくれた。皺くちゃでない綺麗なハンカチは母親がアイロンをかけてくれたものなのだろう。夏目はアイロンなんかかけられない。親と不仲ではない夏目の姿。佐治の知っている中学生のころまでの夏目。夏目が「ぐちゃぐちゃにされた」と泣いていた、ぐちゃぐちゃにする前の夏目の人生を見ているようだ。

「ありがとう。ねぇ、良かったら気が紛れるから君の話でもしてくれないかな」
「俺の話? いいぜ。まず名前だけど森夏目っていうんだけど、高校はもう制服見たらわかるよな。わりと有名だし。あ、弓道してるかな――今も部活帰りでさ、成績は全国ではこれでも上の方でさ。ま、それでも強い奴には勝てねぇけど」

夏目は喋り出した。なんて警戒心が薄いんだろうか。目の前にいるのは人間の四肢を簡単に切断してしまえる男だというのに。こんな不審者に話しかけてきて、どうにかしているのは夏目の方だけど。だからこそ、夏目なのだけど。
本来夏目は家に引きこもって漫画を描いているよりも、今みたいな外で人とふれあっているのが似合う人間で。自分みたいな人間に執着されなければ、不登校になることなんてありえなくて、いじめからも程遠い存在で、警戒心もなく困っている人間が居れば話しかけてしまえるような男なのだ。
目の前にいるのは紛れもなく夏目だ。夏目に違いない。手放したくない。けど、同じことを繰り返したらもう、誰かわからない、一度、自分から夏目を奪った奴は夏目を返してくれない。それに、同じことはしたくない。

「夏目」
「ん? なに」
「俺の名前は佐治明っていうんだ。あかりでいいよ」

君以外に呼ばせない名前だよ。

「あかりね。ふうん。じゃあ、あかりで。俺は夏目でいいぜってもう呼んでるか」
「呼んでるね」
「呼んでるなぁ」
「ねぇ、なんで声かけたの」
「え、だって、暗いやつが公園にいたら迷惑だろう。俺も時間あったしな。あと泣いてるやつ放っておくと気が悪いだろ。ま、俺の自己満足だな」

なんてであった頃みたいな会話をして、夏目は本当に小さいころから変わらないね――と言いたかった。

「お前、オフィーリアだろ。金持ちじゃん」
「制服でわかるよね」
「まぁな。ま、なにがあったかは聞かないけどさ、泣きやんだみたいで良かったよ」

じゃあもう行くな――と言って夏目は立ち上がってしまった。夏目、止めていかないで、と手を伸ばすと「また明日な」と夏目は簡単に腕の中から抜けてどこかへ行ってしまった。


けれど夏目は本当に翌日、同じ場所に来てくれて、なんでいるんだよと逆に笑われた。少し無神経なところも好きだった。
この夏目は夏目だけど少し違う。
まず漫画は好きじゃない。普通に読むけど、今みたいに病的じゃないし絵も特別、上手いというわけではなかった。そこで、そうか本当に彼は漫画の力を借りてあの場所から抜け出してきて、描くということにすべて注ぎ込み、今の技術を手に入れたのだと実感した。
次に違うのは高校に通っているということ。高校は公立の制服が少し特殊な高校で弓道部に所属していて、とても上手くて友達も多い。夏目の口から知らない男や女の名前が吐き出される。
ああ、それに身体は綺麗なまま。服を脱ぐと目立つ火傷のあとも切り後もまるでなく、綺麗な、真っ白な身体。運動を続けているので相変わらず細いけれど、筋肉があって少し体ががっちりしている。
夏目。

「夏目、だれそれ」

何日喋っただろう。夏目と喋っている時だけ、自分の中でリアルだった。季節も変わってしまったかというくらい喋ったかもしれない。夏目。

「ああ、彼女。あかりに紹介しようかと思って」

そう言って夏目はどこにでもいるちょっと清楚なショートボブの可愛らしい系の女の子を紹介した。誰だろう。初めて夏目に告白してきた子ではない。ただ、夏目の傍に居るのが似合わない女だということはわかる。立ち上がって、彼女の頭を半分にしてしまうのは簡単だけど、そうすればこの世界の夏目もいなくなってしまう。嫌だ。そんなの嫌だ。夏目が居なくなればどうやって呼吸をしろというのだ。

「そうなんだ。可愛い子だね」

上手く笑えたらご褒美をちょうだい。




どうやって帰宅したのか判らない。ただ、帰って死ぬように寝て目が覚めると真っ黒な空間にいて、男が一人だけ立ってきた。なんだか、この夏目が居なかった世界にきたときと似ている。

目の前に立っていたのは、胡散臭い男だった。佐治は目を細め「誰だ」と警戒心をたっぷり孕んだ声で囁いた。男は黒魔術に利用するような真っ黒なローブを脱いで顔を晒す。
晒された顔は良く知る、大切な友人の友達で佐治としてもセックスフレンドくらいの立ち位置にある男だった。
「なになに、これは冗談? だとしたら随分大がかりだね」
どうせ、あのネネとかいう御嬢さんの差し金だろうと佐治は溜息を吐き出す。と、いうかこんなことが出来る財力がある人間がオフィーリアしか見つからなかった。
こんなことに付き合っている時間なんてないんだけど――と零すと男は佐治が見たことない、自信に満ちた笑みを浮かべた。にこりと笑うと目じりの影が消えて、頬に笑窪が出来る。男の満面の笑みなど見たことがなかったので佐治は、ひゅっと息を飲んだ。
違う。これは自分が良く知っている男の顔ではない。
顔の構造も背格好も一緒だが、まるで中身がごそっと変わったかのように、違う男である。よく観察してみるといつも猫背の体勢が背筋に筋が通っているかのように真直ぐ立っている。まるで背筋を誰かに叩かれたように。

「アンタ誰」
「誰って紀一さんは紀一さんでしかないよ」
「やっぱり木野くんなの」
「う――ん、まぁね。木野くんではあるけど、君が知っている木野くんではないかな」
「なになに。またミステリアスな話?」

性質が悪いねぇと佐治は舌打ちをする。
眼前に居る男はいつもなら脅えるくせに、佐治のことをにっこりと笑いながらみていた。余裕の笑みなど、佐治が知る木野紀一は持っていなかった。怖いと思ったら逃げるか防御するために脅すような男であったはずだ。

「簡単に言えばさっきまで佐治くんが居た世界の木野紀一だよ。君がさっきまでいたのは大切な人生のキーとなる人物と出会わなきゃいけない時に出会わないっていう世界。どうだった?」
「どうって、最悪だったけど」
「そう?紀一さんこっちの方が好きだけどなぁ。だってそっちの木野紀一は父親にレイプされてるんでしょう。最悪だよ――あ、紀一は父親と出会わない世界ね。だから背骨も折れてないから真直ぐなんだよ。素敵でしょ」
「素敵なんじゃない。なに、お前はホリックでいうユウコさん的なポディションなの? 世界の役割を説明してくれるてきな」
「まぁ、そんな所。今回は、調子にのりすぎた佐治くんに罰を与えようって企画だよ。まぁ罰が与えられたのは暴言吐き過ぎた夏目くんもだけど。君が夏目君の彼女に暴力を振るわなかったから罰終了で、元の世界に戻れるってこと」
「あっそ。そう、戻れるんだ。良かった」
「珍しいね本音だ」

本音に決まっている。夏目が自分のモノでない世界など地獄だ。だって、夏目は夏目なのに、自分のことを愛していないし、そんなことが起るのはキセキに等しいことだったのだと見せつけられたのだから。強引に自分が運命を引き寄せた結果なのだということを。

「はやく、もどしてくれ。気がどうにかなりそうだ」

木野の襟元をつかむと、嫌な感じという紀一がにやにやと笑って指を一回転させた。
視界がまわる。



















「明―――あかり、あかり、おい、俺が、俺がわかるか」

判るに決まっていると佐治は思った。他の人を見間違えても夏目を見間違うことなど有り得ない。

「あかり、お前階段から落ちて一週間寝込んでたんだよ。もう、バカ、あほ、打ちどころ悪かったら死んでたって。お前、レイプされたあとにこんなこと聞かされた俺の気持ちにもなれよ」
「ごめん」
「いいんだ。俺も言い過ぎた。お前のこと愛してないなんて嘘だ。お前に人生はぐちゃぐちゃにされたけど、今の人生が自分が嫌いなわけないだろ」
「ほんと?」
「ほんとだって。あかり、ごめんな。連載もさすがに5本もつのはやめるから」
「それは、やめて。けど、いいんだ。夏目がいいなら」

手を伸ばして夏目を抱きしめると、ココにあるのは自分だけの夏目なのだと判る。体は貧弱で抱きしめると骨があたって少し痛くて、身体は自分がぼろぼろにした傷痕がのこっていて、漫画ばかり描いていて、誰に対しても優しい人間ではなくなり、警戒心は強くなって、そのかわり、あんなひどいことしたのに、一週間階段から落ちて寝込んでいたという間抜けな恋人を見て許してしまえる馬鹿なところが出来てしまった。酷いことをされても許してしまえる人間になってしまった。
なんて尊い。
佐治明のためだけの、夏目がいる。




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