「愛情っていうのは謎だね」なんていうのを友人である白虎が珈琲屋のカフェオレを飲みながらいうものだから、巧は飲んでいたメロンジュースを吹き出してしまいそうだった。
感慨に耽るかのように、白虎はカフェオレを掻き混ぜながら同意を求める。ぼーーとした恍惚のゆるい表情の中身はどうやら、恋人であるアナスタシアで埋め尽くされてるようだ。確かに可愛いが、本性を知ってしまい、親友である白虎が本気になった女なので、白虎がいうように魅力的か? 胸がでかいだけじゃねぇか、とも思わなくもないのであった。
しかし、白虎が惚れる女が現れるなど、中国へ行く前の飄々としたコイツからは想像すら出来なかった。
佐治白虎という男はモテにモテていた男だった。頭脳明晰、運動神経抜群、人当たりも良く人望があり、顔の作りも、身体の造形にいたるまて、もてる要素を詰め込んで生まれてきまような男だった。自分といると特に目立って、タイプの違う女子が寄ってくるので、選り取り見取り状態だったが、白虎が恋人という名前を立場と共に与えた存在は驚くほど少ない。
告白されても振り、告白されても振り、告白されても振りまくってきた。
ある日、巧が「お前、誰とも付き合わないの?」と問いかけることにより「経験がないのって可笑しいかなぁ」と面倒を表す溜息とともに、しょうがないから女と付き合うかと、白虎は女として生きていくのが上手い利口な女子を恋人に選んだ。皆が可愛く綺麗で、無駄な嫉妬など焼かず、知識レベルも白虎と近い女たちとばかり白虎は付き合っていた。浮気などせず、女と別れるときは、彼女が告げる我儘が白虎の許容範囲を超えたときだけ。別れた理由を尋ねると「馬鹿な子は面倒だから」とさらっと雑誌を読みながら、なにもなかったかのように答えて、すぐに次の女を作っていた。馬鹿な子というのが、許容範囲を超えた我儘を言ってしまう自己コントロールが下手くそな人間を指すのだということを、巧は一年ぐらいしてようやく気づいた。
別に巧はそれが悪いとは思わない。白虎が彼女と別れたあとにタイプだったら声をかけたことがあるし、なんだったら白虎の許可をとって口説いたことだってあるのだから。恋愛の形など人それぞれで、けして愛情の形は押し付けるものなどではないのだと、幼いころより父親から、恋愛についての価値観を押し付けられてきた巧は思っていた。
ただ、まぁ理解出来るものかと問われれば、人を愛することが出来ず損得でしか物事を考えられない友人のことが、ときに侘しく心配してしまうこともあったのだ。


その白虎がカフェオレを物思いに耽ながら、掻き混ぜて愛情について悦に浸りながら恋人について考えているのだから、なにが起こるか本当に人生は分からない。
本当にアナスタシアのどこがそんなに白虎を本気にしたのかは分からないし、巧から見てみれば過去の恋人たちのほうがよほど白虎とお似合いだった。我儘の許容範囲が、超えたら別れてきたような男なのに、アナスタシアの我儘に振り回されることはなにやら得意気になり微笑んでいるのだから、どうにかしている。しかも、気を許した人間しか囃すことをしないこの男が、アナスタシアのことは苛めながら愛してるのだ。こんな、愛され方も巧はごめんだと思うが、本人は至って楽しそうなので、良しとしよう。一度、好奇心で、お前って苛めてるとき勃起したりしねぇの? なんて尋ねたいものだが、本当に勃起していたらと思うと未だ聞けずにいる。

「昨日さ、アナスタシアがなにしてきたと思う」

なんて、惚気を楽しそうに話だした。少しでも本人の前で、デレてやれば、あの煩い女も落ち着くだろうが、本人に、きかれたら白虎が赤面してしまうなと巧はストローを啜った。


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