家の車で移動するのは好きだ。がたん、がたんと揺れる自動車道の窪みを車が跳ねる音を身体で受け止めたり、みーちゃんやお母さんの喚き声や、レンくんが静かに雑誌のページを巡る音だったり、メルちゃんがお菓子の蓋を開ける音が寝ている僕の耳に届いてくる。慈雨くんは助手席に座っているか、僕の横で手を握ってくれているかのどちらかである。以外なことに、運転はお父さんがする。お母さんはジルの運転で死ぬんだったら本望だ……くらいは思っている筈である。僕が知っているお母さんだったら、きっとそういうだろう。

家族一緒に乗るのが好きってわけじゃなく、家の誰かが運転している車に乗るのが好きなんだ。電車やバスでは息苦しくて寝れないし、他に人がいる空間というのは圧迫されて、気持ち悪くなっちゃうけれど、家の車だけは別だ。がたん、ことんの音に乗せて夢の中に誘われる。まるで、赤子をのせた安心出来る揺り籠のようだった。

慈雨くんにそれをいうとつぐみらしいと言ったあとで、きっと彼の感覚では理解出来ないと言った顔をされた。しょうがない。大勢の人と関わるのが気持ち悪いとか名声を浴びるのが大好きな彼にはまるで理解出来ないものだろう。

慈雨くんの車も安心出来るよーーと蛇足ながらに囁いてみると、慈雨くんは驚いた。慈雨くんの影が出来るほど長くて大きな双眸がぱっちり開くのを見ているのが好きだ。だって、仮面を被るのが大好きな彼が、驚く顔をする時なんて滅多にないから。
慈雨くんは、自分でいうのもなんだけど、良く誘拐して穴を埋められ生死の狭間を彷徨った相手を信頼出来るねーーなんて呟いてきた。なんてことだろうか。慈雨くんよ。そんなことを言ってしまえば、僕はこの世のどこに居ても信頼でき、安心出来る場所を失われてしまうではないか。
君の側は確かに生死の狭間を彷徨う場所でもあるけど、僕が一番安堵出来る場所でもあるはずなのだと微笑むと、顔を覆う大きな手が僕に触れた。
キスされている間に車のことと話しがズレたやーーとおもったが、こんな回りくどい言い方ではなく今度、改めて、だから僕が安心出来る場所をころころ変えるのを止めて欲しいということを伝えなければ、いけないと思った。彼が新車を選ぶ時間ほど暇な時間はない。



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