五十嵐くんを可哀想だと俺が感じたことは誓って一度たりともない。だから、目の前にいる五十嵐くんの元彼女だという女の子が五十嵐くんの悪口を言いながら、彼のことを「ジュンペイは誰も信じられない可哀想な人」と語りながら、俺に同意を求めてきていても、頷くことが出来ない。俺は彼のことを可哀想な人だとか、可笑しい人たとか、気が狂っているとか、そんな風に感じたことはないのだ。そもそも付き合っていて、五十嵐くんの素晴らしさに触れてきて人の筈なのに、いくら、喧嘩別れをしたからと言って、関わり合いがあった人の悪口をぺらぺら親しくもない相手に喋る彼女の方がよほど、俺からしてみれば、可哀想な人なのである。

「あなた、ジュンペイと付き合っているんでしよう?」

なんで、それを知っているのかと、飲んでいたカフェオレを噴き出しそうになった。五十嵐くんは男であり、貧相で良い所を探す方が難しい俺のことを恥ずかし気もなく恋人だと紹介してくれるけど、こんな俺は初対面。五十嵐くんはもう縁を切っているであろう人が俺たちのことを知っているなんて想像していなかった。それに、付き合っているとわかっているのに、どうしてこの人は五十嵐くんの悪口を俺にぺらぺら喋るのだろう。

「悪いこと言わないから、早くわかれた方がいいわよ。あいつ、可笑しいから。貴方も携帯チェックとか行動報告の義務とか、あと男けしかけられたりしたでしょう」

彼女が話すことは確かに俺は五十嵐くんにしてもらっているのだけど、嫌悪感丸出しで喋る彼女と違って、俺は別に嫌じゃないので、やっぱり同意出来ない。

「別に嫌じゃないんで良いですよ」

五十嵐くんが望んているのなら、別に嫌なことなんて、何一つとしてないのだ。
女の子は驚きながら、悔しそうに、初めだけよ……なんて零したけど、かれこれ、半年以上嫌じゃないので、もう大丈夫だと思う。
寧ろ、五十嵐くんのような人から求められることを付き合っているというのに、どうして拒否すれば良いのだろうか。俺にはわからない。彼は確かに少し束縛するのが好きみたいだけど、たったそれだけじやないか。何時だって優しいし、我が儘だって聞いてくれる。付き合っているからと宣言してくれる。過去に関係があった女の子は全部縁を切ってくれた。浮気しない。マメにメールしてくれる。一体、何に対して不満があると彼女は怒っているのだろうか。
束縛して、五十嵐くんの苦しみや不安を少しでも取り覗けるのなら、それで良いとどうしてならないのだろうか。

「けど、あいつ、私たちには秘密作るなとか強制させておいて自分は裏で知り合いで試させたり嘘平気でつくでしょう」

そりゃぁ確かに五十嵐くんだって人間なのだから、嘘をつくことくらいあるのだ。しょうがないじゃないか。
寧ろ、彼女は五十嵐くんに嘘を付かせてしまったり、疑わせてしまった自分の未熟さや迂闊さを恥じたりはしなかったのだろうか。俺だったら、我慢出来い。我慢出来なかったんだけどなぁ。五十嵐くんが先ほど彼女があげた、そういうことをしていると知った時は追い込ませてしまった自分が情けなくて、この世にはもっと五十嵐くんを上手に愛することが出来る人間がいるんじゃないかと不甲斐なさに、潰されそうになったものだ。今はそんな不甲斐ない俺を許して貰って、五十嵐くんの側に居れるのだから、なにを不満に思うことがあるのだというのだろうか。

「俺は五十嵐くんに不満とかないです。話それだけだったら失礼します」

どうしても話があるからと大学のカフェテラスでカフェオレを飲んでいたら前に居座られたんだけど、彼女の用事と俺の内面がかみ合わないと知ったし、五十嵐くんの悪口をこれ以上聞くのは限界だったため、頭を下げてその場を離れた。

あ、このことも五十嵐くんに報告しなければいけない。元彼女と喋ったとか嫌な気持ちにさせてしまうかも知れないと顔に青筋が走るが、内緒にして適当な言い訳を並べるなんて真似をした方が五十嵐くんは傷付くのだ。最近、分かってきたことなんだけど、下手くそな嘘ほど、五十嵐くんは嫌うし、そういった自分を守るためだけの言動の方が他人を傷付けやすいんだ。だから、素直に喋ってしまうのが、一番良い。五十嵐が求める誠実さや一途さをこれだけで表せているとは思えないけれど。もっと五十嵐くんに俺と一緒にいて良かったと、そう思ってもらいたい。

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