佩芳は笑っていた。真っ赤な中で一人、笑っていた。煌は横でその様子を眺めていた。佩芳の手には血が真っ赤についているというのに、殺したばかりの一家がいる台所でテレビをつけて、お笑いを見て、笑っていた。
早く帰らないのかと尋ねると、佩芳は瞬きをして、なぜだ? という顔をした。なぜ? ではない、殺した家族が住んでいた家をいち早く出たいと思うのは普通のことだ。

「まぁ座れ」
「嫌よ。早く帰りたい。お腹すかせてギルが待っているよ」
「待っているかも知れないけど、座れ。もう少し経ったら、この家に学校へ行っていた子どもが帰ってくるから、そいつ殺して帰るぞ――」


それまでお笑いを見ながら待っているのだという。なんということだろうかと、煌は床に吐瀉物をぶちまけそうになった。だって、今からこの場所にはギルと歳の変わらない子どもが帰ってくるというのに、親を殺したばかりのこの男は平然とした顔でテレビを見ているのだ。
玄関はいつもと変わらない風景を保っているが、廊下を進み、台所へ続く扉をあけるとあたりは血の海だ。佩芳の殺し方は汚い。拳と足一つで、殺していくので、人体と電車がぶつかった時みたいに、人体がめきめきと音を立てて、吹き飛んでいくのだ。この男は上手に返り血を避ける術を持っている。身体に触れた所しか汚れていない。
台所の食器洗浄機の中には母親の身体が胴体
とさよならを告げて突っ込まれていた。父親の身体は椅子に腰かけ、驚いた顔をしながら、新聞を握りしめた手はすでに死後硬直を初めていた。祖父の身体は最後、小便を漏らして部屋の隅っこで三角座りをして脅えている。佩芳が穢いからといって、頭部を破壊したお蔭で恐怖に震えていた表情は見えない。一家が飼っていた犬も身体を半分にされ、父親の上に放り投げられていた。

「ただいま―――」

あどけない子どもの声がする。佩芳は「便所にでも行ってくる」というように、重たい腰を持ち上げ、いつものようにリビングへと続く扉をあけた、子どもの腹に蹴りを食らわした。

「やぁ、おかえり」

おかえりなんて、優しい言葉をかけながら、子どもは床に叩き付けられる。あら、即死か? と死んでしまった子どもを見て呆気なかったなぁともっと楽しみたかったのだと述べた。

「子ども、奴隷にしてもよかったよ」
「う――ん、けど、全員殺しておいた方が後で楽なんだよ。復讐とかで燃えられたらたまらないだろう?」

だから俺は全員、殺すことにしている。悪とか善とか関係なく。そっちの方が後々のことを考えていくと楽なんだよなぁと、軽い口調で述べていた。
さぁ帰ろうかと肩を叩いた佩芳の手が真っ赤ではなく、水道で洗い流された後だと知ると、ついに煌は吐いてしまった。佩芳は吐いている煌を、組にとってどれだけ利用価値があるのかを量るように目を細めながら眺めている。
吐き終わった煌が歩けずにいると背負ってきた。嫌よやめるよと言ったが聞く耳を持たないといった態度を取りながら廊下を歩いていく。
小さな一家が死んでしまった扉の外に出て、そういえばこの家が起こした組にとっての損害とはいったいなんだったのだろうと考えると佩芳が「金の横領だ」と爽やかに答えた。どうして、口に出してもいないのに人のいうことが判るのだろうと、煌は再び気持ち悪くなってきた。
アパートの前でようやく解放され、階段を上がる。二階の角部屋に自分の家がある。

「ただいま」

ただいまと、あの子供が言った言葉をそのままトレースするかのように述べる。扉の中からはギーゼルベルトが姿を現した。煌の帰りを待ちわびていたのか、扉の前で三角座りをしていたというのが判る速さだった。

「おかえり、煌」
「うん、ギル良い子にしてたか」
「してたぞ。料理だって今からあっためるからな! 待っているんだ!」

鼻息を荒くするギルの身体を掴んだ。ギルは瞬きをしていた。どうした煌? と首を傾げた後に、年上ぶりたいのか「お前はしょうがない奴だな」と背中を叩いた。
貴方は絶対に私が護るよと、生きている体温を肌で受け取った。 


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -