ギーゼルベルトとファン | ナノ




女が腹の上で踊る。アイツの所にいた時は、性的なものは禁じられていたので、当然のように離別するまで童貞だった。禁じられているというより、アイツが始めから俺に纏わる性的なものから目を背けていた。
拷問のやり方なんてのは教えていた癖に、女の胸を揉む方法は、一切教えてくれなかった。
俺が思春期になっても変わらず、同期である、モンファやヤーウェンが珍しく肩を組みながら囃し立ててきても、アイツは「なにを言っているんですか、貴方たち。汚いこというのなら、その首ちょんぎってあげますよ」と言って目を閉じ、耳を塞ぎ、成長していく俺から目を背けた。アイツにとって俺は何時まで経っても歳が離れた弟であり、我が子だった。引き取られ、赤ん坊だった当時から庇護して当然の者として、俺の存在は変わらなかった。
思春期になり恋慕を自覚した俺が、狂おしい程に、アイツへ惹かれていることを察していた筈だ。真横で吐息を立てて眠るアイツに興奮して抱きしめられた時、勃起していた事もあった。目が充血して、無防備に俺だけへ晒す姿を丸く包めて抱いてしまいたいという、衝動に駆られていたのだから。勃起していた俺の陰茎にアイツの手は触れた筈なのに、抱きしめられる温度は過去のものと変わらず、子守唄を奏でるように、俺の肩へ手を伸ばしたのだ。
トイレで自慰をした数は?
ベッドで。アイツの私物を盗み、淫欲に溺れた数は?
日常の何気ないしぐさに抱きつぶしてしまいたいとなった数は?
数なんてもの、数える暇もなく。俺はアイツの虜だった。育ての親に抱く性欲を止められそうになかった。
幼い頃から、俺の生活はアイツ中心に回っていた。しょうがないだろう。俺の中心がアイツになるよう、そうやって育てられてきたのだから。食事を与えてくれる相手を、一度捨てられ殺される寸前まで落ちた子どもが忘れるはずがないだろう
今もそれは変わらない。大義と仁義に跪きながらも、脳内の片隅にいるのは、常にアイツの投身像だ。かといって、王とアイツに危機が迫り天秤にかけられたからと言って、アイツを優先するほど腑抜けてはいない。どちらかを取るという選択肢が気に食わない。優先的に王を守護するため働くだろうが、力を持ってして圧倒すれば、解決できない問題などこの世にないのだから。選べと言われても、選ばず、まぁ、平和的というには程遠いが両方選べる道を模索するのだろう。


「ねぇギーゼルベルト」

女が艶やかな声で俺に告げる。この女は俺が童貞を捨てた女だ。王の家へ引き取られ、アイツの監視下から抜けた日、欲望に塗れ女を抱いた。女はアイツに似ていた。艶やかな長い髪も。狐のように妖艶な眼差しも。人を食らいそうな唇も。少し影が出来る睫毛も。良く似ていた。ここまで似ている女を良く王の当主は見つけられたものだ。俺の気持ちが暴かれていたと知るのは、子ども心に気恥ずかしかったが、主人からの戴物は不要なものでも受け取っておくのが筋というものだ。処分するときは気づかれないようにするのが常識で、俺は有り難く受け取り、今まで使わせていただいている。
女との相性は悪くない。寧ろ良い方なのだが、最近は、随分と煩い。長年利用していると、勘違いをして我儘を言い出す女が多いと聞くが、その類なのだろう。金がかかるものを要求してくる。要求されたものを渡すのは面倒だが嫌ではない。金はかかるがセックス中の戯言だと思うと聞き流し欲しいというものをやらなくもない。
ただ、最近、その美貌に衰えを感じる。アイツが年を老いたら女のようになるのかも知れないが、全盛期と比べると、アイツと似ていない。俺に好かれて物を強請るのなら、もっと美しくあってもらわないと困る。
そろそろ捨て時なのだろうが、拳で握りつぶすわけにもいかず、下の人間へ回すには俺の感情が暴かれる恐れがあるので避けたい。そもそも、熟女好きがこの組の中に何人いただろうか。

「なんだ」

女から口付けを受けながら答える。俺の一物は女の膣内にいるので、腰を動かすたびに、それなりに気持ちが良い。既に三回ほど達しているので、もうセックスがしたいという衝動は無いのだが、布団の中から起き上がるのが珍しく億劫だったので横になっている。
口付けよりも煙草が恋しいと、ベッドサイドに置いてある煙管へ手を伸ばそうとした途端、窓辺から太陽に反射して光る物体を見つけた。
咄嗟の判断で、女の頭を鷲掴む。理解が追いつかない女の顔は、頭に食い込むほど握り込まされた俺の指圧に悶えているのか、随分と不細工だ。
次の瞬間、女の頭が吹き飛んだ。
やはりか。あの光はスナイパーと判断したのは間違いではなかったようだ。銃が貫通したのもあるが、俺もついつい力加減を間違えてしまったらしい。鍛錬不足だと恥じるしかないな。鍛えるだけでなく繊細な動きも身に付けなければ。
女の身体を盾にしながら、下半身だけ衣服を身にまとう。部下が潜入してきた時、裸だと見栄えが悪い。ベッドサイドに置いてあった銃を手にとる。なぜか王の人間は銃を好んで利用しないと勘違いされているが、必要があれば、利用するのは当たり前だろう。
引き金に指をかける。スナイパーの頭を捉え、銃を放つ。見事命中したが、随分、汚い殺し方をしてしまった。最近、銃の訓練はサボりがちだったな。追加メニューに入れておくことにしよう。

「ちょっと、なんの音だよ」

坊ちゃんが入ってきた。こういう時は、跡継ぎである坊ちゃんは後から現場へ向かうよう指示したというのに。空っぽな頭にはなにも入っていないということか。

「スナイパーを処理した。近隣に仲間がいる可能性が高い。捜索に入る」
「ん、了解――暴れられる――」
「まて! 行く前に一人だけ残して後は殺しても構わんと部下に伝達しろ」

坊ちゃんは面倒そうな顔をしたが、俺に鉄拳をくわえられるのを恐れてか、生返事をして部屋を飛び出て行った。
上着を着ようとベッドを振り返ると、女が蜂の巣になって横たわっていた。あとで肢体処理班に回さなければいけないな。
しかし今日はついていた。処分も良いタイミングで出来たし、燻っていたこの時期に、暴れることが出来る。どうも、この時期は調子が悪い。理由は判っている。俺がアイツの傍を離れた時期だからだ。
つい理性が緩くなってしまう。


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