美琴と輝彦 | ナノ




飯作るのは別に嫌いちゃうねん。
俺の中で食すってのはなかなか、大切なことで、やっぱり一日一本健康ドリンクに野菜ジュース、サプリメントっていう生活は想像するだけで、吐き気する。インスタント食品や外食でも同じことやな。
やっぱり炊き立ての白米を食べて、数分前に刻んだばかりの野菜を食べて、魚と肉を上手いこと取って、そうやって食べな、俺の中でご飯って呼べるものやないねん。だから、飯作るのは面倒やけど嫌いやない。
そりゃ、お母がおったら、俺はせいぜい配膳の手伝いと、後片付けくらいやし。正直にいうと、配膳の手伝いやって面倒なときもあるねん。けど寝てるとお母は怒るやろ。兄貴はまったく手伝わんとご飯言われて部屋から出てきて(そもそも家におらん時も多いけどな。遊び疲れてて)椅子に腰かけるだけやから。お前はお客様かってツッコミ入れたくなるけど、痛い目みるの弟の俺やから黙っとんねん。兄貴は昔からこの凡庸を絵に描いたような弄りやすい顔の俺と違って、顔が整っとるから、お母も甘いし、兄貴にはいうても無駄なこと判ってるから、手伝わんても怒らんからな。
痛い目見るのは出来るだけ、勘弁して欲しいし、お母、怒らせて不機嫌にさせても良いことあらへんし、嫌や面倒や思うても、美味しい食事にたどり着くためには、黙って付き従っておくのが一番や。怒るってすごい力使うし、やっぱり嫌なことやからな。お母ももう歳やし。俺も成長したしくだらんことでは争いたくないねんな。
まぁ、そんな訳で、俺は美味しいご飯にたどり着くため、中々、自分が嫌や面倒や、思うことに対しても努力してんねん。口に入れた瞬間、一日の疲れもいっきに抜けていくやろう。あの瞬間を味わうために。
やから、一人暮らしになってご飯作るの面倒なときもあるけど、毎日、せっせと作っておんねん。誰かと食べる方が好きやから輝彦呼んで。つーかアイツが半分、押し寄せてきて食べてる状態やけど。輝彦は人の料理にすぐいちゃもんつけてきょうるし「お前、今日いる言うたやろうが――!」と作ってから「いらん」いうメール送ってきょうる時もあるけど、しゃーない。アイツは昔から俺の扱いはどこか、ぞんざいやし、怜子さん怜子さん、怜子さん怜子さん、ってヒトメボレした時からそればっかりやから。親友がそんなに惚れた相手との用事を優先して俺を蔑ろにするのはもう慣れというやつやし、受け入れるのもまた長年の好やと思うねん。
ああ、ほうや。言うたら、俺の中で輝彦いう存在はご飯と一緒や。面倒やねん。輝彦と一緒におると、本当に面倒でたまらんって時があるんや。たとえば俺がアイツの部屋の掃除をしとくことが当たり前になっとる所とか(思えば最初に合鍵渡された時から輝彦は俺に掃除させる魂胆やったんろうから、あなどれへん)口開けば怜子さん、怜子さん煩いところとか、自分のレベルに追い付いていない他人を馬鹿にするような態度とか、すげぇ現実主義者のくせして夢見て初恋追いかけて実現させようとしているその幼さとか、面倒な所多すぎて、いいつくせへんし、マジギレして友人止めたろうか! と思ったことは、一度や二度やないねんけど、なんか、おらんと不思議な感じするねん。
おらんと、寂しいねん。
おったら、ラッキーみたいな、そんな感じやねん。
なんや、昔はそういえば努力したわ。俺は勉強そんなにせんでも頭良いタイプやったけど、一度だけ音楽のテストで50点取ったことがあって。知らんがな音楽なんて。俺の時は中村祐介が教科書の表紙描いておいてくれへんかったからやる気もなく、だっらだら受けてたら、んな点数になって、輝彦からマジで呆れた、ちょっとだけ軽蔑含んだ眼でみられ(因みに兄貴には爆笑されたで)すごいショックやったから、必死になって勉強して見返したろ! 思うたら、今度は100点とって笑われたんや。
俺の努力返せっていう話やけど、なんや、あんな真剣に傍に居る価値を量るみたいな目でみられてちょっとな、ちょっとショックやったのを今でも覚えてるは。怖いのはきっとあの目が無意識だったっていうことやけど。ほんで、そんな目で見られんよう努力して俺の、安息の地を得ようと思うくらいは、おそらく俺は輝彦が傍に居るのが当たり前になっとるなんな。別に大きくなったら俺等は恋人同士でもないねんから、遠くに離れていくのが当たり前になるし、それはそれで良いと思ってんねん。東京に来たのやって交通の便がはかどっているし、夏コミグッコミ、なんでもイベント参加し放題ってのに興味持ったからやし。コスプレし放題なんやで! 興奮するわ! って親に直接話したらしばかれそうな理由やけどな。
だから一緒におるっていうのは、ホンマ偶然で、ご飯みたいに長年はなれていても、どこかおらんと寂しいなぁ、おると幸せやなぁ、みやいな気持ちになれる存在やってことやろうな。




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