ジルと充葉 | ナノ



外にいる充葉の息はキシリトールの味がする。彼はミントの爽やかな香りが好きなわけではなく、マナーとして口臭を気にするので、ガムを常備しているだけなのだが。会社に行く前、必ず玄関に置いてあるボトルからガムを取り出し、噛みながら電車に乗るのだ。
一度、ジルがキシリトールを食べている充葉の息を嗅ぎ「くさいよぉん、充葉」と言ったので、充葉はその時は「マナーだよ! お前もこれくらい噛め」と怒っていたのに、その時からジルの前で充葉はキシリトールガムを噛まなくなった。
だからキスをする時はいつも充葉の味がする。
充葉が生きている証のような味だった。唾液の鼻につく、なんとも言えない人間味溢れる水分が口の中を芳醇にしていく。充葉の唾液を入れただけで、料理があれほど美味しくなるのだから、調理料の元を食べると、度数の高いアルコールを飲んでいるようで、胸やけしてしまいそうになる。

「暑い――ジル、くっつくな」

縁側で休日の充葉は本を読みながら寝転んでいた。空調が完備され、常に適温に保たれる家だが、充葉が一人で落ち着きたい時、自然の風だけを頼りに涼んでいることをジルは知っていた。
例えば充葉のこんな憩の時間を家族と言え邪魔をすれば充葉は少し不機嫌になって上手な言葉の言い回しで、この空間から追い出すのだが、ジルは自分だけはこの場所から追い出されないことを知っていた。涼みにきているというのに、ジルの大きな軟体動物のような身体が下腹部に纏わりつく。充葉は未だに真剣に本を読もうと試すが、ジルの邪魔によって阻止される。

「あ、こら、ジルお前」

充葉が本を床におろす。
ジルの手が身体中を検査するようにして、這いまわった。ズボンのチャックをじじじと下ろされて、下半身が露わになる。
密着していたせいで充葉はじんわり汗をかいている。汗を舌で舐めとるように陰茎部分へと下がっていくと、陰毛を吸う。じゅわっと吸われ、充葉は否定を示すようにジルの頭を押さえて引き離そうとしたが、じっとジルの顔があがった。
充葉がなんでも許してしまうその双眸がみてきた。影が出来るほど長い睫毛。人工的にあげたものだと知っているのに、充葉の心臓は鷲掴みにされる。グロスが塗られた唇が、弧を描きながら、舐めるという行動を再開する。

「おまえ、よくそんな気持ち悪いもの、舐められる、な」
「おいしいよぉん」

ジルからしてみれば、充葉から分泌される体液はこの世のなによりも美味しいものなのだ。
それに、ジルからしてみれば、充葉のこの言葉ほど滑稽なことはなかった。
ジルからしてみれば、充葉だってジルの体液を気持ちよく舐めて普段の理性的な顔が蕩けてしまうのに。
ジルからしてみれば、美味しいと言って舐めないと怒るくせに。
ジルからしてみれば、充葉はやはりとてもおかしく、面倒で、愛おしくて、自分のことを世界で一番愛している人間に違いなかった。

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