ジュラとピオ | ナノ




思い出せば俺の人生というのは三つ子の弟に振り回されてばかりだ。
兄の方はまだ良い。中学二年生丸出しな台詞のさながら、詩人かとツッコミたくなるような声を無視すれば、無干渉を貫き通せるのだ。
妹もマシだ。気が遠くなるような心臓に悪い悲鳴と、対人恐怖症かと呆れたくなる(実際、奴は対人恐怖症なのだが)怯え具合と、耳にタコが出来る恋人自慢を除けば、可愛くはないが異性として怖くもないし、妹として認められる。
問題は弟の方で、俺のトラウマはすべて奴が運んできたと言っても過言ではない。昔は俺だって、二次元の女の子以外も怖く無かった。むしろ好きだった子もいた。
あれは小学生の頃だった。クラスで人気者の武久祥子ちゃんと言った。確か、祥子ちゃんという名前だったはずだ。下手すれば良子ちゃんだったかも知れない。そんな曖昧な知識だ。とりあえず武久という名前は合っていたハズなので、武久で行くが、武久さんのことが好きだった。
惚れたきっかけは、俺が駆けっこをしている時、転んでしまい泣きそうになりながら奥歯をかみしめているとハンカチを彼女が優しく差し出してくれた。にっこりと笑った顔が可愛くて単純な俺は恋に落ちた。女子がまだ怖くなかった俺だったが、惚れた女へのアピール方法なんてもの分からなくて、父親へ意見を煽るとため息を吐きだされた悔しい記憶が胸の奥底へ沈んでいる。ため息はねぇだろう、ため息は。
父親の話は置いておくとして、不器用な俺は恋慕を伝えられることなく、武久さんと弟のジュラが、せせせせせセックスしているシーンを覗き見してしまいあっけなく終わった。空き教室で小学生が性行為をしていることなど、当時、餓鬼だった俺が考えられる筈もなく、冷房を勝手につけて涼んでやろうとかいうケチな考えが暴かれて罪が下ったのだと、今なら「いやいや、俺はまったく悪くねぇよ」と言えるのだが、困惑した頭はそう思った。エロ本だって興味がなく、年相応に夢精していた俺だったが、知識を持ち合わせおらずたまに来る気持ち良いのに恥ずかしいオネショとして処理していた純粋な俺に、二人の光景は衝撃的だった。異性を怖いと思うほどに。
もちろん、それだけじゃない。俺が女嫌いになったのは、またジュラが関係している。ジュラに振られたとかいう女どもの皺寄せが一気に俺へ押し寄せてきたのも原因だ。町を歩くだけで「ジュラくんの兄弟でしょう!」と罵声を飛ばされる。いや、兄は俺以外にもいるし、俺が兄だからってなんだっていうんだっていうのに、女どもは大人数で俺を責める。大人数になった女ほど怖いものはない。群れっていうのは勢いがあるからな。
俺が黙って女どもの言葉を「あ、はい、あーーそうですか」と聞き流せれば良かったのかも知れない。弟の不始末だと殴られてやる懐の広さがせめてあれば。事態は収縮していったかも知れない。けれど、残念なことに俺には忍耐はなく、責め寄られれば、恐怖も混じりあい、ブチ切れて女といえ手加減なく殴ってしまう。今は壁を殴りつけて撃退するという術を身に付けたが、とにかく、女相手にも暴力をふるってしまうのだ。不意打ちで現れ、喋りかけられるとともはや反射のように殴りつけてしまうのだから、性質が悪い。
女を殴るのはお前が悪いだろうという話だが、そもそも、ジュラさえいなければ、俺が女嫌いになることも、女を恐怖の対象だと見つめることも、女を殴る機会を設けられることもなかった筈なので、やはりアイツが悪いのだと決めつけても良いだろう。

「けど、ピオって俺のこと嫌いじゃないよね」

生意気な弟は平然と「いい加減、俺の名前を出すのやめろ!」と叱り飛ばしているにも関わらず告げてくる。
怒気をはらんだ声で「ふざけてんのか!」と返したが、お得意の食えない表情を浮かべられた。


「どうでも良い人間だったら、名前だって覚えてないでしょう。初恋の子の名前すら覚えてないんだから。やっぱり俺のこと意識してるって」


意識とかいう問題じゃねぇだろうと! 怒鳴りつけると、なし崩しのように俺へ迫ってくる。冗談はやめろ! と言いながら、喧嘩になって、服をぼろぼろにしながら台所(安全地帯)へと逃げ込んだ。



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