ナリと美貴 | ナノ



私はとても貴方に優しく接したいのですよ。ナリは目を細めながら美貴を見つめた。視界に映った美貴の姿は相変わらず美しいの一言で片づけられない。灰色だった世界に、彩を与えた人物は、今日も自信なさげに眉を顰め、項垂れている。
ナリがどんな言葉を吐き出してもいうことを聞かないあたり、強情な性格だということが見てとれて、ナリは内心、溜息を吐き出していうことを聞かない、信仰対象の髪の毛を掴み殴り倒して這い付けばせたい衝動が胸の内を襲うが、テンプレートとなっている笑みで誤魔化した。
美貴の自由奔放で、口に出している本音と内心が違っていたり、自己評価が低かったり、けれど我儘で面倒な所を愛してはいるが、鳥籠の中にいれた愛玩動物がいうことを聞かないと、心中は穏やかではない。焦る気持ちが胸の中に湧きだし、額から冷や汗が流れるが、同時にこれが「焦り」という感情だとわかり楽しくもある。面倒なところも含め、愛しているというのは、美貴が自分に与える知らなければ楽に生きてこられた感情の数々にひどく興味を抱くことがあるからなのだろう。

「美貴様」

変わらずに口角をあげ、美貴の名前を呼ぶ。美貴は相変わらず不機嫌そうだったが、友人である林檎がアイスクリームを買い与え、それを口に含んだことにより機嫌が幾らか穏やかになったようだ。単純なところもあるので、ただたんに、アイスクリームという美味しい食べ物を食して今まで病んでいた気持ちが、一時だが、どこかへ飛んでいったからなのだろう。
美貴はアイスクリームを差し出し「ああ、ナリさんも食べたかったんですか」と言ってくる。美貴の唾液が含んだものなら美味しいと味覚は反応するであろうから、有難く頂戴しようと、舌先を向けると「あ、食べかけなんて嫌ですよね、すみません」と明後日の方向へ走り出してしまった。
ナリはこういう時、今まで自分の中で保たれていた、理性がぶっ飛び、屋外の施設であるにも関わらず、自分と美貴以外の対象を壊して歩きたくなる。おそらく、今まで知らなかったが、自分という人間の本質は穏やかではなく、荒立っている野蛮な一面を持っているのだろう。

明後日の方向へ歩き出したはずの美貴がアイスを二つ持って帰ってくる。ナリはにっこりと、通常の顔を見せ、美貴から手渡されたアイスを受け取った。

「ナリさん」
「ありがとうございます」

美貴の唾液がついていないアイスは冷たくて甘い成分を孕んでいたが、美貴が真横で満足そうに微笑んでいたので、ナリの心も満たされていた。心を巣食う鬱屈とした感情が消えてなくなっていく。
しかし、こんな一時の至福を味わうだけでナリは美貴を逃すつもりはなかった。この幸福を手に入れるために、自分がすべき策略を練りながら、ああ、やっぱり彼の両親が邪魔だという結論に行き着いた。


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