樹とたすく | ナノ




特別に話してあげる。
俺は心が狭い男だから、たすくの身体を蝕む病原菌にさえ嫉妬するんだよねぇ。愛しい恋人のなかに自分以外の存在が根を派って、細胞を食い尽くす害虫のように跋扈しているのだから、仕方ないでしょう。息を荒げて、二酸化炭素を排出するその口だって、空気中に撒き散らした唾だって、たすくから排出され、一度たすくと一体化すれば、それは俺のなんだから。
俺の所有物に他の生き物が巣を張るなんて、それはもう許しがたいことなのだ。自分でも心が狭いっていう自覚はあるよ。世間一般的なものに当てはまらない気持ち悪さがあるってことも。けど、そんな良心の呵責を持ったところで生きていくのに邪魔なだけだから、幼い時に捨ててきた。
俺はたいそう嫉妬焼きで、たすくと付き合うようになれるまでは特に大変だった。たすくは可愛いから。いや、俺以外から見て、狸みたいな間抜けな顔が好かれるなんて勘違いはしていないよ。不細工でしょ、たすくって。けど、愛しくなっちゃうでしょ。結局、人間なんてものは内面なわけ。外見も大事だけど、見栄えする奴が年を老いた時に残るものを考えてみなよ。人間の美しさなんて、一瞬しか持続しないんだからさ。若い頃は容姿に騙され続ければ良いけど、皺だらけになった時、容姿だけで生きてきた連中に残るものなんて、無いわけ。最終的に行着くのは、そいつの人間性で、それに付随するものしか、世の中は与えてくれない。だから、たすくは世界一可愛い。考えなしで生きていて他人の意見に騙されてしまいそうな所とか。かと言って自分が譲りたくないものを守り抜く頑固さとか。無条件に他人へ身体を任せてしまう所とか。ああ、警戒心が薄くて嫌になるね。特に最後の魅力的なところに上げた例なんて、厄介なもので、普段、迫害を受けて心が穏やかじゃない連中は勘違いしてしまう。もしかしたら、この子は俺のこと好きなんじゃないかって。豚が夢見てんなよって感じだけどさ。たすくは可愛いから夢みちゃうんだよね。
冷静になって考えてみてよ。嫉妬焼きで、病原菌にさえ殺意を抱く俺が、たすくにそんな邪な気持ちを抱く連中を放置していると思う。
駄目だよね。思うだけでも。願うだけでも。たすくのことを考えて、たすくの為に動ける男なんて、俺一人いれば十分でしょう。

だから67回。横恋慕を抱く男を社会的に抹殺してきた。俺がさぁ、直接手を下したとか勘違いしないでよ。俺、暴力は嫌いなんだから。無理無理。俺に出来ることなんて、ナイフで相手の横腹を突き刺して抉り出すことくらいだけど、直接、手を下してなんかはいないよ。
人間を社会的に抹殺しようとして、物理的に殺すんじゃなく、遣り方なんてたくさんあるんだよ。例えば、このぺらぺら動く口を使ったりしたら、心なんてもの簡単に壊すことが出来る。
「君が思っているより、君は不細工だよ。化粧で誤魔化せると思った?肌の荒れから見ても不細工だってわかるよ。豚みたいだね。へぇ、なに癇癪を起こしてるの。なんなら他の人に聴いてあげようか。ああ、そういえば君って○ーーで○ーーらしいじゃない。○は○で○○○○なんでしょう。○○だってしってた。生きてる価値なんかないんじゃないかって、どうして俺に聞くのさ。分かりきってると思ってたよ。下らないことで悩むくらいじゃ生きてても死んでても変わらないんじゃない。ほら、死ねよ、いますぐ死ねよ。死ね、死んだら、死んじゃったら。家から出てくるのやめたら。ああ、そうだ君が好きだった、俺のお兄ちゃんだけどさぁ、君のこと覚えてないって。え、なんで引き留めてくれるって期待してるの。あははは、早く墜ちれば」




みたいなことを言ってね。堕ちる奴もいれば、死ねない野郎もいるけど。ほら、直接手は加えてないでしょ。俺だって逮捕されるの嫌だもん。万が一暴かれちゃっても、俺は冗談のつもりだった、とか言いながら素直に謝れば許して貰えるよ。
え、なんでって、それは俺の家庭は有名人ばかりで、俺自身も有名人で、俺の顔が他より良いからだよ。
さっき、顔じゃないって言ってたって?
あはは、なに言ってんの。君程度の顔と俺の顔が同列なわけないじゃん。身のほど知らずだね。おもしろい!今の冗談良かったよ。え、君って自分をそんな過大評価してるの。自己分析やり直した方が良いよ。そっちのがオススメ。
まぁ、はじめから君が身のほど知らずってのは知ってたよ。
さてさて、病原菌にさえ嫉妬する俺がたすくに触れて、たすくのことを間抜けだと馬鹿にして、今にも泣きそうな顔にした奴を許すと思いますか。
大丈夫、君のことは、調べてきたから。君がなにを嫌いなのか、悔やんでいるのか。君のコンプレックス、家族構成。するっと、まるっとお見通しだよ。
人間が言葉で死ぬか、しっかりと味わってみようか。

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